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2章 蠍の星23―神の世代交代―

「え、どういう意味?」

「じゃから、わしが蠍の神になる前の話じゃ」

「神様って、ずっと神様じゃないの……?」

「いや? わしのところは世代交代制じゃが?」

「世代交代制ということは、先代の神がいらっしゃったのですか?」

「何を言うとるんじゃ、当たり前じゃろう! 母様が先代の蠍の神じゃ。銅像を見たじゃろう、あれが母様じゃっ!」

 俺、ヘレ、スピカの矢継ぎ早の質問に、焦れたように蠍の神は叫んだ。

 いや、何を言ってるのかと聞きたいのはこっちの方だ。人間が神になるって? そんな話、聞いたことも文献で見たこともない。

 ヘレもスピカも戸惑いを隠せていなくて、蠍の神はさっと顔を青くさせた。

「もしや、お主ら……知らんかったのか?」

 加護を持っているからてっきり。と何やら焦って口を滑らせているが、この話はもしかすると禁忌……な話なんじゃないか?

 俺とヘレが戸惑っていると、スピカが表情を引き締めて前に出る。

「……知りませんでした。ですが、蠍の神、教えていただきたい。世代交代ということは、神は変わることができ、そして……死ぬこともある。ということですか?」

「いや、これは安易に話していいことではない」

 スピカの問いに、蠍の神は一歩下がった。拒否を示しているが、スピカはさらに間合いを詰めた。

「わかっております。しかし、今……『神殺し』が横行している可能性がありまして、どうしても知りたいのです」

「『神殺し』じゃと?」

 『神殺し』という言葉に、蠍の神の顔つきが変わる。スピカはさらに畳みかけた。

「そうです。乙女の神は……姿を消しました。安否はまだわかっておりません。私が知る限りでは、今、オフィウクスの加護を持つ者がもっとも怪しい動きをしています」

「……わしが閉じこもっておる間に何やら物騒な方向に話が進んでおるのう」

 重い話に蠍の神はふぅっと息を吐くと、スピカの肩に手を置いた。

「本当は世代交代する者にしか話してはならぬのじゃが……お前たちにはわしが先に敬意を示さねばならぬ。いいじゃろう、わしが知っていることを伝えよう」

「ありがとうございます」

 スピカの緊張が綻び、ほっとした。同時に、神について詳しく知れることに俺は胸が弾んだ。わくわくする。

「まず、一つ目の質問の答えじゃ。神は代わることができるのか。これに関しては可能じゃ。神はその力を別の人間に譲渡することができる。これは、一部であれば”加護”となり、すべてであればその者を”神”とする」

「それが世代交代……」

「そうじゃ。譲渡すれば人間に戻るからのぅ。あとは余生を楽しむと母様は言っておった。もちろん加護から神になる方法もあるのでな、星によっては神が複数存在することもあったそうじゃ」

「加護を持っていれば神になれるの?」

 ヘレが心配そうに腕輪を撫でながら蠍の神に聞く。

 俺たちは別に神になりたいわけじゃない。だから、神になれるという事実を受け入れられるか不安なんだろう。

「できる者もおる。という方が正しいかのぅ。加護の力は、それぞれの人間の中で徐々に力を増し、やがて神と同等の力を得ることができるのじゃが、力を増す具合はそれぞれの才能によって左右されるのじゃ。そうじゃのぅ……」

 蠍の神は顎に手を当てて思案した後、ヘレを指さした。

「お主たちの中ではヘレがもっとも神に近いぞ」

「わ、わたし?」

 いきなり名指しされてヘレは驚きを隠せていない。

「加護の力を実体化するというのは、かなりの力の強さじゃ」

「で、でも、メ―メ―はしゃべれないよ?」

「そうじゃな。加護の強さはわかりやすいぞ。加護を使える段階、加護が実体を持つ段階、加護が自我を持つ段階、加護が話す段階、と徐々にあがっていくのじゃ。ヘレは加護が自我を持つ段階に達しておるが、皆は加護を使える段階のようじゃ」

「どこまで行けば神と同等の力なのでしょうか?」

「先ほどいった段階の上じゃ。自我を持ち、話ができる加護と一体化するんじゃ」

「一体化? 加護が実体化したのに、わざわざ自分の中に戻すってこと?」

「そうじゃ。育ち膨れ上がった加護という力を、自身のモノにする。そうすることで神と同等の力を身に着けられるのじゃ。いわば神になるための最低条件じゃな」

「うぅん、でもそこまで身につくには時間かかるんでしょ?」

「そうじゃな、一朝一夕では身につかん。じゃが、才能によって数年あるいは数十年かければ身につくと聞く。それが原因で昔は争いが絶えなかったそうじゃ」

「昔? そんな時代があったの?」

 そんな話、聞いたこともない。思わず疑問が口をついて出た。

「無論じゃ。二つ目の答えになるが、神を殺すことには、神と同等の力を持てばよい。ただし、力を持つ者が増えれば、必然的に神の立場の奪い合いが起こるわけじゃ」

「神の立場の奪い合い……」

「まあ、そういった星では結局神がいなくなったらしいがのぅ。故に、今は神殺しの方法や、神になれるという話は引き継ぐ人間にしかしない。とするのが暗黙のルールじゃ」

 暗黙のルールってことは、その大昔? の話もタブーなんだろうなぁ。だから、聞いたことがないんだ。

「……神が死んだあと、やはり星はなくなるのですか?」

「神が死ねば、道は閉じ、行き来ができぬ。そのあとの星がどうなったのかは誰にもわからん。しかし、おそらくは星もなくなるじゃろう。神が星に力を与えなければ、星が衰弱してしまうのだから」

