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4章 天秤の星7―弟子の信用度―

「アスク、話をしたいんだが……」

 スピカが俺の肩を軽く叩いた。視線でマルフィクを一瞥するからマルフィクには聞かれたくないのかな。

「マルフィクに席外してもらう?」

「そうだな、レーピオスに情報が渡るのは避けたい」

「なんじゃ? 置いてかれたんじゃろ、あの小童」

 いつの間にかヘレがシャウラを肩に乗せてこちらに来ていた。ヘレは頬を掻いて苦笑う。来るつもりはなかったようで、シャウラに連れて行くように言われたのだろう。

「あの小僧の立ち位置をアスクにも聞こうと思ったんじゃ」

「マルフィクはレーピオスの弟子で、彼のことは師匠って慕ってるよ。俺のこと監視するように言われてるみたいだけど、一緒にいた感想は悪いヤツじゃないかな」

「うーん、結局アスクに話したことは筒抜けになりそうだね」

「なんでじゃ?」

「だって、アスクはマルフィクさんに聞かれたら答えちゃうでしょ?」

「…………」

 俺より先にシャウラに返答したヘレの答えが俺の心に刺さる。いや、うん。聞かれたら答えちゃいそう。だって

「マルフィクなら、言わないでって言えば大丈夫だと思うし」

「いや、しかしあいつの弟子なのだろう? レーピオスに味方をするのではないか?」

「うーん、どうかなぁ」

 山羊の星を脱出する時、置いてかれたことに驚いてたし、双子の星でのこともあんまりレーピオスに伝わってる気もしないんだよなぁ。

「友達だし、大丈夫だよ」

「誰が友達だ」

 割り込んできたマルフィクの声に彼の方を向く。びっくりした。

「丸聞こえなンだよ、甘ちゃんどもが。秘密の話すンなら別の部屋行ッてするべきだろうが」

 呆れたようにため息を吐いて、マルフィクはスピカが口を開くよりも先に言葉を続けた。

「オレは師匠にオマエたちから聞いたことは話すつもりは毛頭ねェよ」

「何故じゃ?」

「あのな、師匠は別に組織を率いているわけじゃねェ。目的の共有はしてるし、必要なら知識も分ける。それだけだ。後は個人の好きにさせてるだけで、神殺しの命令とかはしてねェ。オレにはついでにアスクのことを調べてほしいッて言われただけで、他はオレの判断に任されてる。つまり、オレが話さねェと決めたンなら話さなくてもイイんだよ」

 双子の星の時は師匠の言うことは絶対みたいな感じだったのに、今はまるで信用していないとでも言うような口ぶりだ。マルフィクはレーピオスに違和感を覚えているのだろうか?

 ただ、その変化は嬉しい。

「つまり、俺たちを少しは信用してくれてるってこと?」

「ンなこと言ッてねェ。てめェの女装について細かく説明はしてやるよ」

「それ、マルフィクの女装の話もすることになるんじゃ?」

「ぐっ……」

 まあ、できないよね。俺はマルフィクを黙らせることができて勝った気分だ。スピカに視線をもどして話を促す。

「女装話すくらいだって言うから大丈夫じゃない?」

「アスク……」

 冗談をそのままスピカに言ったら、眉を顰められた。いや、別に冗談だけじゃなくて、俺はマルフィクは絶対に言わないと”確信”してるんだけど……。どうやって説得したものか。

「アスク、お主はその小童を信じておるのだな?」

「うん。マルフィクは言わないよ」

「であれば、わしは話しても良い」

「シャウラ様っ!」

「スピカ、落ち着くといい。わしは何を話すかはわかっているつもりじゃ。あのオナゴの話であればむしろ話しておいた方が良いじゃろう。あの小童、魚の加護も持っておるようじゃしな」

