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蘭癖高家  作者: 八島唯
第2章 江戸を震わす狐茶屋
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罠と獲物と

 畳に転がる徳利。数人の男たちが痛飲していた。

 無理もない。高山乗元の命令で江戸市中をくまなく捜索させられていた、旗本の次男坊たちである。

 行方をくらました『多鶴』を捕まえるべく駆けずり回っていたのだが、成果は全くゼロであった。

 しょうがないことである。これと言って取り柄のある者たちではない。岡っ引きの真似事などしたことはないのだ。しかし、手がかりの一つでも見つけなければ乗元の側近たちに激しく叱責される。それがため、捜索する風をして昼間から飲み明かすのが常となっていた。

「そもそも、あの女よ。どこかで野垂れ死んだのに違いない」

「今更、あ奴を捕らえていかなることか。蘭癖が邪魔なればいっそのこと、叩き切ってやれば良い」

 そう言いながら酔った手で脇差しを杖に立ち上がる一人の男。

「そういう計画もあるらしい。実は側近の茂寄田どのから聞いたのだが、蘭癖めを襲うという――」

 男の声は突然途切れる。人の気配。

 ふすまがそっと開き、女中らしき人影が現れる。

「お酒をお持ちいたしました」

 透き通るような女性の声。手には盆を持ちながら。

「女中か、驚かせるな。そこに置け――」

 じっと女中を見つめる男。思わずつばを飲む。まるで絵画から抜け出たような美女。年の頃は二十半ばくらいだろうか。こんな料理屋にはもったいない限りの逸材である。

「こちらにこい。酌をせよ」

 女中はちょっと戸惑った風を見せるも、すすと男たちの側に近寄る。

 突き出された酒坏に酒を注ぐ。その造作もまた、魅力的で思わず男たちは目を見張る。

「侍様たちは、どちらのご家中のかたで」

 女の問に答える男。

「我らは直参旗本。いずれは幕府の要職につかんとする若者ばかりよ」

 女は感嘆の声を上げる。

「そのような方にお会いできるとは、ただただ感激でございますわ。ささ、もう一献」

 褒められて悪い気はしない。一献、さらに一献と酒は進む。

「ところで」

 いい気分になったところで女中が切り出す。

「そのような高貴な方であれば少しご相談に乗っていただきたいことがあるのですが」

 ほう、と男たちの中で一番上座に座っていた反応する。

「おかみのお願いか。ただ我らも忙しい身ゆえ、なかなか」

「その御礼は何なりと。いかようにでも」

「いかようにでも、か。二言はあるまいな。武士を使う代はそうそう安くはないぞ」

 男たちの眼がギラリと光る。それは獲物を狩る、肉食獣のように。

 そんな視線には構わずに女中は口を開く。

「実は困ったことがありまして――」

 女中はゆっくりと話し始める。

 その懐には太い十手を忍ばせながら――

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