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3章 山羊の星2―帰還、牡羊の星―

 目を開ければ、懐かしい光景。そこは日に照らされた暖かい草原だった。

「ここは……」

「牡羊の星……だね」

 ヘレが俺の呟きに応える。そうだ、ここは俺とヘレの故郷牡羊の星だ。

 はっとして、周りを見回した。

 シャウラはヘレの足元に倒れていて、スピカも、レグルスもアルディさんも草原に倒れていた。扶養の騎士の姿はない。

 よかった、成功した。

『いきなり来たと思えば、僕の星の子じゃないか。蠍の神スコルピウスまで……』

 上から声が降ってきたと思えば、金色の羊――牡羊の神アリエスが目の前に降りてきた。俺とヘレを見てから、シャウラに視線を移す。

『……何をしてきたんだい? スコルピウスの力が弱ってるじゃないか』

「! シャウラ――蠍の神は危ないんですか!?」

『そうだね、このままじゃ危ないけど。でも、僕が力を分けるから、回復に集中すれば大丈夫だよ。安心して、僕の星の子』

「そっか、よかった……」

 アリエス様は笑うと俺の肩を軽く叩いてから、シャウラの元へと移動する。アリエス様が触れると、シャウラの傷が治っていった。

『……怪我だけじゃないな、力もだいぶ消耗してる。目を覚ますには時間がかかるかもしれない』

「……そうですか」

 それだけシャウラは頑張ってくれたんだ。なんだか胸の奥がずっしりと重い。

『スコルピウスはいいとして、他の三人の子たちはどうしたんだい? 命に別状はないとはいえ、君たちとは違ってずいぶん怪我してるようだけど』

「――!」

 俺は慌てて振り返る。スピカは気が付いていたようで、アルディさんとレグルスのところに移動していた。

「アスク、ヘレ、大丈夫だ。私の加護を使った」

 スピカは、ふらふらしながらも立ち上がって俺たちのところまで来た。服は焦げているけど、体に傷は見当たらない。

『乙女の神の癒しの力か』

「はい。あまり使用してはいなかったので、使えるかわからなかったのですが……少しでも使えてよかったです」

『そのようだね。傷の治療のみって感じだ』

 アリエス様はスピカに近づいてまじまじと観察した後に、頷く。そして、レグルスとアルディさんへ近寄っていく。

『うん、こっちもそうだね。どれ、気つけでもしとこうか』

 アリエス様がレグルスたちに触れれば、小さくうめき声を漏らしてレグルスたちが目を覚ます。

 全員が生きてることに、改めてほっとする。

 アリエス様はレグルスたちを連れて戻ってくる。目があった。

『僕の星の子、説明してくれるよね?』

「はい……!」

 俺は、さっきまでの出来事をアリエス様へ説明した――。


 蠍の神スコルピウス――シャウラと和解したこと、その時に扶養の騎士がシャウラを襲ったこと、全員が返り討ちにあって、俺がシャウラの力でオフィウクスの加護を使って切り抜ける術を見つけたこと、ヘレの牡羊の加護の力を増幅させて牡羊の星に飛んできたこと――

 一通りあった出来事を話した。

『なるほど、それでここに来たんだね。……オフィウクスの力は”知識”だ。アスク、君は加護の力、ひいては神の力を知ったんだね?』

「はい……。シャウラに力を増幅させてもらった時、オフィウクスの加護は俺が知りたいことを教えてくれました」

 神ごとに持っている能力は違うこと、牡羊の神には転移という力があったこと、ヘレの加護もそれを持っていたこと。また、神は加護に意識的に力を送ることができること。を。

 そう説明すれば、アリエス様はうぅんと腕を組んで黙ってしまった。

「アスクのおかげで俺たち助かったんだな。ありがとな!」

「そうですわね~。あの男との力の差は誰が見ても歴然でしたわ~。悔しくもありますが~……まずは~、アスクさんにお礼を申し上げますわ~」

 レグルスとアルディさんが、俺の肩を叩く。なんだかお礼を言われるのは、むずがゆい。

「それはシャウラが力を貸してくれたおかげで」

「ううん、加護を使いこなしたのはアスクだよ!」

「そうだな、蛇使いの加護に双子の加護、蠍の加護の3つを同時に使いこなしていたんだ。力を増幅させただけで、それをコントロールするのはなかなか難しいことのはずだ。私は自分の加護のコントロールはうまくできないからな、よくわかるぞ」

