死にたい俺とハイジャック
奇妙な世界へ……………
俺は染谷廉。死ぬ前に大罪を起こそうと思う馬鹿者だ。
俺は小さい頃から親に支配されていた。教育はすべて勉強で、友達と遊ぶ事や娯楽に触れる事すら出来なかった。なので、親父の読んでいた新聞やお袋が連絡するための携帯が羨ましくてしょうがなかった。そして、それらに触れようとすると、両親からの『躾』として外に放り出された。
それで俺は親を憎んでいた。なので、俺は高校生1年生の時、家出をした。
無論、俺は非行に走った。暴行にカツアゲに窃盗…勿論、少年院に入られる事もしばしばあった。
それから俺は大人になった。無論、金は無く、家すらもない。俺の想像ではあるが、自分がもし就活ができても、未成年の時にやった犯罪のせいでまともな就活先は見つからないだろう。しかし、危険な事はやりたくない。本当に自分勝手だろう。
そんなある日の事。俺は唐突に死にたくなった。理由は知らない。でも何故か無性に死にたくなった。そして、俺は1つのことを思いついた。
(そうだ、ハイジャックをしよう)
そう思ったのは最後に人を支配したかった、所謂独占欲に近いものがあったからだ。
俺は直ぐに実行に移した。
俺はまず、手元に残った残り少ないお金を使い、100均で果物ナイフとそれを収められる小さなバッグを買った。
次に、俺は1番安いバスツアーに目をつけた。それは『函嶺温泉日帰りツアー』。俺はカツアゲで、金を集め、ツアー代の分を集めた。
それから数日後、例のバスツアーの日が訪れた。俺は果物ナイフを収めたバッグを身に着け、バスの中に乗った。
他のバスの乗客にはにこやかに話している老夫婦。『安くて良かったね』と言っている3人家族。そして、サングラスとマスクを付けた男が、俺の隣に座っていた。
「それでは皆さん、バスを出発いたします!」
バスガイドの発言と同時に、バスは動き出した。
それから数分後、俺はナイフを出そうとした。その時だった。
「てめぇら!全員動くな!」
「!?」
俺は唐突な叫び声で驚き、隣を見ると、そこには牛刀を持った隣に座っていた男が立っていた。
「今からこのバスは俺が仕切る、勝手な事をすると、コイツで切るぞ!」
男は牛刀をこちらに見せて、威嚇をしている。
俺は思ってもいなかった。もしかして、自分の他にハイジャックをしようとする人間が。
「おい!運転手!」
「は、はい…」
「今すぐ、近くのパーキングエリアに降りろ」
「は、はい…」
若い運転手はびくびくしながらも、近くのパーキングエリアに降りた。
すると、男はバッグの中からレジ袋を取り出した。
「お前ら、この中に携帯を入れろ。入れねえと殺すからな」
「は、はい…」
皆は袋の中に携帯を入れていった。
そして、男は俺にも近づいてきた。
「てめぇ、早く入れろや」
「い、いや、携帯は持ってないです…」
「嘘つけや!てめえ見たいな若いやつが持ってねぇ訳無いだろ!」
「ほ、本当なんです!」
「……本当なんだな」
「は、はい!本当です!」
「チッ…しょうがねぇな。見逃してやる」
俺は内心ホッとした。もしもバックの中を見られたら、ナイフを持っていることがバレ、殺されてしまうかもしれないからだ。
「ちょっとトイレ行ってくるからなぁ。おい運転手!」
「は、はい!」
「この牛刀持ってろ。後、俺が来るまで誰も入れさせるなよ」
「わ、わかりました…」
そして、男はここを出ていった。
それから数分後、男は意外と速く戻ってきた。
「よし、次は神奈川の咲崎刑務所まで送れ!」
「えっ!刑務所までですか?」
「あぁ、そうだよ…早く走らせろ!」
