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3章 山羊の星10―マルフィクVSサダル―

「オフィウクスの何を知りたい?」

「なんで今になって、オフィウクスの神が加護を与えて回ってるのか気になってるんですよ。僕の友達にも加護をもらった人がいまして」

 オフィウクスの加護をもらった人が他にもいる。その事実に、ごくっとのどが鳴った。

 この加護を持つ人間は多いのだろうか……?

「あいつは、加護に喰われたやざ」

「えっ!?」

 俺の様子に、二人の戦いを見ながらタルフが付け加えるようにつぶやく。

 言葉が詰まる。

 加護に喰われたということは、加護の制御ができなかったということだ。加護の制御ができない人間になぜ、蛇使いの神は加護を与えたんだろう?

 今度はサダルが蹴りをマルフィクに向かって繰り出した。マルフィクはすぐに後ろに退く。

「加護の適性がない人間に無理やり加護を与えるオフィウクスの意図がまったくわからないんです」

 俺の疑問をサダルが口にする。

 きっと彼らはその疑問をずっと持ってのだろう。

「可能性があッたからだろ」

「どんな可能性があったっていうんですか?」

 怒りを表すように次々とサダルは攻撃の手を繰り出していく。逆に冷静にそれを捌くマルフィク。

「この世界を変える力が」

「――っ! 彼はごく普通の優しい人でした! ただ世界の平和を願うようなっ。世界を貶めるようなことは絶対に考えたりしない!」

「サダル……」

 サダルの言葉にタルフがぐっと息をのんで口元を抑える。サダルの言う”彼”はタルフにとってもかけがえのない人間だったんだろう。感情が目の奥からこみ上げてきてる。

「平和ッて、なんだ?」

「はっ?」

「今のまンまの世界が続くのが、平和だッてのか?」

「それは……」

「お前もわかッてんだろ」

 マルフィクがサダルの蹴りを槍で受け止め、反動を使って押し返す。バランスを崩すサダルに向かって、マルフィクは槍を突き付けた。

「この世界は、神々にとッて平和で幸せな世界だ。人間にとッてじゃねェ」

 サダルの目の前にピタリと槍の先を向けて、マルフィクは淡々と返した。

「人間にとッての平和な世界は、人間が作るしかねェんだよ」

「くっ――!」

 サダルは手の甲で槍を振り払った。鈍い音が響く。

 マルフィクの言葉にドキっとする。神々にとっての世界――人間を守ってくれる存在だと思ってた。そう教えられた。でも、神様だって自我があり、自分の考えがある。それは、本当に人間を思ってのことだと言い切れるのだろうか。

 頭の中で、オフィウクスに対する牡羊の神――アリエス様の行動が浮かぶ。最初に躊躇なく攻撃されたこと、俺のことについてはヘレに任せていたこと、戻った時はうれしい言葉をくれたけどオフィウクスの加護を制御されたこと。それらはいったい”誰のため”だったんだろうか?

「人間が作る? どうやってですか」

 焦るようなサダルの声で、俺は引き戻された。

 ダメだ、さっきアリエス様のことを考えるのはやめようって決めたじゃんか。ぎりぎりと腹の片隅が痛んで、俺はふっと息を吐くと、再びこの話題は頭の片隅へとおいやった。

 マルフィクとサダルの戦いに集中する。

「星は神の力で動いてます。神がいなくなれば星の存続が――」

「オフィウクスの知識ならできる」

 マルフィクは再度槍を構えた。サダルは慌てて後ろへ飛びのき、水が侵食する場所に着地する。そして、足元の水に手をつけると、水が彼を伝って宙に舞った。

「なあ、お前は水瓶の星の中で一番強いだろ?」

「ええ、もちろん」

 話を変えてきたマルフィクに、サダルはいぶかし気に眉をしかめる。

 その間もサダルの周りを揺蕩う水は、どんどんと質量を増していた。

「その力が、加護も持たない人間に勝てないとしたら?」

「はい? 何を言ってるんですか? 加護を持たない人間が、僕に勝てるわけないでしょう?」

「オフィウクスの神は、どのような人間も神と同等に過ごせる力を得ることを望んだ。その結果が、お前たちとオフィウクスの間に大きな差を作ってるとしたら、お前はどんな風に思う?」

 この問いは、サダルだけに向けたものじゃない。その証拠にマルフィクは話ながら俺とタルフに一瞬視線を向けた。

「差って具体的になんですかね? ちょっとよくわかりません、よっ!」

 サダルが周りに漂う水が、巨大な塊となってマルフィクに襲いかかった。マルフィクは槍をサダルに向かって投げる。

「オフィウクスの星の住人に、お前らが勝てやしねェッてことだ」

 槍が水を切り裂いて、胡散させる。そしてまっすぐ飛んでいく。軌道のまっすぐさに、サダルが跳んで避けたが、槍は彼を追尾した。

「教えてやるよ。オフィウクスの力を」

 どんなに避けようと槍はサダルを追いかけ、追い詰めていく。マルフィクの力なのか? なにをしてるんだ?

