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4章 天秤の星3―恋バナ―

 エスカマリさんがアスクとマルフィクさんを連れて出て行った。

「ふぅ、エスカマリさんってすごいですね」

「あんなに押しが強いとは思わなかった。前に会合で集まった時には笑顔を絶やさない穏やかな人物だったと記憶していたのだが……」

 スピカさんも唖然としていたようで、戸惑ったような声色だ。

「ふむ。エスカマリはわしと意気投合できるすばらしいオナゴじゃ。してヘレとアスクは恋人同士ではなかったのか?」

「シャウラまで何言ってるの!?」

「違ったのかのぅ? ずいぶんと仲が良いように見えるうえ、二人して牡羊の星に一緒に帰りたいと言っておったしのぅ?」

「ち、違うよっ! 仲が良いのはずっと一緒に育ってきたんだから当たり前だし、兄弟みたいなもんだもんっ」

 そうだ、そうだよ。アスクのことはずっと心配だったし、家族みたいなもんだし!

「ほぉ、ならばわしがもらっても良いわけじゃな」

「え!?」

 心臓が一瞬跳ねた。ドキドキしてる。なんでか胸の奥が濁ったような、気持ち悪さがあった。

「ヘレはアスクのことは兄弟と思っておるんじゃろ? ならば、アスクの嫁にわしがなっても良いじゃろう」

「それは、そう……アスクの気持ち次第だし? シャウラはアスクがいいの?」

 ドキドキする胸を押さえて、私はシャウラに聞き返す。シャウラは本当にアスクが好きなの? なぜか気になってしまう。

「もちろんじゃ。わしを外に出してくれたのはアスクとお前たちなのだからな。皆愛しておる!」

 シャウラの笑顔がはっきりと思い浮かべられるほど、嬉しそうな声だった。シャウラの『好き』を聞いて、さっきまで忙しなく渦巻いていた違和感が消えた。

「そっか、私もシャウラのこと好きだよ」

「うむ、わしはお前たちなら誰でも大歓迎じゃぞ。ヘレのことも気に入っておるしな、いっそわしの星で暮らすのはどうじゃ?」

「ありがとう。でも、私は牡羊の星に戻るつもりだから、遊びには行くね」

「ふむ、残念じゃなぁ。しかしヘレが牡羊の星に戻るならばアスクが別の星に婿入りしても問題ないじゃろ。わしはアスクは良きパートナーになると思うぞ。優しいところも実直なところも良い」

「私もアスクはとてもいい旦那になると思うぞ」

「スピカさん!? スピカさんも、アスクのこと……そのす、好きなんですか?」

「好感を持っているのは否定しないな。信頼している」

「そう、ですか……」

 また心臓がドッドッと早くなって、重い。さっきからなんでこんなに動揺してるの……?

「あら~、とっても楽しいそうなお話で盛り上がってますわね~」

「!?」

 聞いたことのある間延びした高い声。さらなる衝撃に口から心臓が飛び出るかと思った。

 声の方をおそるおそる見れば、窓枠に腰を下ろして私たちを見ているのは紛れもなくアルディさんだった。

「アルディ、来たか。ずいぶんと早い帰還だが、大丈夫だったのか?」

 以外にもスピカさんが落ち着いた様子でアルディさんに話しかけた。アルディさんはレーピオスさんの味方をしてスピカさんを攻撃したのに、どうして……?