「え? マルフィクって魚の加護持ってるの!?」

「さすがに神には隠せねェわけか」

「誰経由の力なのかはよっぽど鈍い神以外なら感じるはずじゃぞ」

「フーン」

「それと小童。情報を渡してやるんじゃ、そっちも情報をよこすのが筋よのう?」

「師匠の情報なら今話しただろ」

「それで対価になるかどうかはお主が考えるんじゃな」

「別にいいぜ、足りなかッたら他の話もしてやるさ」

 シャウラとマルフィクの間で話がついたようだ。俺が話した時はからかってきたくせに。

「そういうことじゃ、スピカ。アスクとそこの小童に話をしてやるがよいぞ」

「わかりました」

 シャウラの指示にスピカは眉根を寄せたが反論はしないで頷いた。納得は微妙にしてないんだろうな、マルフィクとスピカがもう少し仲良くなってくれるといいんだけど、考え方が平行線だからなぁ。

 スピカが、俺の方を向いて話を切り出した。

「……実はアルディが此処まで来た」

「アルディさんが? なんで? スピカと戦ってなかった?」

 たしか山羊の星でアルディさんは向こう側にいて、サダルとレーピオスと一緒に行ってしまったはずだ。

「あれはな、アルディと事前に打ち合わせしていた。敵対する場合は全力で戦おうと」

「打合せ……?」

 あれ? スピカはアルディさんと行き違いしてたよね? それがなんでこうなったの?

「アスクに悩みを聞いてもらったあと、カプリコルヌス様に相談したんだ。アルディとサダルについては敵対する可能性があると教えてもらった。そして、アルディが味方になるには私が彼女と話をする必要があると諭された。私は敵対する可能性を打破するためにアルディと話をしたんだ」

「仲直りできたの?」

「いや、保留にされた。しかし、こちらにも可能性を残してくれた。情報の共有をすることにしたんだ」

「だからアルディさん来たんだね」

 やっと合点がいった。アルディさんもスピカのことは好きだって言ってたし、切り捨てることはしなかったみたいだ。

「アルディからある提案をもらった。私はこれに賛成だ」

 スピカは俺に紙を手渡した。報告書と書かれた紙には、レーピオスの行動などが書かれている。その下にアルディさんからの提案が記載されていた。

「”アスクさんに加護の帰属をしませんか?” 帰属って、たしかスピカと会った時に説明してくれたような?」

「覚えていたのか。共に同志として契約することでほんの少しだが加護を与えられるのが帰属だ。加護を得るには神から加護をもらうか、加護を持つ者と従属か帰属の契りを交わすことだ。つまり、アスクに加護を集中させておこうという話になる」

「なるほどな。ソイツを12の神の器にしようッてわけか」

「私たちに何かあってもアスクに加護が集まっていれば、蛇使いの星に行くことが可能だからな」

「フーン。いいじゃねェか。オレも魚の加護を帰属してやるよ」

「ふむ、期待通りの答えじゃ」

「シャウラ様はこれを見越していたのですね」

「そうじゃ。それに、向こう側にも良いことずくめじゃろ。アスクがおれば他の星の加護持ちを仲間にしなくても済むのじゃからな」

「よく解りました。しかし……」

 スピカは少し顔を曇らせて俺を見た。良い案だと思うけど、不安があるんだろうか?

「アスクには負担をかけて悪いが、どうだろうか?」

 俺の心配だった。でも、俺の心は決まってる。

「俺も賛成! 加護の帰属、受けるよ!」

 だって他の星の加護ももらえるなんて、ラッキーじゃん。乙女の加護って回復とかできるみたいだし、便利そうだし! 魚の加護はマルフィク使ってるの見たことないんだけど、どういう力なんだろう? めちゃくちゃわくわくするっ。

「よかった。では、私から帰属を行わせてもらう」

 スピカは他のみんなに下がるように言って、俺の目の前に立った。帰属ってどうやるんだろう? 契約書って言ってたし、何かにサインすればいいのかな?

 スピカが俺に自分の剣を鞘から抜いて手渡してくる。

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