3章 山羊の星23―オフィウクスの加護―
青い星が沈んで、赤い星が空に浮かんだ。
夜が終わって、長い昼が始まる。
「……なんで、だろう」
待ってたのに。
「ヘレ、来なかったんだ……」
「……そうか」
戻ってきたマルフィクが隣で相槌を打つ。
意気込んでただけに、さすがに凹む。何がダメだったんだろう。話すらできないから、どうしていいかわかんない。
「虹色の星もだいぶ高くなってきた。昇り切れば、イヤでも会うだろ」
「うぅ~、でもこんだけ会ってくれないってことはヘレは相当怒ってるよね。なんで怒ってるのかもわかんないのに、本当にヘレと仲直りできるのかな……」
「…………」
解決策が見つからない不安が噴き出す。
正解が知りたい。会ってちゃんと仲直りできる方法の正解が。
「……オフィウクスの加護、使ってみようかな」
「ヤメロッ!」
「えっ?」
マルフィクの大きな声に、今日初めて彼の顔を見た。くしゃっとした顔は、幼子が泣き出しそうな表情だった。
「な、んで?」
マルフィクだったら、オフィウクスの加護を使うことをむしろ勧めてくるかと思った。そういえば、いままで使えって一度も言われてない。
なんで?
「……なんでもだ。それより、上手く使える力をもッと使えるようにする方が先だ」
俺の疑問はさえぎられて、それっきり。
マルフィクは次の夜になっても理由を教えてはくれなかった。
俺は一人で夜空を見上げた。
カプリコルヌス様にヘレのことを聞いてみたけど、伝言は預かってないって言われた。特に変わった様子もないみたいで、もやもやする。
あと何回夜を待てばいいんだろう。
ううん虹色の星が昇って会えたとして、ヘレが何を考えてるのかわからない中、本当に仲直りできるんだろうか?
答えが見つからない。
「やっぱり、オフィウクスの加護使ってみようかなぁ」
マルフィクはあれ以来、オフィウクスの加護の話だけは答えてくれないけど、加護を使えばヘレが怒ってる理由もわかるだろうし、ちゃんと仲直りできるはずだ。
他の加護を使うのはずいぶん様になってきたし。っていうか、タルフに勝てるようにもなってきたんだ。オフィウクスの加護だって同じように使えば、問題なくその力を発揮できるはず。
加護が使えないところから、こんなに力を使えるようになったんだ。今の俺なら、不可能なことはない。
ふぅっと息を吸い込んで気合を入れる。
「よし、やってやる」
俺は目の前に集中する。まずは前に使っていたように使ってみよう。
オフィウクスの加護に力を使うには、目的を明確に、それについて問いかける。
「オフィウクスの加護、ヘレと仲直りがしたい。そのために”ヘレの気持ち”を教えて――」
目の前に、鮮やかで真っ赤な瞳。銀色にうねる身体――この蛇はオレの加護じゃない
それだけが唯一認識できたことだった。
俺の意識は飲まれて、ただ後悔だけが苦く胸に広がった。
――次に目を覚ました時、俺の手は神の血で真っ赤に染まっていた。
短めですが、場面転換もあるので今日はこちらでUPします!