「ふふっ、レグルスに身代わりをしてもらってますから~、問題ありませんわ~」

「え、えっと。どういうこと……?」

「あらあら~、ヘレさんは純粋なのですね~。わたくしが裏切者だと思っておりますの~?」

「すまないヘレ。元々アルディとは話をつけていてな。向こう側に入り込んで事情を探ってもらっているのだ」

「まあ~、向こうの条件が良ければ寝返ることもやぶさかではないですわ~」

 にこにこ笑うアルディさんと、すまなそうの頭を掻くスピカさんに、私は茫然とするしかなかった。

「アルディさんは向こうにスパイに行ったってこと……?」

「そうだ。バレないように敵対する時は徹底的に行うことになっている」

「では~向こうで仕入れたお話はこちらのレポートにまとめておきましたので~、恋バナのお話の続きでもいたしましょうか~」

「え゛」

「ヘレさんが~、アスクさんのことを家族と思ってらっしゃるなら~、わたくしがいただいてもよろしいんですの~?」

「え、でもアルディさんにはレグルスさんが……?」

「あら~、あれは所有物ですもの対等に扱うわけありませんわ~。それに~あんな借金まみれの男お断りでしてよ~。その点ー、アスクさんは加護を増幅する稀な力をお持ちでしょ~? 手に入れれば我が星の最大のメリットですもの~!」

「これは恋バナなのかのぅ?」

「アルディは政略結婚という手段も厭わないからな。利益が出るなら実際手を回す可能性はあるぞ」

「アルディさんは好きな人と結婚したいと思わないんですか……?」

「ええ~、牡牛の利益が一番ですもの~。ヘレさんはアスクさんのこと家族と思ってますから構いませんわよね~?」

「そ、それは……」

 アルディさんが笑顔の圧に言葉が出てこない。

「アルディ。あまりヘレをいじめてやるな」

「でも~、客観的に考えるのは大切ですわ~。アスクさんのことを星を出てまで迎えに来てましたし~」

「それは心配で――!」

「うむ、絶対に一緒に帰ると豪語もしておったな」

「だって、同じ星出身だし――!」

「一緒にいたいんですもんね~?」

「だって、だって……」

 私ってアスクのこと星を飛び出してまで追っかけてきちゃって、一緒に牡羊の星に戻るものだと思い込んで、ずっと一緒にいようって約束して――

「うぅ~っ」

 それってなんか……

「身近にいる人が一番大切なことってありますわよね~」

「アルディがそれを言うのか?」

「ということは、そのあの傷のある男がやはりそうなのじゃな?」

「どうでしょう~?」

 扉がバンっと音を立てて空いた。

「おねえさまああああ!」

 熱くなった頭が揺さぶられるほど大きい声で、意識が戻される。

「あら~、ヒアがこんなところにいるなんて驚きですわ~」

 アルディさんに抱き着いたのは可愛いフリフリの服を着た女の子だった。二つに結んだ髪が靡いていて勢いが良かったのがよくわかる。

「おねえさまお会いしたかったのです! おねえさまの好きな人はボクですよね!!」

「ふふー、わたくしはそろそろ戻らないといけませんのでー、失礼しますわー」

 ヒアと呼ばれた女の子の手から簡単に抜け出すと、アルディさんは窓からふわっと外に飛び出た。

「おねえさまあああ」

 涙を浮かべて手を伸ばすヒアさんは窓に駆け寄り、すぐにアルディさんを追って消えていった。

「……何だったんだろう……?」

「さてなぁ……見事なまでの逃げ足じゃったなぁ」

「あのアルディが逃げるとは、相当訳ありなのだろうな」

 でも、おかげであの感情がいったんどっかに飛んでって助かった。

 考えたくなくて、気づいた気持ちは頭の隅に追いやる。だって、もし本当にそうだったら、アスクとはどう接すればいいの。

「アルディのことは心配だが、彼女ならば自分でどうにかするだろう。アスクたちが戻ってくる前に報告書を拝読しよう」

 私もそれ以上恋バナには触れずに、スピカさんが持つ報告書を覗き込んだ。

しばらく期間が空いてしまいましたが、恋バナまでたどり着けました!

夏まではこのくらいのゆっくりペースで、夏過ぎてからペースあげられると思います。

後半もがんばって行きますので、気長にお付き合いいただけるとありがたいです。


面白い、楽しい、と感じて頂けたら、

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