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2章 蠍の星24―蠍の神シャウラ、仲間に加護を与える―

 ピラミッドから出るのは、簡単だった。神用の裏口があったからだ。扉を開けると、輝く太陽に一面の黄色い砂が目に入る。

「久しぶりの外じゃのぅ。まぶしい……」

「そりゃ、ずっと地下にいればそうなるでしょ」

「うむ。それだけではないがな」

「えっ?」

「さて、アスクたちの目的は蛇使いの星に行くことじゃったな」

 ヘレの不思議そうな顔を見ぬふりして俺に話を振ってくる。

「いろいろな星を巡ると思うと、心が躍るのぅ!」

 わかる。俺も、はじめはオフィウクスの加護をもらったから気が気じゃなかったけど、今はスピカやヘレもいるし、いろいろな星に行けるし、神様から直接いろいろな話聞けるし、めちゃくちゃ楽しみになってる。

「そこで、蛇使いの星に行くためにお主らにわしの加護を与えよう」

「えっ!?」

「複数の加護を受け取れるのですか……?」

「うむ。争いが絶えぬ時代には、各々の神の加護を受け、自身ともっとも相性が良い加護を強化させたそうじゃ」

「え、同時に使うとかって普通できないの?」

「昔話には出てこなかったかのう……実際にやってみればわかるじゃろ! 三人とも手を出せ」

 蠍の神に促されるままに俺たちは彼女に向って手を差し出した。

 その手に彼女は自身の加護、蠍を一つずつ置いていく。スピカとヘレの蠍はすっと体に溶け込むように消えたのに対して、俺のは残ったままだ。けど、微動だにしない。

「うぅむ。アスクは、加護について受け入れとらんじゃろ?」

 受け入れてないって? どういうことだ? 頭に疑問しか浮かんでこない。

「どこかで”拒否”をしておらんか? オフィウクスの加護が悪いものだと思い込んでいたり、加護を受け取った際に遠慮していたりはせんか?」

 蠍の神の言葉に、俺はオフィウクスの加護を受けた時を思い出した。「加護をもらうならオフィウクスの加護ではなくて……牡羊の神の加護が良かった」その思いを。

 そもそも、オフィウクスの加護は望んで手に入れたモノじゃない。消えた星の加護なんて、怖がられている星の加護なんて、いらない。と、初めは思っていた。

 でも……双子の星で助かったのも、蠍の星で罠をかいくぐったのも、オフィウクスの加護が、力が、あったからだ。この力がなければ、俺はきっとここに立っていない。

 今、オフィウクスの加護が怖いとか、いらないとか、思えない自分がいることに気づいた。

 オフィウクスの加護はすでに俺の力の一部だった。初めて望んで手に入れたジェミニの加護も、あんなすごい力俺には使えないと思ってたのに、いつの間にか俺の身近にあった。

「……加護、使ってもいいのかな?」

 それでもまだ、加護というのは神の力で、俺なんかが使っていいものか。という不安が頭をもたげた。

「加護というのは神が認めたものに送るものであり、神の手から離れたモノ……つまり受け取った者の力じゃぞ。アスク」

 俺の力……俺の力でいいというなら……俺にはこの力たちが必要だ。もし使えるならもっとちゃんと力を使いたい。

 もっと加護と共にありたい。

 そう思った時、てのひらの蠍の神スコルピウスの加護はすっと俺の体に溶け込んだ。

「うむ。ちゃんと受け入れたようじゃな。よかったよかった」

「ありがとう、ございます」

「ふっふっふ、もっと敬ってもいいんじゃぞ! アスク、ヘレ、スピカ!」

「スコルピウス様、ちょっと調子乗りすぎ。でも加護はうれしい、ありがとう」

 ヘレが蠍の神の名前を呼んでほほを振らませるポーズをしてから、すぐに頬を緩めるとお礼を述べた。スピカもスコルピウスに頭を下げる。

「そ、それは蠍の神と星の名じゃ! ……その……」

 名前を呼ばれたことに動揺した蠍の神が目を泳がせてから、小さくつぶやいた。

「わしのことはその……シャウラと呼んでくれんかのぅ?」

 言いにくそうに出た言葉は意外なもので、彼女の人間だったころの名前だと、簡単に想像できた。

「わかった。シャウラ、よろしくね!」

「うん、シャウラね。」

「承知しました、シャウラ様」

 みんなで名前を呼べば、シャウラははにかんだ。

 その時だった。

――ザシュ

 耳慣れない音とともに、シャウラの体から赤く染まった剣が突き抜ける。何が起こったかわからないうちに剣は引き抜かれ、ドサっという音とともにシャウラの体が砂漠の砂へと包まれた。

 シャウラが倒れた後ろから現れたのは、スピカと同じ騎士――見たこともない青い髪、深緑眼は眇められ冷たさを帯びていた。

「い、いきなり何してんだ!?」

 大きな声に気を引き戻される。この声はレグルスだ。声に振り向けば、いつの間に来たのか虎になったレグルスがアルディさんを乗せて後ろまで迫っていた。

「扶翼の騎士ザヴィヤヴァ、なぜ貴方が――?」

 レグルスとアルディさんについて考える暇もなく、スピカが青い髪の男に上ずった声で問いかけるのが聞こえた。え、知り合い……?

「何って? 神殺しをしに来ただけですが?」

 扶翼の騎士ザヴィヤヴァと呼ばれた彼は表情をいっさい変えないまま、そう目的を告げた――。

2章蠍の星はここまでとなります。

ここまで読んでくださりありがとうございます。


面白い、楽しい、と感じて頂けたら、

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次回は3章山羊の星に入りますが、更新は4月からを予定しています。

引き続き、楽しんでいただけるよう精進してまいりますので、よろしくお願いいたします。

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