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蘭癖高家  作者: 八島唯
第2章 江戸を震わす狐茶屋
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独眼竜の野望

 多鶴を引き連れて統秀は馬をめぐらす。他に伴のものはいない。細い馬一頭がようやく通れるヤブを抜け、切り通しを抜けようやく足を止める。背後で同様に手綱を締める多鶴。腰には二本のものを指し、戒めも完全に解かれていた。

 多鶴は正直不思議であった。

 如何に女とはいえ、なぜ自分の命を狙っていた者に対して統秀はここまで寛大なのかを。統秀の家臣たちもそれに従うばかりである。不思議極まりないことである。

 さらに、統秀は多鶴が江戸に戻ることも許してくれた。

 ただ、その前に一つ見せたいものがあるということで馬を渡され、ここに連れてこられたのである。

 統秀の背中を見る多鶴。馬にまたがり、その背後は全く無防備のように見えた。

「こちらに、来なさい」

 はっ、とする多鶴。まるで自分の気持ちを見透かされたような気がして、慌てて馬をめぐらす。

 眼の前には海が広がる。いつの間にか結構な高みに登っていたらしい。足元から波の音が聞こえる。崖になっているのだろうか。その下を馬鞭で統秀は示した。

 崖の下には見えにくいが壁にくぼみが作られ、それを取り囲むように港のような堤が築かれていた。明らかに人の手によるものである。

「戦国の世、奥州に伊達政宗という大名がいた」

 聞いたことがある。隻眼の、独眼竜と名を馳せた外様大名である。

「奥州の覇者として覇を唱えるも、太閤秀吉に逆らい所領を失った。その後は東照大権現に臣従したが、一方で秘密裏に外国船を作りはるか南蛮まで使節を遣わしていたらしい。領地の奥まった岬で西洋船を一から作り、無事その使節を南蛮まで行かせたそうだ。南蛮の切支丹の法皇にも謁見したことが記録に残っている。まさに戦国の気概というべきか。場合によっては徳川を倒し、自分が天下を取ろうというその布石でもあったのかもしれない。この国にもかつてそのような武将がいた。この海の向こうに目を向けていた、武将が。たった一つしかない目で、な」

 じっと秘密の港を見つめる多鶴。ここはそのひそみに倣い、外国船が逆に秘密裏にやってくる港なのだろうか――。角度的にここからしか秘密の港を確認することはできなさそうだ。海側からもうまい具合に崖が港を覆い隠しているようにも見えた。当然この存在を知っているのは、統秀とその家臣たちだけであるはずだろう。そうでなければ――

「私に――なぜこのような秘密を」

 腑に落ちない多鶴。どうしても自分を信用する理由が、理解できないからだ。

 その質問に統秀は無言で馬を返す。

 少し考えた後、多鶴は統秀の後を追う。再び来た道をたどりながら――


 二人が一緒に江戸へと旅立つのはその二日後のことであった――

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