 マルフィクの方を見ると何もせずにその場に立ち、サダルの様子を眺めていた。

 ガツという音とともにサダルが地面に縫い付けられた。槍はサダルの服をとらえていた。

「俺は今、加護を使ッてなンかいねェ。これは誰でも使えるように作られた力だ。これが差なンだよ」

 マルフィクはサダルに近づくと槍を引き抜いた。

「…………」

「オフィウクスの加護を得る条件……ここから逃げ出したい。そういう気持ちだそうだ」

 マルフィクはふっと息を吐いて俺を見た。お前もそうだ。と言われているようで居心地が悪い。

「あいつが……兄貴がほやと思ってたいうんやざ?」

 それまで見守っていたタルフが立ち上がってマルフィクに詰め寄った。震える声から動揺が伝わってくる。

「……そこまで詳しく俺は知らねェから、詳細知りたいなら師匠に聞け」

 マルフィクはフードを目深にかぶって、単調な口調で言った。突き放しているような言い方は、話したくないように思えた。

 タルフは、なおマルフィクを見ているが、どう話をすればいいのか迷っているようで、口が開いては閉じる。

 重い空気には似つかわしくない、嬉しそうな声が響く。

「……すごい……」

 全員の目が、まだ起き上がってこないサダルに向けられた。

「すごいですよ、マルフィクさん!」

 サダルはバッと起き上がるとマルフィクとの距離を一気に詰める。

「オフィウクスとの仲介、僕にやらせてくれませんか!? あの商品だったら、いくらでも売れる。いや、あれだけのものが作れるなら、きっと他にももっといっぱい便利なものがあるはず。悪いイメージを払拭すれば、その取引は市場を動かせますよ!!」

 目をらんらんと輝かせ、サダルは一気にまくしたてる。興奮して我を忘れてる感じだ。

「…………」

「僕なら悪いイメージ払拭どころか、イメージアップさせてみせますよ! ぜひ売買の契約を!!」

「……師匠に言え」

「師匠というと、あのもう一人のフードの方ですよね。たしかスピカさんと組んだ」

「…………」

 興奮しているサダルに距離を取るマルフィクは、明らかに不機嫌だ。会話を止めて顔を背けている。

 仕方なく俺が代弁した。

「うん、スピカと組んだ人がマルフィクの師匠だよ」

「なるほど、あの人なら話が早そうです。では、すぐに交渉しに行って――」

「サダル、待つやざっ」

「なにさ! 僕、いますぐ交渉に行きたいんだけど!」

「うらも行くやざ」

 焦ってどっかへ行こうとする二人に、俺は戸惑いながら声をかけた。

「でも、スピカたちがどこにいるか知ってるの?」

「あっ」

「つか、修行どうすンだよ」

「うぅ」

 マルフィクの追い打ちに、サダルもタルフも口を閉じてしまった。

「えっと、でも人捜しはマルフィクが得意だから、ね?」

「俺に振るンじゃねェ」

 思わず助けてあげてほしいとマルフィクを見るも、彼は顔をそむけたまま拒否した。しかし、サダルが間髪入れずにマルフィクに問いかける。

「マルフィクさん、お師匠さんの居場所わかるんですか?」

「……わかッたらなんだッて言うンだ」

「教えてほしいやざ!」

「めんどくせェ」

「そんなこと言わずお願いします! 今度も道具ですか? それともマルフィクさんの加護の力ですか?」

「…………」

 まとわりつかれてしまっているマルフィクが俺を睨む。余計なことしやがってと言われてる気がする。

「いいじゃん。修行だけど、俺はまだ二人と一緒にできるレベルじゃないんだろ? 先に二人が気になることを解消できるなら、いいことじゃん」

「はぁ……」

「マルフィクさん、教えてくださいよ~。一世一代の大仕事なんですから、絶対譲りませんよ」

「……わかッた。少し静かにしてろ」

 マルフィクは折れる様子のない二人にため息を吐いてから、承諾した。

 マルフィクは目を閉じてふっと息を吐くと、辺りが静まり返った。

 前は加護の蛇と会話してたけど、そういえば蛇を見ていない。神に近い力を持つなら、併合したんだろう。

 マルフィクの口がわずかに動くが、声は聞こえない。それどころから、水の流れる音も、鳥の鳴き声も何も聞こえない。

 なんでだろう。

 そう思っていたら、マルフィクが目を開けて、音も同時に戻ってきた。

「赤い星の方にずッと行けば会える。距離は相当あるから覚悟しとけ」

「わぁ、ありがとうございます! マルフィクさん!」

「おーきんのう。助かるやざ」

 二人は赤い星を確認すると、マルフィクに頭を下げた。

「それでは、会えたら戻ってきますので、その時はぜひお願いします」

 そして、俺にも頭を下げて、早々にサダルは自分の足元にある水を増やした。

「では、また!」

 タルフと自分の体を水に固定し、滑走させていくので、あっという間に見えなくなった。

「……なんかすごかったね」

「修行が進まねェ……」

 俺とマルフィクは取り残されたのだった。

ブクマありがとうございます!

とてもうれしいです!3章はいろんなキャラが出てくるので楽しんでもらえるよう頑張ります!


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