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3章 山羊の星4―山羊の星到着。新たな仲間サダルとタルフー

 山羊の星には牡羊の星から道を開けてもらって、すぐに到着することができた。

 そこはいままでに見たことがない景色だった。

 浸水している。といえばいいだろうか。水がひざ下ぐらいまであって、それが見渡す限り続いている。水から出ているのは岩肌の丘。唯一高い石のような丘のてっぺんからは水が噴出してるし、正直人が歩ける場所は広くはない。

 家もないし、ここって人が住めるのか? 今のところ人どころか生き物も見当たらないけど……。

「……なんつーか、すごいところだな」

 レグルスの言葉にみんなが頷く。

「山羊の星って、昔話にもあまり出てこなかったから、なんだか意外……」

「たしかに山羊の星は、あまり詳しい話は聞かないな」

 ヘレのつぶやきにスピカが同意した。

 俺は記憶を辿る。山羊の星……たしか水源豊かな、水の都……色とりどりの魚が跳ね回る優雅な星。だったかな。あぁ、うん。あんまり詳しくは教えてもらってないかも。しかも見た感じどうにも現状と合ってない。

「うん、教えてもらってたのとも違う……」

「うふふ~。神秘に包まれてますのよね~。でも安心してよいですわ~。今回は~、ちゃんと説明してくれそうな方々が~おりますわよ~」

 アルディさんが、どこかに手を振っている。そちらに視線を向ければ二人、こちらに向かってきている。

「ああ。サダルと、タルフか」

 スピカが納得したように、たぶん彼らの名前を口にする。

 近づいてきた二人は、俺たちの前に立つと首をかしげて俺とヘレ、レグルスの顔を見てきた。

「みなさん、どうも!」

 一人は、さらっとした淡い水色の髪を跳ねさせて、同じく水色のくりくりとした瞳で俺たちに笑顔を向ける。よかった、悪い人じゃなさそうだ。

 後ろでだんまりを決め込んでいる男は、俺よりも赤い髪、紅いっていった方がいいかな。鮮やかで滑らかな髪を後ろで縛ってる。前髪も長いせいか、茶色を帯びている目は片方しか見えない。しかも、ちょっと目つきは悪い。口もへの字にしていて、隣にいる相手とは対照的だ。

 二人ともたぶん同い年かちょっと下くらいかな。

「こんなに大所帯だったから、スピカさんもアルディさんも、来るのが遅かったんですか~?」

「そうですわ~」

「サダル、すまない。いろいろと予定外のことが起きてな」

「え~、詳しく聞かせてくださーい!」

「ああ、話すと長くなるが……まずは自己紹介をしておこう。こっちの二人が牡羊の加護を持つヘレ、アスクだ。アルディの隣にいるのは獅子の加護を持つレグルス」

 スピカが紹介すると、サダルは頭を下げ、タルフは一瞥だけしてきた。

「よろしくお願いしますね! 僕は水瓶の加護を持つサダルスウド。みんなにはサダルって呼ばれてますよ。こっちの子は蟹の加護を持つタルフです! 人見知りですが、仲良くしてくださいね」

「大きなお世話やざ」

 にこにこと笑うサダルと、むっとしながら冷たく短く言葉を発するタルフ。

 初めて声を出したタルフの言葉は独特だ。蟹の星特有の話し方があるって聞いたから、それだろう。

 乙女の星や牡牛の星と同盟関係を結ぶ水瓶の星と蟹の星の人たちということは、目的はスピカやアルディさんと一緒なんだろうか。

 自己紹介が終わると、スピカが二人に現状を報告し始めた。

「なあ、あいつらってお前と同じ目的なわけ?」

「そうですわ~。もうアスクさんとヘレさんには~、私たち同盟星の現状についてお話しておいた方が~よいかもしれませんね~」

「え、待って。俺は? 聞いたのは俺なんですけどっ!」

「黙って聞いていればよろしいのではなくて~?」

 相変わらずの二人のやり取りには苦笑しかない。

「同盟星の現状っていうのは?」

「乙女の星同様に~、同盟星の神も行方がわからなくなってるんですの~」

「えっ!? 他の星も!?」

「といっても~、乙女の神のように神殺しにあったかどうかはわかっておりませんわ~。牡牛の神は~、元々姿を見せる神ではなくて~、わたくしが加護を受け取った時に逢っただけですから~」

