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オフィウクスの謎―加護を受けたと思ったら存在しない神だった―  作者: 桜皐ゆるり


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3章 山羊の星13―マルフィクとの友好度―

 結局、”夜”が明けてしまったので、俺はマルフィクに引き続き水の中を走らされた。

 ヘレは、カプリコルヌス様が捜してアルディさんとこに連れて行ってくれるって言ってたから心配はないと思う。

 でも、やっぱり気になって走り込んでいる間もずっとどうしたらいいか考えていた。

「うぅん……」

「お前、考えながらとかずいぶン余裕だな」

 俺を走らせて、自分はタルフと勝負していたマルフィクが戻ってきた開口一番で、俺を現実に引き戻す。

 どうやってるのか知らないけど、マルフィクが横を滑るように移動していた。

 考え事してたけど、指定された距離は走っていたにも関わらず、たしかに疲れはそこまでない。

「あれ? そういえば前より楽かも?」

「”夜”のおかげで疲れがなくなッたンだろ。どうせ、赤い星が落ちる頃にはまた同じことになッてる」

「やる気削ぐのやめてくれな――っ!?」

 足を止めて抗議すれば、マルフィクが無言で槍を器用に使って水を跳ね上げた。

 驚いて後退るけど、水がかかった感じはしなかい。

「あ、あれ……?」

「お前と走るのは面倒だかンな、サダルに少しぐらい遠くても会話ができる加護付きの水を借りてきた」

 口と耳に薄い水の膜が張っている。前にサダルとマルフィクが戦った時に使った加護の応用みたいだ。

 一緒に走るのがイヤって、俺と違ってすーっと簡単に移動していたくせに……。

「わかったら、さッさと走れ。遅れれば遅れるほど、走る時間は長くなるぞ」

「もう! 止めさせたのはマルフィクだろ」

 槍で突っつかれて、仕方なく俺はまた走り出した。

 正直、今は体を動かせるのが救いだった。ヘレのことが気になって、じっとしてたらたぶん落ち込んで何もできないと思う。

 走ってれば、気持ちの落ち込みが少ない。

「で、何をぐちぐち考えてたンだ?」

 遠くにいるマルフィクの声がはっきりと聞こえた。

 せっかく紛らわせてるのに、容赦なく切り込んでくるなよ……。

 また頭の中でヘレの「アスクなんて知らないっ!」という言葉が木霊する。

「……仲直りの方法」

 やっぱり答えが出なくて、思わず悩みが口からこぼれた。

 走って気持ちを落ち着かせようとしてたのに聞いてきたのはマルフィクなんだから、いっそ巻き込んでやろうと思ったのもあるけど。

「は?」

「昨日ヘレと喧嘩したんだよ」

「ああ。それで頬が腫れてンのか」

 まだ痛みの残る頬を指摘された。

 ヘレと手が出るまで喧嘩したのなんて、本当に幼い頃だけだ。それほど怒らせてしまったんだ。でも……。

「……俺が何かしちゃったんだと思う。でも、何がヘレを怒らせたのかわからなくて……」

 俺は、昨夜の出来事をマルフィクに一通り話した。

 スピカたちには話せなかったのにマルフィクに話せたのは、なんでだろう。

「……長々と話しやがッて」

 俺が話し終えると呆れたようにマルフィクが息を吐く。

「なんかマルフィクって話しやすくて……」

「他のヤツらにいくらでも話せるだろ、お前」

「えぇと……誰にも相談できてないんだ……」

 俺とヘレの問題だから、本当は自分で答えにたどり着かなきゃいけないんだ。そう思ってスピカたちには何も言わなかった。

 でも、結局行き詰ってマルフィクに弱音を吐いてしまったんだ。

「はぁ……なんで俺なんだよ」

 自分でもどうしてなのかはわからないけど、でもたぶんマルフィクのことを他のみんなとは少し違うと思ってるからかな。

 だから、スピカたちに言われた言葉が口をついて出た。

「喧嘩もしたし……友達、だから?」

