4章 天秤の星22―作戦を立てる―
はっと意識が浮上した。目の前にいるマルフィクが眉根を寄せてじっと俺たちを見ている。数回目を瞬くと、頭も起きた。
同時にどっと胸が大きく鳴って、体が熱くなる。
「ねえ、レグルス。天秤の神って今の状況を見たらどう思う?」
「そりゃあ、嘆くんじゃねぇか?」
俺もそう思う。だって、天秤の神は戦いを絶対に望んでいなかった。こんな、否応なしに戦いに駆り出され、見世物にされる風景なんて天秤の神は望んでなんかいない。
ひゅっと体温が落ちた。でも、それができてしまうほど、天秤の星に今、天秤の神の影響が薄い。頭にあのひからびた天秤の神の姿がまた浮かび上がる。力のない身体、意思の感じられない光を映さない瞳。生きてないような精気のなさを感じた。彼はもう天秤の星の民のことを諦めたのだろうか。あれだけ信じたいと言っていたのに。
でも、それも蛇使いの星が離脱した時だとすれば六千年も前の話。遠い過去の話だ。諦めてしまっても仕方ないかもしれない。でも、まだ希望はあると”確信”している。だって、双子の神のポルックスだって、六千年も過去に縛られても諦めなかった。だから、民と繋がれたんだ。だから、六千年の時は問題なんかじゃない。
問題なのは、今。天秤の神が沈黙してること。エスカマリさんに力を使わせていることだ。打開策なんて、思いつかない。でも……。
「マルフィク。俺、やってみたいことがあるんだ。エスカマリさんのところに行けないかな?」
エスカマリさんは今、大きな天秤を出した上に座っている。そこからヘレとスピカのやりとりを眺めているんだ。早く辞めさせないと、ヘレとスピカが危ない。
俺は目の前のマルフィクの顔を見た。俺とレグルスのやり取りでもう状況を察しているようで、肩を竦めてみせる。
「使える加護による……けど、いいぜ。サポートしてやる」
マルフィクが頷いてくれた。良かった。俺は今度はレグルスの方を見る。
「レグルス、たぶん時間がかかるんだ。その間にヘレとスピカを助けられない?」
「そうだなぁ。俺流でいいならやれるだけやってみるぜ」
レグルスは笑って親指を突き出した。任せとけとは言わないけど、どうにかしてくれそうな雰囲気でほっとした。
「うん!」
頷くと、レグルスはすぐに踵を返す。どうやら思いついたことがあるようだ。
「じゃあ、作戦立てッぞ」
「もちろん」
マルフィクと向かい合い、俺は天秤の神の話と打開案を話し始めた。