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3章 山羊の星7―特訓マルフィク、アスクペア―

 レグルスと山羊の神が飛び立った後、山羊の神の移動の反響であたりの水が舞った。

 しかも、同時に丘が爆発して水が噴き出したのだ。確実の山羊の神の”おっちょこちょい”が発動してしまったようだ。

 勢いよくふきかかってくる水に呑まれ、俺の意識は途絶えた――。


 目を覚ませば、マルフィクが隣に座って焚火にあたっていた。

「起きたか」

「うーん……耳の中が変……」

「水が入ッたンじゃねェの」

 マルフィクがふんっと鼻をならし、焚火で乾かしたであろう布を放ってくる。

 服が濡れて気持ち悪いけど、とりあえず顔と頭をふいた。服は絞れるだけ絞る。

「何がどうなったわけ?」

「山羊の神のせいで丘から水が大量に噴き出て全員バラバラに流されたンだ」

「やっぱりそっかー。俺とマルフィクは同じ場所に流れ着いたんだね」

「いンや。俺がお前を運ンだ」

「う、うん?」

「泳いで運ンだ」

 聞きなれない言葉に、俺はマルフィクを見た。あっちも同じように目を見開いて不思議そうに俺を見ていた。

「泳いでって、なに?」

「はっ?」

「……いや、うん。マルフィクってもしかして水がたくさんあるところの出身だったりする?」

「あ? 関係あンのか?」

「いや、俺のところは山ばっかでさ、あんまり水がなかったから……もしかして魚が泳ぐとかの泳ぐたったりする?」

「……ああ、お前の星ンとこの女も泳げてなかッたな。そうか、泳ぐ文化がねェのか」

 マルフィクは納得したように頷いてからはぁっと息を吐く。態度悪いな……。

「なんだよ、俺が泳げないのがそんなにいけないのかよ?」

「ㇵッ。そのとおりだよ。体力つけさせるのに長時間泳がせようと思ッてたが……無理そうだな」

「無理だなー」

 俺は乾いたのとは逆側を焚火に当てるため移動した。マルフィクも同じように背中を焚火に向ける。

「で、お前……どのくらい知ったンだ?」

 マルフィクが話を切り出してきた。

 彼と別れた時、俺は本当に何もしらない状態だったから気になってるんだろう。俺もマルフィクの近状を聞きたかったし、ちょうどいい。

「人間が神になれること、昔はもっと行き来出る星があって神もたくさんいたこと――加護の成長段階、かな」

「へぇ、ずいぶん知ッたンだな」

「お前は、神殺しについて何かわかったのか?」

「……まあ、そこそこ。な」

 内容を濁された。俺は答えたのに……と不満を持ってマルフィクを見ながら目を眇めれば、マルフィクはふんっと鼻を鳴らして笑った。煽らなくてもいいだろ……。

 どう聞けばマルフィクは答えてくれるんだろうか?

 双子の神殺しについて、マルフィクは理由を知りたがっていた。そこそこわかったなら、その理由もわかったんだろうか?