 ヘレとスピカがさらに持ち上げて来る。

 恥ずかしいと思う反面、嬉しかった。そっか、みんなを助けられたんだ。俺の力で。

 俺の力を、認めてもらえた……。

 いままでになく胸がいっぱいになる。

「一度使えたなら、もっかい使えるんじゃないか?」

「そうですわね~、加護というのはわりと肉体言語ですわ~」

「身体の方が覚えると言うな」

「そうなの?」

 みんなの言葉に、俺はちょっとだけ試してみた。さっきオフィウクスの加護を使った感覚を思い出し、手元に集中する。

 いびつで薄くはあるが、本が目の前に現れた。

「わっ、できた……!」

 すごい! これがあれば、オフィウクスの力があれば、なんでもわかる!

『僕の星の子。その力は禁忌だと、わかっているね?』

 冷たい声色に背筋がひやっとした。アリエス様からの警告だった。

 気を散らしたせいか本はすっと消えてしまう。

『いや、その力だけではないな。君たち全員、力を持つということの責任を理解するべきだ』

 アリエス様の口調はどこか厳しく、非難されているようだ。

「あの、それはどういうことでしょうか?」

『君たちが次世代の神候補になるからさ』

 アリエス様は、はっきりと言い切った。

 神候補。その言葉に衝撃を覚える。シャウラから神の世代交代の話を聞いてはいたけど、実感はなかった。でも、自分の星の神から告げられるその言葉は重い。

『同時に、新たな力を得た子――扶養の騎士も同じ神候補。いや、すでに自分の力に目覚めているあたり、ほぼ神と言ってもいいかな。その子を止めたいというなら、同じ立場まで駆け上がるしかないんだよ』

 重々しい空気が辺りを包む。

 扶養の騎士にまったくといっていいほど太刀打ちできず、俺たちは牡羊の星に逃げてきた。あれに追いつくって、そんなこと本当にできるのか?

 生きていく中での最高目標がそもそも”【神様へ祈りを捧げる役目】になる”だった俺なんかに。もう、神に気に入られて加護を与えられた時点で、それは叶ってしまったと同義になるのに。牡羊の星に戻ってこれて、アリエス様と話せている時点で分不相応なのに。

 それより先のことを考えるべきだ。と言われて、すぐに考えられるわけもない。

『神と同等の力を得る覚悟と動機がなければ、みんな自分たちの星に帰った方が幸せだと思うよ』

「私は……彼を神にするつもりはありません。乙女の神が不在なのであれば……乙女の加護を受け取った私が、その穴を埋めます」

『いいね、乙女の子の意志は固くて』

 最初に決意をあらわにしたのはスピカだった。すでに気持ちは固まっているのだろう、語尾は力強かった。

 アリエス様は頷くと、まだ答えていない僕たちに視線を向ける。

『他の子たちはどうだい?』

「力を得て~、牡牛の星に尽くしますわ~。元々牡牛の星をよくしていきたいと思っておりますし~。それに、恥をかかされたままはごめんですわ~」

「わたしも! 牡羊の星の力になれるならいくらでもがんばります。それに、あの人を野放しにしたら、牡羊の星も大変になっちゃうと思うから……」

 アリエス様の言葉に即答したのは二人、アルディさんとヘレだった。

 俺は黙り込み、レグルスは「あー」と言いながら頭を掻いている。

『獅子の子は悩んでいるのかい?』

「あー……そうですね。ちょっとわからない感じです」

 アリエス様の言葉にレグルスは苦笑って答える。アルディさんの笑顔がレグルスに突き刺さっているのは、ちょっとこわい。

『まあ、星の特色だろうから仕方ないかもね』

 アルディさんとは逆に、アリエス様は納得しているようだ。

 星の特色といえば、獅子の星では王になる可能性がある人間に加護を渡して、他の星を周らせるんだっけ。ということは、加護を持ってる人間がいっぱいいるってことだし、たしかに俺たちとは状況が違うのかも。

『質問を変えようか。獅子の子が星に帰らないのは、覚悟がないからなのは知ってるよ。それなら、君はここで降りた方がいいんじゃないかい?』

「さすがよくご存じで。まあ、星には帰りたくないですけどー……ここまで来てはいそうですかって降りるわけないですよ。足手まといにならないくらいには、がんばります」

『ふーん。まあ、後悔しないことだね』

 レグルスとの会話に終止符を打つと、アリエス様は俺の方を見る。次は俺の番だと、ドキっとした。

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