「アリエス様と一緒ですね。私もこの前、加護をもらうときに初めて逢いました」

 ヘレが親近感がわいた様子で、アルディさんに相槌を打った。

「蟹の神、水瓶の神は乙女の神同様にずっと星に干渉していたらしく~、最近唐突に姿を現さなくなったそうですわ~。時期がだいたい同じでしたので~、乙女の星の招集にてわたくしたちは原因の究明を誓い合いましたの~」

「それで蠍の神に逢えって無茶ぶりしてきたのかよ」

「ええ~、すべての星の神がどうなってるのか~、確認することにしたので~。サダルとタルフは山羊の星担当ですの~」

「じゃあ、オフィウクスの星に行くのが目的じゃないんだね」

「原因がオフィウクスの星でない限りは~。ですわね~」

 アルディさんはのほほんとしながら答えてかと思うと、急に表情を引き締めてレグルスを見た。

「獅子の星はー、どうなってますのー?」

 一段低い声に圧を感じる。いつもごまかすレグルスに対しての牽制なんだろう。

「さあな? 獅子の星から出てずいぶん経つからどうなってるかなんてわからねぇよ」

「レグルスー?」

「……まあ、たぶん獅子の神も行方不明なんじゃねぇの」

 アルディさんの圧に負けてレグルスは頭をガシガシと掻いて、ぶっきらぼうに答えた。

「獅子の神も行方不明なの?」

「たぶんなー。獅子の神は加護を奪い返すことができるんだ。それで次の王の候補が出てくればその前のヤツの加護を剥奪する。その期間が俺は過ぎてるんだけど、加護が剥奪されねぇから、ちょっとおかしいなとは思ってたんだよ」

 そうか、獅子の神は加護をたくさんの人に与えるなと思ってたけど、戻ってこない人からは加護を剥奪してたのか。じゃあ、実際今はレグルスしか獅子の加護を持ってないってことかな。

「獅子の神も行方不明なら説明はつくだろ? 剥奪する神がいないんじゃなー」

「……今~、神の存在が確認されてるのは~、牡羊の神、双子の神、蠍の神、天秤の神ですわね~」

「行方不明なのは乙女の神、牡牛の神、蟹の神、水瓶の神、獅子の神ってことか」

「あと確認できてないのは、山羊の神、射手の神、魚の神の三つの星ってことね」

 うん。だいぶ整理できたかも。

「話は終わりましたか?」

 スピカたちも話が終わってたらしく、サダルが声をかけてきた。

「はい~。そちらも終わりましたか~?」

「はい! なかなかハードな出来事を体験したみたいで、無事で何よりです」

「はよ本題にいくやざ」

 にこにこと笑うサダルに向かって、タルフが冷たく言い放つ。サダルが笑ったままタルフを見ると、なぜかタルフはすぐに顔をそむけた。

「それではタルフも待ちきれないみたいなので、山羊の星についてお伝えしますね」

「あ、うん。お願いします」

「まずこの星ですが、人間は住んでいないそうです。生き物は魚や鳥とか。あと水に強い動物のみだそうで」

「ほやで、食べ物には困らんやざ」

「えっと、誰かから聞いたって感じかな?」

「はい。山羊の神が教えてくれました。山羊の神カプリコルヌス様はあの噴水があがってる丘にいますよ」

 山羊の神は、常に姿を現している方の神らしい。丘を見れば、噴水があがっている周りに綺麗な泡? のような丸いものが浮かんでいる。

「よく七色の水の玉の上に乗って昼寝をしてるんですよ。近づくとあの水の玉は結構な大きさなので、びっくりしました!」

「詳しく聞くんなら、はよカプリコルヌス様に直接聞くやざ」

「タルフはせっかちだなぁ」

「おめぇがまどろっこしいだけやざ」

 サダルにはなんだかんだで返すな、タルフ。二人とも仲がよさそうだ。

「では、カプリコルヌス様に会いに行こう。案内を頼めるか? サダル、タルフ」

「任せてください!」

「だんね行こっさ」

 スピカの決定に従って、俺たちは二人に案内されながら山羊の神カプリコルヌス様の元へ向かう。

2022/5/5 微調整。本編の流れに変更はありません。

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