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3章 山羊の星15―アスクと加護たち―

 俺の目の前にマルフィクが、横にはスピカが立っており、カプリコルヌス様とサダル、タルフは少し遠くでこちらの様子を見ている。

「俺のオフィウクスの加護で、お前のオフィウクスの加護を活性化させる。それによッて牡羊の神が施している封印に加護たちが抵抗して、勝ち得れば加護が戻るンじゃねェかッて話だ」

『抵抗するということはかなりの力がアスクの体の中で暴発するということであるからして、抵抗中は身体が内側から壊れるのである』

「そこを私が修復していけばいいわけですね」

『今のスピカの癒しの力であれば信用に足るのである』

「オフィウクスの加護のコントロールをしッかりできなきゃ、また暴走ッすけどな」

「暴走した場合は僕たちが歯止めをかけるわけですね」

 暴走したら、命はないと思え。と先にマルフィクに脅されている。なんとしても俺はコントロールしなきゃいけない。

「アスク、準備はいいか?」

「うん!」

 マルフィクの言葉に俺は頷いた。マルフィクは頷くと、アスクに手を伸ばす。袖から、黒い鱗と真っ黒な瞳を持つ小さめの蛇が顔を出した。

 そして俺に向かってとびかかってきた。

 大きく赤い口が、白く鋭い二本の長い牙が目の前で異彩を放っていた。目の前が真っ暗になる……。



 ズルズル――

 ズルズル――

 何かが這いずる音がする。

 俺は、目を開けた。

 真っ白な空間が広がっていた。ここはよく知っている――視界の端にちらつくそれに視線を向けた。

 思った通り、緑色の瞳と赤く長い鱗を持つ蛇と、すべてが黒い蛇が俺を見下げている。

「……俺は、また加護を暴走させているのか?」

 この光景を見る時、過去二回。俺は加護を暴走させている。

 暴走させていたら、今回のこれは失敗だ。不安で鼓動が早くなる。

『否。牡羊の加護が強し』

 普通に赤い蛇は返答をくれた。意思疎通ができることにほっとする。

 俺は起き上がって辺りを見回した。でも、何もない。

「じゃあ、牡羊の加護と話をすればいいわけだ」

『汝、我を求めよ。さすれば、封印を破壊できよう』

「それじゃあ、ダメだ」

 オフィウクスの加護は、自分を求めろと、そう言ってきた。

 マルフィクには加護を求めることでコントロールしろと言われた。でも、それじゃあダメだと俺は思った。だって、俺は全部の加護を使いたい。

「俺は、全部の加護と意思疎通をしたい。牡羊の加護にも認めてもらって封印を解く」

『難しきこと』

「やってみなきゃわからないっ!」

 俺は立ち上がって歩き出す。何もない。けど、何かがいる。こっちに二体。その先にさらに一体。

『黒いのの力が分け与え終われば、必然的に封印が破壊されるが?』

「まだ時間はあるんだろ?」

『可。しかし、時間が経ち我を望まぬ場合は暴走が確実となる』

「だよね……」

 それでも、いますぐに決めろとは言わない赤色の蛇に、俺は笑う。やっぱり、俺の加護なんだな。って思った。甘いな。って。

 少し歩けば、双子の加護と蠍の加護が姿を現す。

 黒い蛇に威嚇をしている蠍の加護に手のひらを出せば、おとなしく俺の手に乗った。双子の加護も自分で俺の肩に移動してくる。

『牡羊の加護に会いに行くの?』

「そうだよ」

 双子の加護の問いかけに頷く。蠍の加護が腕を上って双子の加護とは反対の肩に乗って小さく震えた。

『無理するべきではないのです』

「そんなに怖い?」

『取り込もうとするのです』

 牡羊の加護は封印だけではなく、加護を取り込もうとしているのか。

 俺は歩くのを再開して加護たちの会話に耳を澄ます。

『そっちの蛇使いの加護も前回はやってくれたよね』

『求められたならば必然である』

『あるじは、全員を必要としているのです。抜け駆けはよくないのです』

『そうだよ、最初からいるからってちょっと求められたぐらいで調子乗んなよ』

『我の方が力が強いのだ。おとなしく従うべきであろう』

『はぁ? 俺の方が膨大な力ありますー! 主が全然適応できないだけですー』

『加護をもらった時の量は蛇使いの加護が一番少なかったはずなのですっ!』

 うん。オフィウクスの加護VS双子の加護、蠍の加護って感じだな。

『双子の加護は元々、主用には作られてなかろう』

『これから慣れればいいんだよ、主が』

 言い合いにそろそろ頭が痛くなってくる。ずいぶんと加護たちはおしゃべりなんだな。これ、まとめていかないと協力とかしてくれなかったりするんだろうか……?

