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蘭癖高家  作者: 八島唯
第2章 江戸を震わす狐茶屋
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一撃

 後退りする盗賊たち。ゆっくりと両手に持つ二本の刀を揺らせながら、統秀は縁側に近づいていった。

 総髪が背中に触れてなびく。左手のいやに細い刀と、右手の太い太刀があまりにも異質である。統秀の顔にもまるで芝居のような化粧が施されており、月のあかりに照らされたそれはまるで舞台の上を見ているようであった。

 たまらなくなった盗賊の一人が踏み込む。抜刀して刀の先を眼下の統秀に突き立てようとするが――左手の細い刀がその刀を絡め取る。姿勢を崩す盗賊。それを細い剣でとどめを刺す。音もなく倒れる盗賊。それを見て盗賊一同が硬直する。

「南蛮の細剣。いかなる剣撃も受け流し、そして刺す。この国の剣術には無き作法である」

 首領らしき男が合図をする。奇怪な高家と侮っていたが、腕は確からしい。なれば、一斉に押し包んで葬るのが上策――

 庭に飛び降りた二人の盗賊が両方から統秀に挑む。

 細い剣で一の刀を絡め取り、二の刀は太刀ではたき落とす。

 二刀流は単なる曲芸の剣術にあらず。

 態勢を崩した二人は同じく、細剣の突きと太刀の払いによって地面に倒れ込む。

 相手は首領ただ一人。じっと頭巾の下から統秀を見下ろす首領。いささか、腕に覚えはあるらしい。縁側にいるという高さの有利さを活かすべく、じっくりと間合いをはかっていた。

 一方統秀は、涼しげに二本のものをぶらりとぶら下げ首領を見つめる。

 しばしの沈黙――

 それを先に打ち破ったのは首領の方である。

 大上段に刀を構え、体躯ごと空中にその身を翻す。

 一閃にすべての力を込め、統秀の刀ごとへし折って勝負をつける算段であった。

 しかし――

 月の光を切り裂くように、大きな音が響き渡る。ばーんという乾いた音、そしてそれに続いてどーんと大きな音が。

 縁側を背にするように、その巨体を仰向けにする首領。手には刀が握られているものの、わずかにぴくぴくと動くばかりである。

 その額には――黒い穴が空き、そこから一筋の赤い筋が流れ出て縁側の床を彩り始める。

「よき腕よ。多鶴どの」

 そう言いながら、刀をおさめる統秀。

 視線は庭の松の木の上へと移動する。

 木の上のその影のところに、小さな人影がうずくまる。

 黒い衣装に身を包んだ、多鶴。その手には細く長いものが筒から白い煙をたなびかせていた。

「僅かな修練の時間でその銃を使いこなせたのは、そなたの才能であろう。多鶴どのは自らの力にて盗賊共を撃退した。自信を持つが良い」

 月を眺めながら統秀はそうつぶやく。

 未だに銃から手が離れない多鶴。先程まで何でもなかった指先が震えるのを感じた。

 この日、宮坂家を襲った盗賊たちはすべて、たった三人の待ち伏せにより討ち取られたのであった――

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