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蘭癖高家  作者: 八島唯
第2章 江戸を震わす狐茶屋
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もう一つの『出島』

 板張りの広間の上座に控える統秀。黒光りするその床は、重々しい時間の積み重ねを感じさせた。

 その上には数枚の書状が広がる。細かく書き込まれたそれは、文字だけではなくなにやら地図のような模様も見える。

 その左右には総髪の体格の良い男性があぐらを組み、控えていた。武士とも農民とも言えぬ風体。眼光は激しく荒々しさを感じるものの、統秀に対して絶対の忠誠を誓うがごとく皆頭を垂れている。

 まるでこの部屋だけ戦国の世の場面を再現したかのようである。日焼けした武士たちは、まるで海賊が謀議をするがごとく、統秀の言葉を待っていた。

「――今年の船は」

 統秀が続ける。

「いかなる情報をもたらしたのか」

 はっ、と一人の武士が答える。

「現在欧州にて、革命が進行せり。震源地は仏蘭西フランス。国王たるぶるぼん家のるい一六世はその権力を失い、農民の持ちたる国になりつつあると」

 ヨーロッパ情勢を事細かに報告する武士。この時代、幕府に提出された阿蘭陀風説書くらいしか体外情勢を知るすべはない。しかし、ここにはそれ以上の情報がもたらされていた。

阿蘭陀オランダも政情不安にて、いずれは仏蘭西フランスの革命勢力に潰されるだろうと」

 うむ、と統秀は頷く。

 すべては英吉利イギリスよりもたらされた情報。ここには幕府も手に入らないような様々な情報や物資が集積されていた。

 三浦半島の奥まったところにある漁村。そこでは屈強な漁師たちがほそぼそと漁を営んでいる――というのは表向きの姿である。

 いたるところに砦化された洞窟があり、そして湾の奥まったところには千石船も入稿できるような港が密かに築かれていた。

 その港に一年に一回、船が外交する。

 地球の裏側とも言える英吉利イギリスの船。それが大量の文物や最新の情報を満載してこの港に入港するのであった。

 当然、幕府の法に反する大罪であることは言うまでもない。

 しかし、これは初代家康の命じたことであり統秀はその後継者としてそのつとめを果たしていただけであった。

「世界情勢はどんどん変化する。この国の安寧を守るためには、それを民衆には見せず一方で見識のあるものがそれを見極め政を進めることが肝要だ。そのための、英吉利イギリスとの交流である。これは幕府の法に反せど、東照大権現の遺訓に反するものではない」

 代々一色家はその家訓を守り、外国情勢の入手に努めてきた。そしてそれは情報に限らず、技術や文化にもそれは及んでいた――

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