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1章 双子の星04―双子の神ジェミニ―

ずる……ずるずる……

 何かが近づいてくる。

ずる……ずるずる……

 これは、『蛇』だ。

 わかってる。こいつは、俺の中に入ってきた『オフィウクスの使者』だ。

ずる……ずるずる……

 『汝に加護を与える』

 耳元で響くあの声。この声はやはり『蛇』だったんだ。

 体を這いずる冷たい感触――

フシュ―

 耳元で鳴る蛇の鳴き声。

『加護よ。目覚めよ』

 目の前に金色の瞳が見開かれた――


「うわっ!!」

 自分の大声で飛び起きた。

 鳴り止まない動悸に、胸を押さえる。荒い息が耳の奥で、蛇のような音を鳴らした。

(夢か……。いつもと同じように蛇の夢だった。でも、加護よ。目覚めよって……)

「加護が話しをしてくれるはずだと、あの男は言ってたけど……」

 全然加護の気配はない。っていうか、加護って結局どんな感じのものなんだよ。オフィウクスの加護は『知識』とか言ってたけど、だったら、双子の神について教えてくれよ。

 結局何もわからないまま、考え過ぎでのぼせた頭を振って、視線をあげる。辺りは暗かった。そして、思わず腕をさするほど、冷え込んで……。

(なんでこんなに寒いんだ…?)

 さっきまで夢のことを考えていたせいで、状況がいまいちつかめない。俺は、辺りを見回した。夜空が、荒れ果てた荒野が、目の前に広がっていた。

 いやいや、宴会は地下の建物内でやってただろ。なんで、外にいるんだ?

 かさりと地面に置いた手から音が聞こえた。よく見ると、寝ていた場所には藁が敷き詰められていて、明らかに人の手に寄るものだった。

 これは――

『わあ! こんなとこに珍しいのがいるよ、兄さん!』

『本当だ。今度はどうやって遊ぼうか』

――神への生け贄。

 寝た俺を双子の神ジェミニの通り道にでも置き去りにしたんだろう。憶測の域なのになぜか”確信”があった。

 頭の中の”確信”のせいで、緊張が体を縛る。

 できれば、もう少し情報を得てから出会いたかった……。絶望に近い感覚に体が反応をして、ひゅっと息を呑む音が耳奥に響く。

『ねー、君! あそぼー!』

『そこの君だよ!』

 元気よく声をかけてきて、宙を舞いながら近づいてきたのは、二人の少年。彼らは顔から髪型まで、何から何までそっくりだった。ライムグリーンの肩まで切りそろえられた髪、楓色の目は大きくくりっとしていて好奇心が渦巻いている。

 そしてたったひとつだけ違う服装は、左は緑、右は青だった。

 二人は同じ笑みをにっこりと浮かべ、俺を見下ろす。

「…………」

 またことりと喉が鳴る。

『あれ? 怖くて声もでない?』

『もしかして言葉がわからないとか』

 少年たちは、不思議そうに顔を近づいてくる。手を伸ばされたところで、俺は反射的にその手を払った。

 やっぱり神を目の前にすると恐怖が増して、牡羊の俺を見たあの目、加護を与えるといった蛇のあの目が頭にちらつく。

 だから、何かされるんじゃないかと思って、手が出てしまったんだ。

『なんだこいつっ!?』

 ムッとする緑の服の少年が、俺を睨みつけてくる。

 咄嗟に叩いてしまったことで、怒らせてしまった。何かをこたえなければならない。何を言えばいい? どうすれば、この四つの瞳から逃げられる?

「お前たちは……双子の星の神か?」

 混乱した頭から、なんとか振り絞ったのは、相手の存在を確認するものだった。もうわかっているのに……。なのに、どうか、こいつらが神ではありませんように。と、願う気持ちが拭えない。

