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蘭癖高家  作者: 八島唯
第2章 江戸を震わす狐茶屋
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平左との待ち合わせ

 雑踏の中の街中。浅草は人の出が多い。昼ではあるが。酒をあおる人の姿も見える。

 キョロキョロとあたりを伺う多鶴。普段の総髪に笠を被りながら、侍の風体で探りを入れる。

 乗元が何を企んでいるか――その捜索と言われても正直何をなすべきか見当もつかない。

「そういうことなら......おまかせを......」

 平左は町同心。このような企ての捜査にはたけている。統秀に忠誠を誓ったどうし、信用すべきところではあるのだがいまいち信じきれないところがあるのも事実である。

 はあ、とため息をつくと頬を両手のひらで叩く。目を見開きまた歩き始める。

 目的の小料理屋についたのは夕方のことである。

 二階に案内され、刀を畳の上に置く。

 疲れたな、と声にならないつぶやきをもらす多鶴。

 ここで平左と落ち合う約束になっていた。

 再び平左のことを考え始める多鶴。

 手取り足取り、銃の扱いを教えてくれたのも平左である。その指導は理にかなっており、多鶴はあっという間に凄腕の狙撃の技能を身につけるに至った。恩人と言っても過言ではない。その能力にも信を置いている。

 ただ多鶴はうまく言葉にできないが、『感覚的』な部分で平左を受け入れられないのだ。

 何故か気分が落ち込む。自分の未熟さか、それとも自己嫌悪によるものか。

「失礼します」

 女性の声。どうやら酒とさかなを運んできたらしい。

 畳の上にそっとちろりをのせた盆を置く。小皿にはいかと芋の煮物がもられ、いかにもうまそうである。しかし、あまり食欲がない多鶴。会釈をすると再び、目を閉じる。

 しばし時間が流れる。

 ふと顔をあげるとそこには先程の女中が正座していた。

「......?」

 こちらをじっと見つめながら、微笑む。

 年の頃は二十歳そこそこだろうか。若さよりも、整った美しさを感じる女性である。自分とは全く逆の容姿といっても良い。

 そっとちろりを取り上げ、酌をする風を見せる。

「酒は、よい。下がって良いぞ」

 多鶴はそう下を向きながら答える。

 しかし女は去ろうとしない。

 自分のことを男性だと思っているのか。なにか気があるのか。いずれにせよ面倒なことである。

「これから人とあう。席を外せ」

 ああ、と高い声をもらす女。

 そして自分の盃に酒をつぐと、それをきゅっとあおぐ。

「それなら、心配ござんせん。眼の前におるでないですか――待ち人が」

 女の思いがけない一言。

 はっとして、多鶴は女をじっと見つめる。

 しかし、そんなことが――

 この女があの陰気な、気持ち悪い平左であるはずが――

「変装でございます。多鶴、さま」

 視界がぐるぐると回る多鶴。あまりの出来事に、頭が混乱して――

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