「わ、わかりました!」
そして、バスはまた高速に入った。
「そうだ。まだ自己紹介してなかったなぁ…俺は手塚実。関東で各地で根城にしている半グレ集団『ジャックリッパー』の東京担当、総長だ!」
俺は唾を飲んだ。まさか、こんな奴が来るなんて驚いたもんだ。
「俺の目的は神奈川担当の奴らを解放するためだ!彼らは最悪にも刑務所に入れられてしまった。なので、東京担当の俺様があいつらを脱獄させるのだ!」
手塚の紹介が終わると、1人の男が手を上げた。
「あ、あの…」
「何だよ?」
「と、トイレに行きたくて…」
「なんだよ、トイレに行きてぇのか?おい!」
「は、はい!」
「また近くのパーキングエリアに降りろや」
「りょ、了解しました!」
そしてまた、バスはパーキングエリアに降りた。
「早くしろよ。3分後に来なかったら、この中の奴の中の1人を殺す。」
「は、はい!」
そして、男はバスを出た。
それから3分後、男は来なかった。
「おやおや、来なかったなぁ。じゃあ、誰か殺すわ」
手塚はバスガイドの方に向かうと、牛刀を振りかぶった。
「や、やめろ!」
「?」
俺はいつの間にか大きい声を出していた。まぁ、自分は死にたいのだからこれでいい。
「てめぇ、死にてぇのか?」
「あぁ!俺はハイジャックしようとここに乗ったんだ!でもな、お前のせいで未遂に終わったんだよ!」
俺は何故か怒りが湧き、いつの間にかバックからナイフを取り出していた。
「ハッ!」
「ほほ〜ん…それで俺を殺るのか?おい!表出ろ!」
俺は手塚に言われた通り、バスを出た。
「てめぇは調子に乗ったから今からこいつで殺ってやるよ!」
手塚は牛刀を振りかぶった。俺は切られる寸前で避けた。正に悪運が強いと言うべきなのか。
「こ、今度はこっちの番だ!」
俺はナイフを持ち、手塚に突撃した。俺は死ぬ覚悟を決め、目を閉じた。そして、何かを刺した音がした。
「ぐ、うわ…」
俺は目を開けると、そこにはナイフを刺され、倒れた手塚がいた。
「ブ、ブラボー!」
「す、すげぇ!アイツ、やりやがった!」
俺は皆に表彰される。しかし、俺はこんな事をしたかったんじゃない。ハイジャックをして、死ぬ。それだけだ。それだけをしたかったんだ!
「ふざけるな…ふざけるなァァァ!」
俺は牛刀とナイフを持ち、二刀流になった。そして、俺はバスの中に突撃した。
「ウワァァァァァァァァァァァァ!」
バスの中には俺の叫び声と乗客の悲鳴が混ざった。
「遠野警部、事件の詳細、確認し終わりました」
「あぁ、そうか、どうだった?」
2人の警官、遠野と榊原が話し合っていた。
「どうやら、バスの中に乗っていた人達は全員刺殺されています」
「そうか、それで、犯人の方は?」
「それなんですが…運転席で亡くなっていました」
「運転席?おいおい、じゃあ、その運転手は?」
「はい。奥の席で亡くなっています」
「そうか」
「あと、バスの横で亡くなっていた、手塚という人は、持っていた携帯に『死にたい』と書かれていて、バス内の監視カメラでは『俺は半グレ集団のリーダーだ!』と言っていて、妄言の可能性が高いです」
「そうか、じゃあ、犯人の男が監視カメラの前で自分の喉を掻っ切ったのは…」
「はい。恐らくですが、その人も死ぬ前にハイジャックをしたかったんでしょうか?」
「そうか…お疲れ様。今日はもう帰っていいぞ」
「はい。では、失礼しました」
榊原はそこを去った。
「………死ぬ前にハイジャックか…俺もやりてぇなぁ…」
遠野がそうポツリと呟くと、拳銃を持ち、そこを去った。
読んでいただきありがとうございました……………