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3章 山羊の星17―牡羊の加護との決着―

「俺の力、っていっても正確に理解してるわけじゃないけど」

 ただ、そうだ。と”確信”しているにすぎない。

『根拠もないのに言っているということですか?』

『明確な答えを知りたいッてのか?』

 黒い蛇――マルフィクの加護が俺の横に進み出てくる。

 牡羊の加護の疑問に、質問を重ねてくる。牡羊の加護は怒るでもなく、視線をマルフィクの加護に向けて返答を返した。

『知らなければ納得できませんからね』

『お前は、ここがどこかわかるか?』

『主の無意識に相当する場所です。夢、とでもいえばいいのでしょうか』

 そうだ。ここは幾度となく見た場所だ。蛇が這いずってくるこの場所は、”夢”だ。

『そうだ。だが、アスクは夢の中でも明確に意志を持ッて動いてる。俺たち加護もな』

『それがなにか?』

『普通はできない。加護は現実で具現化して主と話をするのが一般的だ。この状況は異例、アスクの夢の中だけで起きているッてことは――アスクになんらかの力があるッてことだろ?』

『なるほど。前例がないために、詳しくその力を説明できないわけですね』

 屁理屈って言ってしまえそうな説明に、牡羊の加護は納得しているようだ。

 異例って、結局俺の力がなんなのかわかんないじゃん!

『もう一つ、気になることがある』

『それって、蠍の加護や牡羊の加護が自我を持ってること?』

 双子の加護が話に割り込んでくる。

『そうだ。”早すぎる”ンだ』

『だよねー。主は加護の適性がないのに』

『ですです。加護を使うのにも条件があったり、口に出したり制約が多いのです』

 もう何度言われればいいんだろう……。

「それなのに加護の自我芽生えてるのがおかしいんだろ?」

『もっと言うと、自我がアスクとかけ離れてるのもおかしい』

 たしかに、マルフィクの加護はマルフィクに雰囲気が似ている。おっせかいなところなんか特に。

『それなら、僕の力が維持したままなのもおかしくない? 使えるわけじゃないのに、暴走もしないでそのまま持ち続けるなんてさ』

『主、我を2回暴走させている。外部からの関与はあったが、損傷は無。異様』

 双子の神やオフィウクスの加護も口々におかしいと主張してくる。どんだけ出てくるんだよ……。

「……おかしいことだらけじゃん」

『それを繋ぎ合わせて出た仮説がおそらくアスクの力だ』

 なるほど。複数が合致する仮説が立てられればそれが一番答えに近いってことか。

『結局、まだ解明はされていないということですか』

『ああ』

 牡羊の加護の返答に空気がぴりついた。また攻撃されるだろうか? 俺はじっと牡羊の加護の様子を見守る。

『……なにはどうあれ、私の力を主が使ったことは事実です。本来加護の力が使えるということは、加護に認められたという証拠。それであれば、私はすでに主を認めていた。ということを認めねばなりません』

「じゃあ! 俺の話聞いてくれるんだね!?」

『はい。私は主を認め、そして封印を解きましょう。貴方のお心のままに力をお貸しいたします』

「ありがとう……っ!」

 よかった。どうにもならなかったらオフィウクスの加護を暴走させるしかなかった。

 これで、俺は加護を再び使えるようになるんだ……!

『よかったのです~!』

『主~! 僕の加護ももっと使えるようにしてよ?』

「う、うん。がんばる」

 喜んでくれてる蠍と双子の加護に、俺は頷いた。

『主、”己の力”を知りたければ我を求めよ』

 オフィウクスの加護がそう言って俺と同じ緑の目を光らせる。

――そこで目の前が眩しくなった。

 次に視界に入ってきたのは長い金髪だった。髪が風でなびいて、心配そうに青い瞳が揺らいでいる。スピカだ。

 その後ろで黒い髪と黒い目を持ったマルフィクがじっと俺を見ていて……ああ、夢から覚めたんだな。って思った。

「大丈夫か? アスク」

「うん! 牡羊の加護に封印を解いてもらったよ」

 起き上がって、スピカに笑ってみせる。

 少し遠くにいたサダルとタルフ、カプリコルヌス様が近寄ってきた。

「腕や腿から血が出てたみたいですけど、大丈夫なんですか?」

「え?」

 サダルにそう言われて右腕と左腿を思わず見る。たしかに血の跡はあるけど、痛みはない。

「私の力で傷は塞いでおいた。痛みがなければよいが……」

「うん、大丈夫。痛くないよ」

 スピカに手を開いたり閉じたりしながら答える。この部分は”夢”の中で牡羊の加護の矢が突き刺さったところだ。夢と現実が繋がってるのか……? そういえば、途中から痛みを感じてなかったような……?

「そうか、よかった」

「ありがとう、スピカ」

「ああ」

 スピカとの会話の区切りでマルフィクが俺の肩に手を置いてきた。離すと同時に黒い蛇が姿を現し、マルフィクのフードの中に消えていった。

「……?」

「どうかした?」

「いや……なンでもねェ」

 明らかになんでもなくなかったと思う。驚いたような顔してたし。でも、きっと今話したいことじゃないんだろうな。

「しかし、どうやったのであるか? どの加護も暴走したようには感じなかったのであるが」

「えっ!」

「そうだ。内側から壊れると聞いていたが、まったくそんな様子はなかった。右腕と左腿に矢で射られたような傷ができただけだった」

「あ、えっと……牡羊の加護を説得しただけだけど……」

「説得って具現化もしとらんのに、どうやったんやざ?」

 そうだった、普通は加護と話できないんだっけ。これ、どうやって説明すればいいんだ?

「うぅん。ちょっと長くなるんだけど――」

 俺は”夢”で起きたことをみんなに1から話した。

「ふぅむ。吾輩もそのような現象は知らないのである」

「私も、アスクの話が初めてだ」

「僕もそういう風な話は聞いたことないですよ」

 話をし終えると、全員が首をひねった。

「うらにはわからんことばっかりやざ。聞いてた話と違いすぎるやざ」

「僕たちとは、加護の性質が違うんじゃないかなぁ」

「どういうことやざ?」

「ふむ。加護とは、人間を神と同等の力に成長させるものなのである。よって”自我”と呼んではいるが、加護の”自我”は持ち主の投影なのである」

「客観的に自分の欠点や、長所を知るためですよね」

「そうなのである。そして長所を外部の加護で育てあげ、再度自分の中に取り込むのである。それによって力が増幅し、神同様の力を手に入れるというのが加護のプロセスなのである」

「だからこそ、複数の加護を持つこと自体が珍しいわけですね。たしかに一見アスクとは違うような性格を持つ加護ですが、アスクの性格が分断されているだけなのではないですか?」

「その可能性は大いにあると思うのである」

 結局、あーでもないこーでもないと予測を立ててはいたが、俺の力についてはわからなかった。

 あっという間に”夜”が来てしまって、各々身体を休めるための準備をするため解散することとなった。

 カプリコルヌス様はレグルスのところに、サダル、タルフは夕飯の準備のために材料集めをしてくるって二人で出かけていった。マルフィクも師匠にいろいろ聞いてみると姿を消して、残ったのは俺とスピカだけだ。

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