「たしかに、双子の星が顕著だったな」

 双子の星に到着した時、土地は荒れ果てていた。でも、人間と和解した後神の片割れのポルックスが星に力を与えて再生させたんだよな。ということは、ポルックスが力を与えないと土地はそのまま荒れ果ててしまうわけで……最終的には星も存続が危ういってことか。

「ふむ。だが、それでは神の引継ぎができなかった際や神が力を放棄した際に星が滅ぶ。じゃから、衰弱した星に神同等の力がいれば、おのずと星とその力が結びつき、神の入れ替えが起こるのじゃ」

 蠍の神の説明に息をのんだ。どうして神殺しをするのか、俺はわからなかった。でも、神になれるというなら、それを知っている人間がいるのなら……。

「これが、神殺しをする理由……」

「神になるなど不遜すぎる」

 スピカが苦虫をつぶしたように、顔をしかめた。

「スピカ、乙女の神殺しについて……オフィウクスの加護を持つ者が怪しいと言ったな。じゃが、神の入れ替えが目的なのであれば、わしは同じ星の人間のが可能性が高いと思うぞ」

「……なぜですか?」

「星と神とは切っても切れぬ。星が滅べば神は生きてはいけぬ。そして、星と力がもっとも結びつきやすいのは、その星の神の力じゃ。じゃからこそ、神は加護を与える者を選ぶ。反旗を翻させないためにも」

 スピカの戸惑う表情を、蠍の神はじっと見つめて再度口を開いた。

「スピカ、乙女の星でその動機を持ちうる人物に心当たりはないかのぅ?」

「――っ!」

 息をのんだスピカはどう見ても衝撃を受けている。思い当たる節があるのか?

「オフィウクスの加護は、アスクも持っているのであろう?」

「え、わかるの?」

「わずかに加護の力を感じるのでなぁ。それであれば、わしはそこまでオフィウクスの加護を持つ人間が怪しいとは思えぬのじゃ」

「しかしっ、アスクは特別で……」

「そうじゃろうか? オフィウクスの意図はわからぬが、おそらく神になりたいと思っている人物をわざわざ選んでいるわけではないと思うがのぅ」

「……だといいんですが……」

 スピカは納得できないようだ。でも、その表情はなぜか迷いが浮かんでいた。

「俺もオフィウクスにはあんまりいい印象がないかな」

 オフィウクス――蛇使いの星については俺の星でもよくない話があったんだ。乙女の星も同様なら、何かしらがあるんじゃないだろうか?

「そうよね。蛇使いの星については私たちの星ではよくない話があったし」

「うん。13番目の惑星「蛇遣いの星―オフィウクス―」の話はしてはならない。蛇が迎えに来るって、子どものしつけで使われてたくらい普及した話だった」

「なるほど、双子の神殺しの話が原因じゃな。その神殺しは確実に神々を震撼させた。暗黙のルールにより、しばらく争いのない時代が続いておったからのぅ。より深く恐怖が刻まれたんじゃ。周りを信じられなくなった神々は、己の星に閉じこもったり、あるいはさらに厳しい処遇を人間に課したりした。神と人間との間はだいぶ冷え切ったと聞く」

「昔は、もっと仲が良かった……んだよね?」

 双子の神ポルックスは昔は仲が良かったって言ってた。実際、わだかまりが消えてから、彼は人間に好意を持っていた。

「と、聞く。実際に話を聞くのであれば、神の交代をしない方針の神に話を聞くべきじゃろう」

 そっか、蠍の神は世代交代したんだもんな。

「交代しない神もいるのね」

「うむ。母様から聞いた古き神は牡羊の神アリエス、双子の神ジェミニ、天秤の神リーブラじゃな。山羊の神カプリコルヌスは変わり種で長い時もあれば短い時もあるようで、つかみどころがないと聞く。逆に頻繁なのは、乙女の神ヴァルゴ、牡牛の神トーラス、水瓶の神アクエリアス、蟹の神キャンサー、わしの蠍の神スコルピウスじゃな。頻繁ということは、人間の寿命での入れ替わりに近く人間との境目が薄い星ということでな。あとは不明か定期的に変わるそうじゃ」

 星によって、神の在り方が違うんだ。蠍の神の話は驚くことばっかりで、でもだから考え方の違いがあるんだと気づかされた。

 アリエス様はずっと交代しないであの星を守ってらっしゃるのか……。

「ようするに、わしはお前たちに近い存在じゃ。じゃから、わしが自らお主らについていってもなんの問題もないというわけじゃ」

「はぁ!?」

「えっ!? ついてくるの!?」

「神が星を離れる……?」

 説明をし終わったが蠍の神が腕組をして言い切った言葉に、全員がそれぞれ言葉を返した。誰も驚きが隠せていない。

「お主らがここにいてくれないのなら、わしがついて行けばすむ話じゃろう?」

「いや、でも……ええ?」

「お言葉ですが、星はどう……するのですか?」

「星のことは心配いらん。力は引きこもっているうちに存分に込めておいたし、何より神が引きこもっておっても回る星じゃ、しばらく不在でもどうとでもなろう!」

 はっきりといい笑顔で言い切る蠍の神スコルピウスは、本日で一番いい表情だった。

 そんな彼女を、説得できる者はこの場にはいない――。

 結局、蠍の神スコルピウスは俺たちとともに蛇使いの星を目指すこととなった。

評価・ブクマありがとうございます!

めちゃくちゃうれしいです! 2章あと少しがんばります!

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