4章 天秤の星2―行動指針は図書館へ行くこと―
エスカマリさん強烈すぎる。なんで俺とヘレが恋人同士って話になるの?
同じ星出身だから一緒にいるのが当たり前っていうか家族っていうか、そんなこと考えたこともなかった……。
「おい、話聞いてンのか?」
「ご、ごめん。いろいろ強烈すぎて……タルフが捕まっちゃったって話だよね」
そうだ、恋人同しとかいう話なんかよりももっと大変なことがあったんだ。タルフを見ないと思ったら、この家に避難する時に扉の先に置いてきちゃったっぽいんだよね。
シャウラ曰くあの扉は閉めた瞬間に外のあの場所から消えちゃってるらしくて、エスカマリさん曰く、タルフは十中八九捕まっちゃってるらしい。どうやって連れ戻そう……。
「わしの力は扉を一定時間別の場所に繋げることができるだけじゃ」
「タルフさんのことでしたら私の方でお迎えをお願いしたので大丈夫です」
エスカマリさんがにこっと笑う。
俺とヘレの話が終わったので、みんなと現状をすり合わせて今後の方針を決めている。粗方話終えてるみたいで、タルフのことは心配なさそうだ。
「天秤の加護を持つヤツがいンなら、別の星に行けばイイだろ」
「エスカマリは天秤の星の聖女だ。以前同盟国の会合があったが、その時に顔を合わせた。その場に出席していたのだ、取り纏めの立ち位置だろう。役職柄、勝手に星を出るわけにもいくまい」
「そうですね~。ですが天秤の神に会うには向こういっぱい予約が埋まってますのでだいぶ待っていただくことになってしまいますし……」
と、どうやら天秤の星に残るべきか、別の星に行くべきかを揉めているようだ。
「加護についてどうするかは任せるよ。俺としては天秤の神の図書館に行きたいんだけど」
俺は天秤の星でやらなきゃいけないことを伝える。
「あら! 図書館のことをよくご存じですね。天秤の星でも知っている方はそれほど多くないのですが……」
エスカマリさんの困ったような訝し気な視線が突き刺さる。
「えっと、山羊の神カプリコルヌス様に教えてもらったんだ」
正確には、山羊の加護に教えてもらったんだけど。俺は図書館で調べたいことがある。
「そうでしたか。して、どのようなご用件なのでしょうか?」
「カプリコルヌス様の遺言で――」
俺は、プリコルヌス様は自分が死ぬことを知っていて、優秀者への報酬については先手を打っていたことを話す。優秀者を選抜できないから参加者全員にそれぞれ一度だけ山羊の神の力を使う権利を与えるって。ただ力を使うのは俺が受け取ってる山羊の加護だから制限があって、見たい過去か未来の時期を明確にしないといけないと。
「天秤の図書館は、天秤の神が記した記録が保管されております。たしかに過去を調べるのであれば適任の場所になりますね」
エスカマリさんが納得したように頷く。
「なら、その図書館ッてのに行くぞ」
マルフィクの食いつきが半端ない。早くしろと言わんばかりだ。でも、それが出来たら苦労しないんだよなぁ……。
「お待ちください。図書館にはどのように訪れるつもりですか? 天秤の神の記録が保管されている場所です。一般の方はもちろん、指名手配されているアスクさんが行けるような場所ではないですよ……?」
エスカマリさんの言う通りだ。指名手配がなければ天秤の星の聖女と言われているエスカマリさんにお願いすればなんとかなりそうだったけど。神殺しとして指名手配されてるんじゃ、顔見られただけで捕まっちゃいそう。
「ならオレひとりで行く」
「いやいやいや、山羊の加護の力がないとダメなんだから、俺も行くよ!?」
「どうやッてだ?」
「うーんと……変装、とか?」
「いいですね! 衣装でしたら私にお任せください!!」
マルフィクとの会話に目を輝かせてエスカマリさんが割って入ってきた。彼女の勢いに既視感、イヤな予感がする。
「変装したぐらいで入れンのか?」
「普通にしたくらいではダメですね。ですから、女装しましょう!」
「じょそう……?」
「はい! 性別を偽ればそれなりに騙しやすいはずです! ね! 性別が違えばすぐにアスクさんと結びつけるということもありません! それに私と同じ神殿の服であれば体のラインは出ないのでごまかしもしやすいですし、これは完璧な案!」
ばーっと話が止まらないエスカマリさんの圧に俺は、そうなのかな? っと一瞬納得しかけた。
「アンタはこッち側だッてバレてねェんだろうな?」
「もちろんです! 扉からは見えない位置に待機しておりましたので、私は見られておりませんよ。ですから、私の従者として連れていけば問題なく図書館に入れると思います」
胸を張るエスカマリを値踏みするようにマルフィクはじっと見つめた。
「……変装以外でもう一つ陽動ができンならそれでいく」
「え、女装はするの決定なの!?」
「姿を変えるッてのは有効だろ。逃亡する時にも服や髪形を変えることはママある」
マルフィクの経験則だろうか。女装してでも図書館に行く。は彼の中では決定事項のようだ。
俺は女装してでも図書館に行く理由はあるのだろうか。たしかに双子の神殺しの過去をしっかりと知りたい。それに、他の神についての記述もちゃんと見たかった。過去の記述であればオフィウクスのことも、アリエス様のことも記載がどこかにあるだろう。
俺は神殺しはよくないと思うけど、マルフィクの過去を聞いてしまった手前、神々が正しいのかはわからない。それにそれぞれが話す内容は嚙み合わないことが多くて、本当のことを知りたい。オフィウクスの神は本当に双子の神殺しに関わっていたのか。
思考を凝らしても結局答えは出ないのだから、図書館で調べるべきだ。じゃなきゃオフィウクスの星に行って俺は結論がしっかり出せない気がするから。女装は仕方ないんだ、うん。
「陽動なら、街で騒ぎでも起こしてもらえれば十分だ」
「貴様、私たちに天秤の星で事件を起こせというのか?」
俺がなんとか自分を納得させているうちにマルフィクが話を進めていた。
マルフィクの言葉にスピカが牽制をする。しかし、マルフィクは鼻を鳴らして肩をすくめる。
「別に。騒ぎじゃなくてもイイ。兵士どもの目を引き付けてくれればそれで」
「それならヘレさんにアスクさんとして表に出てもらうのはどうですか?」
「へっ? 私?」
「アスクさんとヘレさんはそこまで身長に差はありませんし、同じ星の出身ですから雰囲気も似てます。ですから、アスクさんの服を着て街に出れば勘違いしてくれますよ」
「でも髪の色が違いすぎるかな……」
俺は赤毛で、ヘレは淡いクリーム色だ。どう考えてもこの濃さの違いで印象はだいぶ違うと思う。
「髪の色でしたら、私の加護で変えてあげますのでご心配なく! さあ、アスクさん、マルフィクさんは先に着替えましょう!」
「待て、なンでオレまで」
「私の従者ならば女性のが違和感ありませんから、もちろんマルフィクさんもですよ! ほら、急ぐんですよね、早く行きましょう!」
誰もかれもエスカマリさんの圧に押されるのだった。
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