 加護に自我が芽生えすぎてて怖い。ヘレのメ―メ―とかここまで意思疎通してなかった気がするし、マルフィクの黒い蛇使いの加護は一言も発してない。

 そういえば、みんなの加護が具現化したところも見てないから、これが普通なのかも全然わからないな。

 さっきまで言いあいをしていた加護たちがぴたりと口を閉ざした。

 目の前に牡羊の加護が姿を現したからだろう。メ―メ―と同じように羊の形をしている。でも、色は薄い赤毛で、羊って言っていいのかちょっとわからない。

『主、何用でしょうか?』

 丁寧に牡羊の加護は頭を下げ俺に話しかけてきた。声は静かで、感情が読み取れないけど。

 牡羊の加護はもらったばっかりで、”自我”ができてる可能性は低いってマルフィク言ってたのに、普通にしゃべってるな。

「他の加護たちを解放してほしいんだ」

『できかねます』

「なんで?」

『牡羊の神の解放条件は、すべての加護を一つにすることです。それを達成しておりません』

「……牡羊の神――アリエス様は、なんでその条件にしたの?」

 アリエス様は、そんなこと言ってなかった。コントロールできるようになれば加護を使えるようになると、そう言っていた。

 でも、だからわかる。加護を一つだけ使えるようになるって言わなかったのは、アリエス様に何かしらの思惑があったからだ。

『牡羊の星の子であれば、牡羊の力が一番合うはずですから』

「要するに、牡羊の力だけを俺に与えたいってこと?」

『ええ、自分の星の子は自分の星に戻ってくるべきであり、そうであれば、牡羊の力を強めていただき牡羊の星を守ってもらうというのがアリエス様の意志です』

 なんとも言えなかった。俺が思い描いている内容じゃなくて、アリエス様の意志を反映しろと言われているようで、気分が悪い。

「それを断れば?」

『加護を使うことを承諾できません』

「……お前は俺の加護だよね?」

『はい。すでに牡羊の神とは分離しておりますから、私の主は貴方ということになります』

「じゃあ、牡羊の加護。お前を求める」

『わかりました。それであれば他の加護を――』

 俺は牡羊の言葉を遮る。

「そして”命令”する。他の加護と”共存”することを」

 はっきりと言いきった。俺は、コントロールしなきゃいけない。オフィウクスの加護だけじゃなくて、すべての加護を。

『なるほど、私を従わせたいということでしたか。では、わかっていらっしゃるのですね? 私を”力づく”で従わせなければならないということを』

「予想通りってとこかな」

 言うことを聞いてもらうには、力づくで実力を認めさせないといけないことは予想ができていた。

 加護は神が認めた者に与えられるけど、牡羊の加護は抑制として俺に与えられたから。牡羊の加護は俺を加護を扱う器として認めていないんだ。

『何故、友の言う言葉通り動かぬ?』

 オフィウクスの加護が俺に問いかけてきた。

 マルフィクはオフィウクスの加護を強化して破壊してこいって言ったけど、俺はイヤだった。オフィウクスの加護か牡羊の加護、どっちかに加担すればたぶん全部の加護が吸収されてしまうと思うから。

「俺は、全部の加護を求めるから……だから俺は、他の加護の力を借りて牡羊の加護を従わせる!」

『主……わかったのです』

『ふふん、それでこそアスクだね! もちろん協力するよ』

 俺の言葉に蠍の加護と双子の加護が、力強く頷いてくれた。

 俺が後気にするべきは、リミット。マルフィクの黒い蛇が俺のオフィウクスの加護に取り込まれたら、力が大きくなってオフィウクスの加護が暴走してしまう。

 それまでに牡羊の加護と決着をつける。

 俺は牡羊の加護をしっかりと見つめた。

「じゃあ、始めようか」

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