「じゃあ、双子の神殺しの理由は、人間が神になろうとしてたからだと思う?」

「ㇵッ。お前はその結論に至ッたのか?」

「俺はちがうよ」

「じゃあ、誰がその結論を出したンだよ」

「みんなそう言ってた……」

 蠍の神も、スピカも、ヘレも……アリエス様も。

「でも、俺はまだ見えてないことがあるんじゃないか。って思ったんだ。だから、お前が何か知ったんだったら教えてほしい」

「……ずいぶん知ることに積極的になッたな。ンでも、残念だがあれから新しい情報は何もねェ」

 マルフィクは人差し指を動かして俺を呼ぶ。俺が近づくと、耳打ちしてきた。

「けど、この競争に勝った褒美でわかるかもしンねェ」

「褒美って、未来か過去を一度見れるっていうアレ?」

 マルフィクの小声に、俺も小声になる。

「そうだ。アレで神殺しの過去をみれば、事実がわかる」

「なるほど!」

「ンでも、きッと師匠もあの乙女の星の女に同じようなことを吹き込ンでるはずだ」

「スピカに……?」

「乙女の神を殺した事実を知ることができるッてな」

 そうか、過去なら見れるわけだしスピカはすごく知りたがりそうだ。

 マルフィクは俺が頷くと離れてふぅっと息を吐く。

「あの力は相当欲しがるヤツが多い。全力でいかねェと勝てねェ、ッてことだ」

「そっか……でもみんなすごいからなぁ」

 勝てる気がしないんだけど。

「ㇵッ。どれもお前とどッこいどッこいじゃねェか。昔よりも加護持ちの質が落ちたンじゃねェの?」

「めちゃくちゃ失礼だなっ。昔っていつの話だよ」

 俺はくってかかった。

 いくら口が悪いっていっても、さすがにみんなを侮辱されるのは気に入らない。

「星がまだいッぱいあッた頃だよ。お前の星の女レベルが普通だッたンだとよ」

「師匠とかに聞いたのか?」

「…………」

 さっきまで小ばかにしたように笑っていたのに、急に口を捻じ曲げて黙り込むマルフィク。

 なんだ? いきなり仏頂面して……怒りたいのはこっちなんだが。

 唐突な変わりように戸惑う。

「なんだよ……?」

「……別に。お前のこと馬鹿にできねェな。ッておもッただけだ」

「意味わかんないんだけど」

「わからなくていい。話がズレた、お前の修行について話し合おう」

「……わかった」

 それ以上話はしないと切られては、俺も話を蒸し返すことができない。

 仕方なく俺は頷いた。

「まず、体力づくりをする」

「最初に? 加護の使い方とか増幅の仕方とか教えてくれるんじゃないの?」

「お前、オフィウクスの加護封印されてンだろ?」

「え、うん。ここに来る前にまた暴走させちゃって、アリエス様が牡羊の加護で抑えてくれてるけど……」

「ンじゃあ、それを外すのが先決だ」

「なんで? コントロールできるようになれば自然と制御は外れるって言われたけど?」

「ㇵㇵッ。牡羊の神が親切心からオフィウクスの加護を封印したとでも思ッてンのか?」

「どういう意味?」

「牡羊の神は典型的な利己主義じゃねェか。牡羊の神は他の星と関りを拒否して。ンで、住人にも姿も見せず、本当の事をいッさい教えず、そうやッて自分の都合のいい星を作ッてンだからな」

「――っ」

 思い当たる節があって、言い返す言葉を探すのに時間がかかる。

「保身が強くッて、自分の平穏を守るならどんな手段も問わないヤツが、お前のためにオフィウクスの加護を制御したわけがねェ。お前はその独特な力を恐がられたンだよ、牡羊の神に」

「………」

 畳みかけられて、どれが本当なのか、頭の中でマルフィクの言葉とアリエス様のいままでの言葉がぐるぐると回る。

 たしかにアリエス様がオフィクスの加護に向ける感情は尋常じゃない。

「で、でも。俺は加護の適性はあまりないんだろ? お前そう言ったじゃん。加護を具現化もできないんだ。って。そんな加護もうまく使えない俺が恐れられる理由なんてないじゃないかっ」

 どこかで否定したくて、必死に言葉を紡いだ。

 俺が? なんでアリエス様に恐がられなきゃいけないんだ?

「加護の適性……神の力の適性がないのは今も変わんねぇ。お前程度の力なら、普通は加護の力に喰われてるンだ。それなのに加護を4つも同時に持ち得てるお前は、俺だッて怖ェよ」

「はぁ?」

「山羊の神が珍しいッつたろ。逆に言うとお前の状況はあり得ねェンだよ。師匠ですら前例がないッつッてた。保身の強い牡羊の神がそのあり得ない状態のお前を野放しにするわけがねェ」

 はっきりと言いきられて、のどの奥がくっと詰まった。

「ンで、結論を言うと、お前が再び加護を使えるようになるには、神と同等の力を得て内側からぶッ壊さないとダメなンだよ」

 浮かんだアリエス様に対する疑問は無理やり頭の片隅に追いやった。今悩んでも、加護を取り戻すことが遅くなるだけだし、それに悩んだところできっと答えはでない。アリエス様とマルフィクの話のどちらが正しいのか、今の俺にはわからないから。

 だから、加護を取り戻すことに集中する。

「……わかったけど、体力をつけるのに意味はあるのか?」

「加護の力を期待できねェお前は、神の力に耐えうる体になる必要がある。じゃねェと、制御をぶっ壊す時に体がもッてかれちまうかンな」

「……お、おう」

「わかッたら、まずは体力づくりだ」

 マルフィクの切り替えに俺も気持ちを切り替えた。

 もやもやする気持ちはおいて、気合を入れなおす。

 よし、頑張るぞっ! 俺の目的は加護を取り戻すこと、それから一番力をつけてカプリコルヌス様の力を使って双子の星で起こった神殺しの過去を見ることだ。

 それだけを考えよう。

「よしっ! じゃあ、まずは何すればいい?」

「それを悩ンでる」

 あ、そっか。マルフィクのプランは俺を泳がせることだったんだもんな。それができないわけだし、他を考えるよな。そりゃ。

「そっか……」

「ああ……」

 しばらく無言でいれば、静かな中で何やら言い合いをしている声が聞こえた。

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