『あ、しゃべれたんだ』

『そうそう! この星の神だよ! 君は? 見かけない顔だよね? どっから来たの? 何が目的? これからどこに行くの? ねぇ?』

 手を叩かれなかった方の青い服の少年が、早口で自己紹介をしたかと思うと、目を輝かせて質問を次から次へとしてくる。

「…………」

 俺は、めまいを覚えた。双子の神の悪評が、何度も何度も湧き上がってくる。

 ――他の世界から来た人間には”遊び”を請い、遊びの勝者には望む物を与え、敗者は未来永劫この星に囚える。

 この星に永住なんか、したくないっ。

 いますぐ逃げたかった。

『少しくらい話してよね!』

 緑の服の少年がいらだって催促してくる。風が荒れるように吹く。

 逃げよう。

 足を引いた時、なぜか、乙女の騎士の言葉が耳に繰り返される。

「――アスク。貴方が先に双子の神の加護を受け取ってくれることを願っている。可能性は高い方がいいのだから」

 俺には目的があるんだ。と、そういわれた気がした。

 目的を思い浮かべれば、自然とヘレの笑顔が頭をよぎって、ふぅっと俺は息を吐いた。

 気持ちが少しだけ落ち着いて、考える猶予ができた。

 迷ってたら、きっとまた恐怖に支配される……。

 すっと息の吸い込んで、俺は双子の神に言うというよりは、自分自身に言い聞かせるように言い切る。

「……俺の目的は、蛇遣いの星へ行くことだ」

『『えぇ~~~!?』』

 重なった甲高い声が耳に痛い。盛大に驚きの声を上げ、目をまん丸くしている双子の神の周りを風が暴れ始める。

『まってまって、蛇遣いの星は、もう当の昔に消え去ったんだよ?』

『まさか、神話の話も知らないの?』

 そんなわけない! というように、ずずっと俺に迫ってくる双子の神たち。

「知って……る。けど、その消えた星の神オフィウクスからの加護を受けた人間がいる」

 俺のことは伏せた。大丈夫だ、他にもいるから嘘じゃない。何か逆鱗に触れないか、双子の神の一挙一動を見ながら、激しく鳴る胸元の服をぎゅっと握り込む。

『『えぇ~~~!?』』

 甲高い声に耳が痛い。あからさまに片方がものすごくイヤそうな顔をした。何か違和感を覚えて、聞き返す。

「知らなかった……のか?」

『うるっさいな~! いいんだよ、どうせこの遊び場から出るつもりないんだから!』

 イヤそうな顔をした方の神が、怒り任せにまくしたてられ、強い風が顔を凪いだ。

 しまった。

 俺は焦りに一歩下がる。しかし、

『そうだそうだー!』

『もう、オフィウクスには関わりたくないしね!』

『そうそう、それに遊んでる方が楽しいもん!』

『『ねー!』』

 二人で交互に話していれば納得したらしく、笑顔に戻った。気分屋すぎて、まったく行動が読めない。まるで、本当に子どもを相手にしているようだ。そう思うと恐怖よりも、どっと疲れが出た。

『そんなことより、早くあそぼ!』

『うんうん。蛇遣いの星に行きたいなら僕らの加護がないとダメだしねー』

『最近、遊んだ人たちはみーんな僕らに負けたから』

『加護を持ってる人、いないもんねー?』

『ねー』

 暗に、逃げられないと言われた。くすくす笑うくせに、言っていることは残酷で、それはさらに子どもっぽさを浮きだたせていた。

『『ねぇ、僕らと遊んでくれる?』』

 無邪気な笑みは、再び俺に恐怖を思い出させる。こいつら、人のことをおもちゃだと思ってる。

「…………」

 さっきまでの気持ちは萎んでしまい、声がでなかった。けど、今度は彼らは急かさない。じっと俺を見据えて答えを待っている。

『「……遊ぶ」』

 恐怖で動かないはずの口から自然と出たのは、俺の声に何かが混じっていたからだ。低くて暗い声。聞き覚えのある声。

『ほんと!?』

 パッと明るくなる二つの顔。

『じゃあじゃあ、鬼ごっことかくれんぼ、どっちがいい?』

『「かくれんぼ」』

 頭の奥でその声はどんどん大きくなっていく。

「かくれんぼだね! 鬼とかくれるほうどっちがいい?」

『「鬼」』

『わかった! じゃあ、僕たち隠れるから、日が昇ったら探しに来てね!』

『リミットは日が落ちるまで! 日が落ちても見つけられなかったら、今度は僕たちが鬼!』

『鬼ごっこに付き合ってもらうよ!』

『じゃあ、お兄さん! 頑張ってね~!』

 双子の神は一通り捲し立てたかと思うと、まだ暗い空へと風と共に去っていった。

 けど、それを気にしてる余裕なんかない。さっきまであいつらとしゃべってたのは、俺じゃない。

「誰、なんだ……?」

 俺の中の声に話しかける。けれど、返答はなくて……。

「いったい、何がどうなってるんだよ……!」

 さらに言い募れば、代わり頭の中に乙女の騎士の言葉やヘレの笑顔がまたフラッシュバックする。と、同時に、俺の中には見た事もない景色、言葉が浮かんでは消えてを繰り返し始めた。

「なんだ……これ……」

 初めはゆっくりだったのに、それはどんどんと速度を増す。

 その速度に合わせて、頭が割れるようにいたんだ。どんどん痛みが増していく。見た事もないものが頭に流れ込んでくる。

 痛い。

 目の前がふらついて、強制的に流れてくる映像や言葉は暗闇に沈んだ――。

03と04の区切りを変更しました。

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