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蘭癖高家  作者: 八島唯
第2章 江戸を震わす狐茶屋
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主従の関係

「一色様はなぜ、私を信用してくださるのですか」

 多鶴ははっきりとした声でそう、問う。

「一度はお命を狙った身、さらになにか信用されるべきなにかがあるでもなし」

 今度は少し戸惑い気味に続ける。

「人は、打算では信用を勝ちうることはできない」

 統秀はそう言いながら、上を向く。がさがさと緑の葉が雨に濡れて揺れる。偶に一滴の水が顔にかかる。それをそっと指で統秀は拭う。

「信用は共感より始まる。共感とは理解できること、そしてそれに心を動かされることだ」

 さらに統秀は続ける。

「多鶴どの。貴殿はおなごの身でありながら、一家の責を一身に背負っている。そのために、非道なことにも手を染めるに至った」

 目付、高山乗元にそそのかされての統秀の暗殺。申し開きもできない事実である。恨まれてもしょうがないことを、統秀本人がこのように理解しているのは意外の念を感じえない多鶴であった。

「私も同じだ。自分が望まぬとも、『家』の呪縛に取り憑かれておる。東照大権現様が命じた遺訓を果たさなければならぬ、一色家という重荷をの」

 眼の前の人は江戸でも名高い『蘭癖高家』の一色統秀である。世の人々の喝采を受けているはずの人物が、何やら鬱屈とした感情を抱えていることに多鶴は複雑な思いを巡らした。

 自分と同じ――何が同じなのか。自分のような貧乏旗本の家と高家ではあまりにも境遇が違いすぎる。

 多鶴は目を閉じうなずく。

 自分の力では今のところ、統秀の本意をうまく理解することはできなさそうだ。しかし、統秀が多鶴を助けてくれたのは、彼の本心からであることは疑いない。

 ならば、それに答えるのが部式の生き様であろう。

 統秀の前にひざまずく、多鶴。頭を下げ、目を閉じる。

「一度はお命を狙った身、それを許していただいた上にこの待遇。宮坂多鶴、一身をあげて一色様に忠誠を誓う所存に――」

 一気に口上を述べようとした多鶴であるが、疲れからかうまくいかない。ところどころかみつつもなんとか一斉に述べた後、統秀がほほえみを返す。

「――そうか、この間のわたしの誘いに応えてくれたということだな」

 統秀は腰のものに手をやり、それを差し出す。

「出がけとて、大したものはない。この脇差しで良ければ渡そう。主従の誓いのあかしだ」

 脇差しを差し出す統秀。キョトンとしてた顔の多鶴は、姿勢を正し両手でそれを受け取る。

 この脇差しは、多鶴がその生命尽きるまで彼女の手に握られることとなる――今はただ、この関係の始まりに過ぎなかったが――

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