1章 双子の星06―その頃、牡羊の星は(ヘレ)―
緑豊かな土地で行われた祭りの跡で、一人の少女と羊の姿をした神は向かい合っていた。
「お願いします! アスクを捜しに行かせてください!」
少女は、高い声で必死に懇願する。
「そうは言っても、昨日から夜通し捜して見つからないんだ。これ以上捜したところで……」
「アスクは生きてます!」
羊が濁した言葉を悟って、少女ははっきりと自分の意見を口にした。羊の顔は明らかに困ったような顔をしていた。
「あのね、君は僕の加護を受けたんだ。これからはこの星のために働いてもらわなきゃ困るんだよ」
「役目は、果たしますっ。星のためというなら、アスクーー星の民を助けるのは、加護を受けた者の定めかと」
「民は一人じゃないんだ。大多数を取ってもらわないと」
「一人一人を大事にしなければ、大多数を幸せにすることはできません」
羊も少女も一歩も譲らない。
「君は、そんなに彼が大事なんだね?」
羊の言葉に一瞬言葉を失って、少女は頬に手を当てて答える。
「……は、はい。幼なじみでずっと傍にいたので」
絞りだした言葉は、心なしか尻すぼみになっている。
羊は彼女の様子に、いろいろと合点がいってしまい、思わず頭を押さえる。
そんな羊に対して彼女は意を決し、芯の強い目を上げて言い切った。
「私は、アスクを……大事な人を守りたいんです」
曲がらないであろう彼女の視線に、羊の頭の痛みは増す。言いたくはなかった。それは、とても残酷なことだと知っていたから。
けれど、彼女の気持ちに敬意を払うべきだろう。そう羊は導き出した。我が認めし、牡羊の加護を与えた少女に。
「……残念だけど、あの子はきっとオフィウクスに連れてかれたよ」
「オフィウクスに……?」
羊は仕方ないと、今まで伝えなかった蛇遣いの神の名を口にした。少女は驚いて口を押える。
「そうだよ。あの日、彼は蛇に守られてた。蛇はね、オフィウクスの使いだ。だから、彼はオフィウクスに魅入られたんだと思う」
「……じゃあ、蛇遣いの星に行けば――」
「無理だよ」
希望を打ち砕くように、牡羊の神は少女の言葉を切った。
「なんで……ですか?」
「あの星に行くには、12の星の神の加護が必要だ」
「それなら、すべての星を回ってみせます……!」
少女の言葉に、牡羊の神は、肩を落とした。
「それが無理なんだ……」
どうして、そう理由を聞こうとした少女よりも先に、凛とした声が割り込んできた。
「その話、私も混ぜてはくれないか?」
綺麗な金髪が風によってたなびき、意志の強い青い瞳。乙女の騎士が二人を見つめていた――。