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4章 天秤の星16―リヒトメーア―

「どうしよう、スピカさん……力づくで逃げる?」

「いや、どうやらこの檻、加護の力を使っているようだ。ヘレと私では火力が足りそうにない」

「そんな……」

 逃げ道は塞がれたってこと!?

「この二人は別の星の加護持ちだからね! オッズは相当偏ると思うけど、挑戦したいヒトいるかなぁ? もし勝てたら、刑期は全部無しにしてあげてもいいのよ」

 アナウンスが流れる。観客はその煽りに沸いた。地響きのように地面が揺れて、腰が引けちゃう。

「おっと、ふんふん、一〇人、一三人……二十四人の候補者が出てくれたのね! 一斉にいこっか。刑期ゼロは早い者勝ちだよ~!」

 地面がせり上がって、二十四人の受刑者たちが各々武器を持って現れる。どう見ても一般の人と大差がない体格。数がいたとしても私たちは加護持ち、一般人に負けるわけない。

「メ―メ―、もこもこの束縛マリアロス・デスモス!」

 私は加護に指示を出す。メ―メ―が小さいもこもこに分裂し、襲い掛かってくる相手にぶつかる。そのままもこもこに包まれて相手はころんと転がった。修行をして成長はできなかったけど、技だけは私もいくつか開発したんだ。今回は、動きを制止する技。相手を傷つけずにすむからとても便利。

 零れた相手はスピカさんが手際よくのして行く。二十四人はすぐに戦闘不能になる。

「ふーん、戦闘不能にするだけなの。つまんなーい」

 少女は口を尖らせてぶーぶー文句言ってる。かちんと来た。殺せなんてそんな容易く言うもんじゃない。

「つまらなくてもいい。こんなことに命かけられても困るもの!」

 怒りのまま口をつく。

「でも、どうせ死ぬのよ? みーんな死刑囚なんだから。それならわたしたちを楽しくさせてくれた方が罪滅ぼしになるじゃない」

「だからって、無残な死に方をさせる必要ないでしょ!」

「わかってないなあ、あなたたちは今、同じ立場に立ってるのよ?」

 いつまでも平行線。

 業を煮やしたのか少女が何かを取り出した。注射器? みたい。でも、それが何かわからない。

「加護の力ってさ、強いのよね」

 柵まで近づくと、近くにいた囚人に注射針を刺した。何かを投与された囚人は、体がみるみる大きくなっていく。

「なに、これ……」

「ドーピングってヤツよ。まあ、加護の力が強すぎて数分後にはドカンだけどね」

「貴様! そんなものを使用していいと思ってるのか!?」

 スピカさんが大きくなっていく囚人に剣を向けて牽制しながら、少女にがなる。少女は肩を竦めて視線を周りの客席へと向けた。

「周りを見てみるべきよ」

 歓声が飛び交っていた。やれーだの、面白くなってきただの、言いたい放題。頭がくらくらする。同じ人が、加護の力で無理やり力を引き出されて、下手をしたら死ぬっていうのに、なんて嬉しそうな表情をするんだろう。ぞっとした。

 檻の天井まで大きくなり、影が台を覆うほど。大きな腕が振り上げられた。

「きゃっ!」

 スピカさんの方に振り下ろされて、地面が飛び散る。思わず顔を庇って、視界が悪くなってしまう。

 ドサっという大きな音に目を開ければ、巨体が後ろへと倒れ込み、スピカさんがその上で剣をその巨体の喉元に当てている。

「こちらの声は聞こえているか?」

「うああああううう」

 スピカさんの問いかけに、相手はしゃべれずに唸っている。

「言葉も理解できない状態なんて、いったい何をしたの!?」

「だーかーらー、加護を与えたの。疑似的にね」

 ぷくっと頬を膨らませて、少女は言う。

 加護を与えたって、どうやって? この子、神の力を手に入れてるの? だから、こんな余裕で私たちを遊びのように見下してるの?

 考えても答えがでなくて、息が浅くなる。じわっとした恐怖が足元からせり上がってくる。

「理解してよ。加護を液状化させて投薬させるんだ。耐性があれば加護の力を使えるようになるけど、耐性がないと力が暴走してそんな感じ。後数分の命かな?」

 私たちが答えなければ、業を煮やしたように説明された。胃の中がムカムカする。命を弄ぶ相手に、嫌悪感が積み重なる。

「人の命をなんだと思っているんだっ!」

「だからね、ソレらはもう死ぬだけなの。利用価値があるだけマシじゃない? なんなら、苦しまないように殺してあげた方がいいんじゃないの? だって、死ぬまでそこから下がれないもん」

 スピカさんの怒号も相手には効かない。どんどんとヘドロのような内容をまき散らしていく。膝が笑ってしまう。殺すなんて、私たちが、しなきゃいけないの? 指先まで震える。血が通わない。

「……そうだな」

 冷たい声で淡々とスピカさんは言った。その後に、ザシュっという剣で何かを切り裂いた音が聞こえた。

 スピカさんの方を見れば、血しぶきが飛び、巨大化した人間の顔を胴が離れていた。

「わぁ、やるねぇ」

 スピカさんは同時ずに、次々に相手を剣の動きで制し、躊躇なく切り裂いた。

「……これでいいのだろう。死体は外へ出せ」

 スピカさんの行動や、言葉に意味がわからなくて唇が震える。どうして、こんなことができるの? 別の方法はなかったの? それとも、何か意味がある?

 私は唇を噛んで、じっとスピカさんの行動を凝視した。

「わかったのー」

 少女は不満そうに口を尖らせながらも、檻の一部を開放した。スピカさんはそこへ死体を投げ込んでいく。

「乙女の騎士は案外あっさりしててつまらないの」

「そうか? よく頑固だ。と言われるのだがな」

 檻が閉まったところで、スピカさんは少女に笑って答えた。

「生命維持ではなく治してくれ、リヒトメーア」

「あい、解った」

 スピカさんの言葉に、彼女が持っている剣が光を放った。次の瞬間、檻から放り投げた人たちがむくりと起き上がる。手を握ったり、斬られたところをさすったりしている。

 スピカさんの加護が具現化した剣――リヒトメーアが回復の加護を使ったに違いない。よかった、殺された人はいない。スピカさんには考えがあったんだ……!

「な、なにこれ!?」

「貴様は、私の能力をまったく知らないようだな。死にたいのなら一度殺してやる。冥途の土産はくれてやれんがな」

 光の収まった剣を少女の方に付きつけ、スピカさんは高らかに宣言した。

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