3章 山羊の星1―蠍の神殺害を逃れるために―
俺たちはただ茫然と目の前の状況を眺めていた。
眼前で金色に輝く砂に倒れていく蠍の神――シャウラ。
彼女の体を貫いた剣を持つのは、乙女の騎士スピカが扶翼の騎士ザヴィヤヴァと呼んだ男。レグルスとアルディは、連れてきた彼の蛮行に息をのむ。
「なぜ貴方が――?」
震える声でスピカが問えば、扶養の騎士は表情をいっさい変えないまま、目的を告げた。
「神殺しをしに来ただけですが?」
「――っ! 貴方が蠍の神殺しに来たということは……」
「ええ、乙女の神はすでにこの手で」
スピカの乾いた声に、驚きもせず淡々と答える扶養の騎士はシャウラから剣を引き抜く。シャウラの体がドサっと鈍い音を立てて地面へと落ちた。
扶養の騎士の返答に、スピカが動いた。剣を引き抜き、一気に扶養の騎士へと距離をつめる。けれど、弾けるような音とともにスピカは吹き飛ばされた。
「スピカ!?」
「――っ! メ―メ―、シャウラを守って!」
俺がスピカに気を取られているさなか、すぐ横にいたヘレが大きな声を出す。その声にシャウラを見れば、扶養の騎士が再度剣を掲げて切りかかろうとしていた。
ヘレの言葉に牡羊の加護が反応し、シャウラを包み込んで守ろうとする。けど、剣は容赦なく間に入った牡羊の加護を一刀両断した。加護が胡散する。シャウラにも届いていたようで体に傷が生生しく刻まれていた。
「うっ……」
「ヘレ!」
隣で崩れる気配がして、慌てて抱き留めた。ヘレは苦しそうに額に汗をにじませている。
「ちっ、乙女の加護持ちっつって信用した俺がバカだったぜ。乙女の神殺しをしたってことはあいつは敵だな」
「ほんとにも~。人が連れてきてあげましたのに~、ちょっとおいたが~、すぎましてよ~」
いつの間にか俺とヘレの前に立っていたレグルスとアルディさんが、二人で扶養の騎士の両方からそれぞれかかる。
扶養の騎士が口を開く前に、レグルスの銃が火をふいた。しかし、扶養の騎士はあっさりと避ける。そこに、アルディさんが回し蹴りを仕掛た。素早い連携でも、扶養の騎士は剣でアルディさんの攻撃を受け流した。
そして、またバチンという何かが弾ける音が2回した。
「――っ!?」
「あつっ!?」
二人が吹き飛んで、砂に埋もれる。
扶養の騎士は、残っていた俺を見た。どうしよう。すぐに動けなくて、気づけばみんなやられてしまった。それなのに、俺は動けないでいる。
「邪魔をしないのであれば、何もしませんよ」
扶養の騎士は俺に釘を差し、シャウラに向き直った。手に煌々と赤く光る何かを作る。何度もそれは小さくバチンとか、ボコとか弾ける音がしてた。
あれは、スピカたちを吹き飛ばした何かだ。三人とも起き上がってこないのを考えると――正直、怖い。足がすくむ。
「アスク……――」
意識を取り戻した蠍の神が、俺を見て小さくつぶやいた。「逃げろ」って。
ヘレが俺のこわばった手を離す。
怖いけど、でも、俺は……。
シャウラとヘレの「逃げろ」という意思に反して、扶養の騎士とシャウラの間に立ちはだかった。
「俺だって、加護が使えるっ!」
使っていいって言ってくれたシャウラの言葉を、俺は信じる。きっと、何か打開策があるはずだ。それを知りたい。
俺の足にシャウラの指が触れたから、俺は守るように相手をにらみつけた。
「仕方ないですね、蠍の神の前に四散してください」
その俺に、扶養の騎士は手の中で赤くうごめいているそれで攻撃しようとする。でも、それがなぜかゆっくりに見えた。
『汝、我を求めよ』
同時に、ガラガラとした低く声が耳に響いた。この声は知っている。牡羊の星を出る時に聞いた声だ、オフィウクスの声。
「求める! みんなを助ける術を! 助ける力を!」
加護に求める!
強くそう思えば、目の前の光景はがらりと変わっていた。眼前に迫っていた扶養の騎士は、突如具現化した双子の加護カストルが放った弓に遠ざけられて、俺の肩にはオフィウクスの加護の赤い蛇が、足元には蠍の加護の蠍が具現化されていた。
『アスク、あいつは僕たちが止めておくから、ちゃんとオフィウクスの加護を使って解決方法を考えて』
カストルが蠍を手に取ると、蠍が弓の矢に変化した。彼は弓を構え、扶養の騎士にその矢を向ける。
『汝、探し求めよ』
赤い蛇は俺の目の前まで来ると、姿を変えた。大きな本が宙に浮く。パラパラと勝手にページがめくれる。”探し求める”たぶん、前に使っていた使い方と一緒だ。目的、そして質問。検索。
「みんなを助ける方法。相手の能力。戦う能力。加護の能力……」
俺が口走ればそのたびにページが開かれる。そのたびに知識が目から頭に駆け巡る。
扶養の騎士の能力は爆発という新しい力。それは加護が神と同等の力になった証。
戦っても今の俺たちの能力じゃ勝てない。神と同等の力を持つ相手には蠍の神シャウラじゃないとダメだ。でも、シャウラは疲弊してる。勝ち目なんかない。
加護の能力は、神と同等の力になるまでは元の神の力と同じ能力――
「牡羊の力の一つならもしかしたら……」
俺はしゃがみこんで、俺に力を送ってくれているシャウラに話しかける。
「シャウラ、俺じゃなくてヘレに力を送れる?」
「っ……考えがあるの、じゃな……?」
「うんっ」
「承諾した……」
シャウラは力を振り絞って、ヘレに近づく。座り込んでいるヘレに触れると、ヘレの加護が再び具現化した。
『どの力を使いマスカ? 守りマスカ?』
メ―メ―がしゃべったことにヘレは驚いたような表情をしている。でも、時間がない。扶養の騎士を止めているカストルたちも限界が近い。何より、シャウラからの力の供給がなくなった俺では、力を維持できない。
「ヘレ、牡羊の移動の力を使って!」
俺が叫べば、牡羊の加護メ―メ―がヘレに問いかける。
『牡羊の星に戻りマスカ?』
「! お願い! みんなで戻りたい!」
ヘレは俺の意思をわかってくれた。
メ―メ―が光って、辺りを包み込む。まぶしすぎて、目をつむった。
3章「山羊の星」を開始します。
この星と次の星で、中盤ぐらいのお話になるかなと思います。
今後ともよろしくお願いいたします!
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