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蘭癖高家  作者: 八島唯
第2章 江戸を震わす狐茶屋
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乗元の命令

 乗元は上座よりじろりとあたりを見下ろす。

 皆若い旗本の子息たちである。色々境遇に違いはあるが、現状に不満を持っている連中であることは間違いない。『自分はこんなに能力のある人間なのに、なぜ世の中にそれを活かせないのか』という高い自意識を持った若者。腕っぷしも強く、そしてその感情の激しさも人一倍強い。

 ぐいっと酒坏をあおる乗元。

 自分の野望には力が必要となる。権力、金そして名望。いずれも幕府において高位を目指すのであれば必要なものである。多くの旗本がそれを望み、多くのものはその途上で挫折を余儀なくされていた。

(自分は違う)

 この揺るがない自信こそが、高山乗元という旗本の一番の武器であったのだろう。自分は選ばれた人間であり、そしてそれにふさわしい地位を手に入れるのは当然のことであるという思い込み。実際に彼の能力は十分に優秀なものであり、またその野望にむけて着実に邁進していた。

 しかし、乗元はあることに気づく。

 それはもう一つの力、『私兵』の必要性を。

 どんなに高い地位を有したとしても、ちょっとした政変であっという間にその地位を失うのはよくあることである。あれほどこの世の春を謳歌していた田沼でさえ、没落するときはあっという間であった。なればこそ――地位に関係なく自由に動かせる『私兵』の存在は大きい。政敵を事前に消すことも、政変を武力で抑えることも可能だからである。

 その『私兵』が目の前の旗本の次男三男であった。

 彼らの面倒を見るとともに、『教育』を与える。

 貴殿らこそが正当な幕府の旗本の後継者であり、乗元に直接の忠誠を誓うことによって、正義は実現されると。

「犬には犬の夢がある。それをかなえてやることは為政者の功徳というものであろう」

 そう乗元はうそぶく。

 まずは、蘭癖をなんとかすること。それが肝要である。

 その後は定信。そして自分がすべての権力と名望を手に入れ老中筆頭として――

「あの者は――」

 酒坏で奥に座っている若者を指差す乗元。そばにいた側近が眉をひそめて答える。

「宮坂と申す旗本にござる。いささか、さしさわりがございまして」

 うんうん、と頷く乗元。

「さしさわり結構。あの者を呼び出し命じろ」

 乗元は扇を広げながら側近に耳打ちする。

「――蘭癖を見張れ。そして、機会があれば――」

 静かにうなずく、側近の男。

 遠くに座る若い男は酒も飲まずにただ、庭の方を見つめていた――

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