4章 天秤の星9―牡羊の衣装―
ヘレとエスカマリさんが帰ってくる頃には、今後の流れのすり合わせが終わっていた。
俺とマルフィクはエスカマリさんと天秤の神の神殿へ行き、図書館に向かう。図書館では、双子の星で起こった神殺しの記述を探す。時間と場所を明確にしたら山羊の加護で過去を視る流れだ。ヘレとスピカ、シャウラは別場所で陽動をする。できれば人が多いところで警備兵を引き付ける役目だから、俺たちが行く神殿とは逆方向の住民が住む地区へ行くらしい。
「ヘレさんの準備できました~!」
エスカマリさんがヘレを連れて戻ってくる。
ヘレはおそるおそるといった様子で、エスカマリさんの後ろから姿を現す。真っ白な衣装に目を焼かれた。男性用のいしょうだけど、牡羊の星祭事に使われる白い羊の毛を使った衣装にそっくりだった。ヘレが牡羊の星で同じような衣装で踊っていたのを思いだす。すごく懐かしく思えた。あの時は僻みもあってよく見れなかったけど、白い衣装はヘレによく似合う。
「なんじゃ? アスクの恰好をするのではなかったのか?」
「そうしようと思ったんですけど、アスクさんの服って茶色とか白で目立たないじゃないですか。それだと衛兵になかなか気づいてもらえないかなと思いまして、天秤の星で伝えられている牡羊の衣装にしてみました!」
エスカマリさんがシャウラに説明してくれている。そっか、だから牡羊の祭事の衣装にそっくりなのか。
ヘレが手をもじもじさせながら俺に問いかける。
「変じゃない?」
「うん、綺麗だよ」
「そ、そっか」
うん。似合うと思う。でも、ひとつ気になることがある。俺はヘレの髪を見て頬を掻いた。
「でも……俺はいつものヘレの髪の色の方がいいな」
ヘレの髪はいつものふわっとした栗色と違って、俺と同じ赤毛の色をしていた。
「~~っ! 髪はわざわざエスカマリさんに染めてもらったのっ! アスクと同じ色は私に似合わないってこと?」
「ちがうちがうっ。なんか見慣れないし、ヘレって感じがしないな。って思って!」
顔を真っ赤にするヘレに俺は慌てて両手と首を横に振った。好みの話だから、そこまで怒らないでほしい……。
怒ってるヘレとは反対になぜかエスカマリさんがにこにこしながら涎を垂らし始めたんだけど、突っ込んだ方がいいんだろうか?
「ま、まあ、私じゃなくてアスクっぽくならないと意味がないから。誉め言葉ってことにしておく」
「うん、似合ってるよ」
ヘレが納得してくれてよかった。ほっと胸を撫でおろす。
「ヘレ、その恰好なら間違いなく警備兵を惹きつけられるだろう。エスカマリ、口元を拭った方がいい。私たちは神殿とは逆方向の住民が住む地区へ行くが、何か注意することはあるだろうか?」
スピカがヘレに一言告げて、すぐにエスカマリさんに今後のことを聞いてくれる。口元を拭ったエスカマリさんは、きゅっと顔を引き締めて質問に答えた。
「そうですね、警備兵も民間の人を巻き込みたくはないはずですので、人が多いところへ行くのが最善かと思います。ですので、住民街の大きな集会場へ向かうことをお勧めします。行けば大きな円形の建物がありますから、すぐにわかると思います」
「承知した。住民街へ出た後はそこへ向かおうとしよう」
「準備できたンだな」
待ちきれなくなったのか、それまで壁にもたれかかっていたマルフィクが身を起こした。
たしかに、これで準備は出来たわけだ。
「じゃあ、行こうか。ヘレ、スピカ、シャウラ、気を付けてね」
「そちらもな」
視線を合わせてお互いに頷きあう。
俺はマルフィクとエスカマリさんと、この女装した格好のまま天秤の神殿へと向かうため、部屋を後にした。