1章 双子の星03―救世主に祭り上げられる―
どうして、こうなったんだ?
「救世主様ーー!」
地下にある洞窟の祭壇に座らされ、俺はなぜ数百人規模の人間に崇められているんだ。
スピカにあった後、俺は双子の神の手がかりでも見つかればいいな。と、この星を探っていた。そこで、見かけた人間に声をかけた結果がこれだ。
声をかけたヤツは、興奮を露わにして、説明もせずにその細い腕で俺をこの地下の建物へ俺を連れてきた。そして、粗末な食事を出され、祭壇に座らされ、同じようにやせ細った人々が集まり――俺を「救世主」として祭り上げた。
(でも、なんとなくはわかる。この状況を見れば……すがりたくもなるだろう)
俺を崇めている人間たちは、服ともつかない茶けた布をまとい、髪の毛も延び放題。見た目でわかるのはせいぜい大人か子どもかぐらい。ガリガリの手を地面につけて頭を上げ下げしている。
これが、この星の民たちだ。
双子の星の現状は、神話で聞いていたよりもずいぶんとひどいようだ。あの洞窟の周りはまだ木々が倒れているくらいだったが、少し歩けば何もない荒野が広がり、食べ物なんか幾ばくもない。
ここにいる人は、やっと生きながらえている。それもこれも……。
「救世主様! 長老からお話しがあります!」
よりいっそうやせ細り、腰の曲がった長老が俺の前に進み出た。
「救世主様、この荒れ果てた双子の星『ジェミニ』によくぞ参られた。」
「双子の星『ジェミニ』……」
そうだ。この民たちの現状はすべて、双子の神ジェミニのせいだ。
スピカと話した時に覚悟はしていたけど、やっぱりジェミニは気まぐれで、よく竜巻を起こしては民を困らせているようだ。
「この星にはもう、何十年も他の星から人が寄り付かないのですじゃ。誰も私たちを助けてはくれない……」
そりゃあ、そうだろう。ここの神は、他の世界から来た人間には”遊び”を請い、遊びの勝者には望む物を与え、敗者は未来永劫この星に囚える。リスクが高すぎるのだから、よほどの自信がない限り来ても素通りする。
「しかし、やっと救世主が現れた! あの方たちは私たちの話など聞きませぬ。外から来た方の話しか聞かないのです」
そこまで徹底してんのか双子の神は。本当に民のことは一切気にしていないらしい。
「お願いします! どうか、あの方たちを説得してください!!」
興奮する村長に、何を聞くべきか悩んで口を挟まずに入れば、話が思ってもない方向に進んでしまった。
いや、待て。民の話も聞かない神を説得って、どう考えても難易度高くないか? これはもしかして、ものすごく、ややこしいことになるんじゃないか?
「お願いします、救世主様!!」
『いいだろう』
断ろうと開いた口が、声を発することはなかった。答えたのは俺じゃない。
「ありがとうございます、救世主様!」
「さあ、宴の準備をせよ! 救世主様に感謝の気持ちを!」
「おーーーー!!」
しかし、まわりは俺が返事をしたと思い込んだらしく、「誰だ?」と問い返した声はかき消され、大歓喜の声が響いた。
ちがう、それは……俺じゃない。
(……どうして、こうなったんだ?)
ただ、双子の神の情報が欲しかっただけなのに。
もやもやとした俺の気持ちとは裏腹に、双子の星の民の宴は始まるのだった。
03と04の区切る部分を変更しました。