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蘭癖高家  作者: 八島唯
第2章 江戸を震わす狐茶屋
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内なる外面

 多鶴はわが目を疑う。

 たしかに背の高さは平左に近いかも知れない。とはいえ、体つきも顔つきも全く持って別人であるように思われた。

「歌舞伎には女形というのがありますよ。それほど難しい技術ではござんせん」

 くちに袖をやり微笑む平左。仕草はどうみても女のそれである。

「外見は工夫によっていかにでも変えられまする。人々が褒める美人などはその化粧や振る舞い、そして衣装で大体はカバーできますのでねぇ」

 そう言いながらそっと坏を手にする平左。よどみないその動きは。それはまさに女性のそれである。

「街中を捜査しておりますと、黒羽織では色々不都合もございましてな。そのための岡っ引きなのですが、連中自体が犯罪に手を染めていることも珍しくないこのご時世。結局信じられるのは自分の目だけということになります」

 そう言いながら平左はそっとちろりの酒を多鶴に注ぐ。緊張しながらそれを受け取る多鶴。平左はさらに続ける。

「変装して捜査、が結構有効なのですが下っ端同心といえどもメンツがある。おいそれと町民などに身をやつして捜査するのは卑怯という輩もおりますに。それならいっそ、想像もつかない『女』にでも変装してしまったほうが思い切りもいいと言うもので」

 平左の姿を多鶴はじっと見つめる。

 よくよく考えると、たしかに普段の平左は整った顔立ちの侍であった。なんとも言えぬ陰気な雰囲気がそれを台無しに、いやむしろ駄目な方向に向けている感もあった。そもそもの地があるのである。そんな感じで多鶴は納得しようとつとめた。

 それに気づいたのか、平左が口を開く。

「何度も言いますが、外見は努力によって変えられます。内面の能力に応じてですが。逆に結構多いのは外面に引きづられて自分の内面を曲げるもの、もしくは勘違いするものです」

 ふう、と一息平左はつく。

「大身の旗本に生まれついた者。俸禄も位も自分の力で得たものではないに、それを自分の力だと勘違いしてしまう。わちきが女装して自分が女だと思いこむくらいに、滑稽なことですわ。外見が人を作ることは否定しませんが、それはあくまでも最初だけの話。中身がきちんとした人間はどんな外見だって使いこなせるものですわ」

「平左殿はそういう人間であると」

「わちきは」

 苦笑しながらそうもらす。

「捜査のためという限定付きです。うまく外見で人生までわたり歩けるわけじゃござんせん」

「――私に、男装をやめろという意味にも聞こえたが」

多鶴はなんとなく感じていた。自分自身に平左が何か伝えたがっているのではないかと。

「多鶴さまに?そんな失礼なことは、あくびほども考えていません。そう、そうならば一つ試してみませんか。外見と内面を見つめ直す機会ということで――」

 悪い予感を感じる多鶴。それはすぐに当たることとなる――

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