 迷惑そうなマルフィクに、俺は「はぁ?」と言われるのを前提で零してみた。

「はぁ?」

 案の定、不機嫌な声が聞こえてきた。

「だって、みんなには友達だって見えてるらしいよ?」

「おめでたい連中だな」

「俺も、友達だったらいいなぁ。って思ってる」

「お前は、本当甘いヤツだよ……」

 声色からはどう思ってるのかはよくわからない。呆れているのか、怒っているのか。

 でも、イヤだとかは言わないんだな。ちょっとほっとした。

「たかが数回会った人間に、ずッと一緒だッたヤツとの喧嘩の話するなンざ、気が緩みまくッてるンじゃねェのか?」

「それって、マルフィクとはまだ友達って言えないってこと?」

「……知らねェ」

 やっぱり拒否する言葉を明確には出してこない。ほんと、根はいい奴なんだよな。

 うん。俺はマルフィクのことをもう”友達”だと思ってる。

 マルフィクにも納得してもらうには……。

「それじゃあ、マルフィクのこと知れば友達って言えるよね?」

「俺は、別に――」

「俺は山羊の星出るまでにマルフィクと友達になってみせるよ!」

「友達ッてそうやッてなるもンなのかよ」

「じゃあ、もう友達でいい?」

「ごめんこうむる」

「はいはい。俺が頑張るからそれでいいですよー」

「……なんかムカつくな」

 俺の言葉に流されてるとは思うけど、友達になりたいという俺の気持ちは肯定してくれているようで、うれしかった。よし、マルフィクのこともっと知るぞ!

「それで、マルフィクのこといろいろ教えてよ」

「……何話せッてンだ」

 教えてくれる気になったらしいマルフィクにうれしくて、なんの質問をしようかと頭に質問をいっぱい思い浮かべる。

 やっぱりスピカたちも気にしてたし、最初はこれかな……。

「生まれた星とか?」

「どこだと思う?」

 質問を質問で返された。マルフィクが生まれた星……オフィウクスの加護を持ってるし蛇使いの星なのかなぁ。蛇使いの星についても詳しいし。

「蛇使いの星だったりする?」

「ちげェな」

「えぇ……じゃあ、どこだろう? 泳げるのは水が豊富な星なんだよね? じゃあ、水がいっぱいある星……?」

「わりとよく考えてるじゃねェか」

「水瓶の星、蟹の星、山羊の星、魚の星……ぐらい?」

「もしかしたら、星によッては大きな湖があったりするかもしれねェぜ?」

「え!?」

「それに、生まれ故郷に水がなくても別の星で泳げるようになッたかもしれねェだろ?」

「あ、かき回そうとしてるだろ!?」

「すぐに答えが出たらつまらねェだろ。そうだな、どうせオフィウクスの加護を使えるようになッたらわかるんだ。加護を少しでも使えるようになッたら過去について話してやッてもいいぜ」

「え、いいの?」

「ああ、だからもっと気合入れて体力作りしろ」

「わかったよ、約束だからな!」

「おう」

 マルフィクが過去を話してくれる。ちょっと距離が近くなったようで、素直にうれしかった。

 少し心が浮ついて、でもなんで落ち込んでたのかを思い出した。

「あ、ヘレとの喧嘩の話、何も意見聞いてない!」

「友達でもねェヤツに助言求めンな」

「ぐっ」

 楽しそうに返されてしまった。そりゃそうだけど……。

「それに、お前はどうせ自分でどうにかしたいンだろ。聞いてほしかッただけッて感じだッたぜ」

「ぐぅ……なんでマルフィクはそう……なんでもわかるんだよ」

「オフィウクスの加護の力……ッて言いたいとこだが、お前の声がわかりやすすぎるンだよ」

「…………」

 もう、何も言えなかった。

 でも、話した分。最初のもやもやした気持ちはだいぶ薄らいでいた。

 そっか、俺はただ聞いてほしかっただけなのか……ヘレもそうだったのかな? そうだとしたら、やっぱりちゃんと話をしよう。

 そう心の中で決意した。

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