4章 天秤の星11―双子の星の歴史―
マルフィクについて双子の星の本棚の前へと行く。
双子の星の年号を俺もマルフィクも知らないから、目安がつけられずに一冊一冊マルフィクと分担しながら本を見てくことにした。
俺は最新の一冊目をパラパラ捲るも、双子の神が星に竜巻を頻繁に起こしているため、牡羊の星のようにすぐには年代が遡らない。百年くらいは頻繁に竜巻を起こして星を破壊している表記がある。かと思えばあっさりと二千年前に飛んだ。その前は約三千年前に飛び、そこから徐々に記載が飛ぶ感覚が狭くなっていった。
要するに、六千年前の出来事が五百年くらいは糸を引き、それからは癇癪を起す頻度がだんだん減っていった。竜巻を発生させて星を破壊したあと、星の一部を再生して作物を作ると表記がある。その後人間が徐々に生活を戻す。を繰り返しているようだ。そんな感じの感覚だった。
ただ、異様なのは百年前にいきなり破壊行動が復活したことだ。一度、抜け出したはずの双子の神が再び荒れだした。俺が双子の星で見たジェミニの怒りは、たしかに片割れが殺されたことへの怒りだった。でも一度は落ち着いているって歴史が物語っているんだから、百年前に何かあったのかな……。
エスカマリさんは言った。「天秤の神は他の神々を通して、起こった出来事を記載しています」と。天秤の神が通してみた時に、双子の神が見なかった、知らなかったとすれば何かがあっても記載はされないんじゃないかな。
「オイ」
考え込んでいれば、マルフィクが声をかけてきた。どうやら、探していた記述が見つかったらしい。
俺はマルフィクが開く本を覗き込み、内容を確認した。「メブスタ村にて、レーピオスが双子の神カストルとポルックスを殺した」「カストルは不死であったため、殺されたが復活した」目で追ったけど、頭に入ってこなかった。
「レーピオス? マルフィクの師匠と同じ名前だね」
俺が気になった部分を復唱すると、マルフィクは顔を顰めた。黒い目が揺れていて、動揺しているのがわかる。
まさか六千年も前にマルフィクの師匠がいたわけがないでしょ。と言いたかったが、俺は彼をよく知らないから何も言うことはできない。
「……オマエは、神殺しについてどう思う?」
マルフィクは俺の言葉を拾わずに質問をしてきた。意外な内容に俺は目を瞬いた。だって、すぐさま力を使って過去を見せろってせっつかれると思ってたから。
双子の星でマルフィクは双子の神を殺した人間の気持ち、理由を気にしていた。神殺しについて、まだ心の中で決着がついていないのかもしれない。
「どういう意味?」
「……オレのことを批判しなかッただろ。オレは魚の神を殺したンだぞ?」
「だってそれは、事情があったし……」
マルフィクの場合、妹を助ける方法が地上にあったのに魚の星から出て行くことが許されなかった。妹を助けるために最終的に魚の神を殺してしまったのであれば、やむを得ないと思ったことを覚えている。
だから、マルフィクを批判することを俺はしなかった。
「事情があッたら殺してもいいのか?」
頭を殴られたような衝撃だった。マルフィク自身が自分のしていることに否定的な言葉を言ったこともだけど、何より神殺しを肯定しているのか。と責められたようだ。
「オマエはどッちつかずだよな」
付け加えられた言葉に俺は何も言えなかった。牡羊の神については憤りを感じる。同時にマルフィクの話を聞く限り、魚の神に対して俺は同情をしていない。スピカはマルフィクに対しても怒りを露わにしていた。それほどはっきりと神殺しを否定しているということだ。
俺は、たしかにどっちがいいかなんて、しっかりと考えたことがなかったのかもしれない。
「……何時、牡羊の力を使えるンだ?」
マルフィクが話を切り替えたので、俺は動揺する心臓の音を手で抑えながら、先ほどの内容や感情を頭の隅においやる。これから力を使うなら、余計な心配事を抱えてる場合じゃない。冷静でいなければ。
「今、今すぐにでも使えるよ」
「それは外から見てる人間に、力を使ッたッてわかンのか?」
「ううん。俺たちが過去を視るのは現実では一瞬だよ。過去を視た体感時間と、現実の時間は一緒じゃないんだ」
だいぶ落ち着いてきて、説明もスムーズにできた。
「……なら、今すぐ視せろ」
マルフィクの黒い瞳は鋭く光を放っていて、有無を言わす気がない。
「わかった。俺に触れてないと力が使えないから、どこか捕まってほしい」
返答もなくマルフィクの手が勢いよく俺の肩に乗る。俺は次の手順を口にした。
「目を閉じて、時期と場所を頭に思い浮かべる。曖昧だと別の過去に飛ばされることがあるらしいんだ。今回はほぼ知らない過去に飛ぶから、俺が力を使ったらマルフィクの人探しの力もちゃんと使ってほしい」
「やッてやる」
「じゃあ、行くよ。時間逆行」
俺も目を閉じて、力を発動させる言葉を唱えた。ぐっと引っ張られる感覚。ぐるぐるとする。目の前にいろいろな映像が飛び交っては消えていく。
ある瞬間、肩に置いてあるマルフィクの手に力が込められて後ろに引っ張られた。
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