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2章 蠍の星21―逃げてきたヘレと蠍の神に関して話し合う―

ヘレの牡羊の加護の名前を「あっちゃん」→「メーメー」に変更。

 思ったよりも早く下の階に降りる砂の凹みは見つけることができた。

 でも、飛び込むのを戸惑ってしまった。だって、砂の中央になんか白い毛玉が……動いてる。

 なんだ、あれ? 見たことあるような気がするんだけど……。あ、羊の毛にめっちゃ似てる。

「えっ!?」

 白い毛玉がすぽーんっと勢いよく飛び跳ねた。と同時に、目の前に人影が降ってきた。

「いたーい……え、あ、アスク?」

「ヘレ、なんっで……?」

 よく見知った顔が目の前にいる。驚いた表情でお互いに見つめ合って、言葉を失う。

「……え、アスクこそなんでここに?」

「いや、俺は蠍の神に会うために下に……」

「ダメ!」

 ヘレの大きな声に驚いて後ずさる。

「あ、ごめん……私、蠍の神のところから逃げてきたの。ずっと同じとこをぐるぐる周るから、砂が降ってくるところを見つけてメ―メ―に乗ってなんとか上ってきたの……」

 説明をしている間にヘレの瞳から涙がこぼれた。

「え、あ……ヘレ?」

「うぅ……アスク、無事でよかったぁあ!」

 ヘレはほっとしたのか流れる涙も拭かずに抱き着いてきた。勢いのまま尻をつくも、ヘレは離れなくて。俺は落ち着くようにと背中を撫でる。

「うん……ヘレも無事でよかった」

「……うん!」

 ヘレが顔をあげると笑顔が戻っていた。俺はほっとする。

 つられて笑った俺に、ヘレも落ち着いたように体を離した。ヘレが身震いをするので布を被せる。

「……落ち着いた?」

「うん……ありがとう、アスク」

 隣に座り直し、ヘレは頷いた。俺は話を切り出す。

「ヘレ……。別れてからいろいろあって、ヘレの話も聞きたいんだ。情報を共有しよう」

「うん、私もいろいろ聞きたい」

「じゃあ、俺から話すね――」

 ヘレと別れてから、レグルスが蠍の神の毒を受けてアルディさんとピラミッドの外に出たこと、スピカが蠍の毒に倒れて蠍の神に助けられたこと、蠍の神との約束を話した。ヘレは、蠍の神との会話を話してくれた。

「……やっぱり、蠍の神ってやってることがおかしくないか?」

「どういうこと?」

「ずっと何かひっかかってたんだ」

 ピラミッドに引きずり込まれた時、女の人がいて『待っておる』って寂しそうに言われて、蠍の神だって思った。けど、蠍の神と会った時には寂しそうなイメージは全然なくて……でも、どこかで彼女のような気がしてた。

 冷静に考えてみると、蠍の神の言動は矛盾してることが多い。

「蠍の神って、加護を通して俺たちのことを観察してると思うんだ。じゃなきゃ、あんなに良いタイミングで姿を現さないだろうし」

「そうね。私の目の前にいたのに、アスクたちの動きを知ってたから、間違いないと思う」

「けど、レグルスやスピカに毒を仕込んだり、ピラミッドの内部の罠やこの砂漠の環境は、下手したら死ぬだろ?」

「そうね……」

 ヘレは目を瞬いて俺を見る。それがどうしたのか? と疑問に思っているようだ。

「でも、危ない段階になると蠍の神はトドメを刺さないんだ。もしかしたら助けてるに近いかも」

「でも、それはアスクやスピカさんを気に入ってるからじゃ……」

「本当にそうかな? レグルスが持ってた地図あるだろ? あれって本当に内部の描写がこのピラミッドと一致してた。誰が、その地図をもってたんだろう」

「それはピラミッドの中に入った人が……」

「だったら、ピラミッドを最奥まで行って戻った人がいるってことだろ? あの罠を抜けて、蠍の神の妨害を抜け、この環境に耐え、最奥まで行き、そして戻った……」

 蠍の神に気に入られない限り最奥まで行くのは難しい。ヘレのように人質にされてしまえば、中間の見取り図は作れない。

「ということは、俺もピラミッドから出れる可能性が高い。と思うんだ」

「蠍の神はそんなに甘くないように見えたけど……」

「そこだよ。だから、おかしいんだ。もしかしたら、本心は違うんじゃないかなって……」

「……私にはわからない。あの人が何を考えてるのかなんて」

「そう? 聞いてると、ヘレと話してる蠍の神は楽しそうだけど」

「えぇ!? どこをどう聞いたらそうなるのよ!」

 驚くヘレに俺はちょっと考えた。ヘレが話した蠍の神は、わざとヘレを怒らせてるみたいだったんだよなぁ。なんか引き留めてるみたいな。

「んー……蠍の神がさ、本当にずっと一人だったなら、人との付き合い方が下手なのかな。って。構ってくれるならどんな人でも歓迎って、そっちが本心のような気がして。ヘレに興味がないのに、ヘレにそんなに話をするとは思えないんだ」

「はぁ、たんに人で遊んでるだけだよ」

「そうかなぁ。人で遊ぶっていう残忍さは感じないんだよな……なんか言ってることが子どもみたいじゃん」

「子ども……うっ、しっくりくるかも。でも、神様だよ? なんでそんな風に考えられるの?」

「え、考え方は人も神様も一緒じゃない? たしかに文献通りすごい力の持ち主だし尊敬はするけど、話してみれば考え方は双子の神たちもそんな変わらなかったし」

「……そう、だね。偉大な力を持つから及びもつかない考えを持つとは限らないよね」

 ヘレは質問の末、頷いて同意を示してくれた。

「ヘレには言ってなかったけど、ピラミッドへ入った時に寂しそうにつぶやいた声を聞いたんだ。”待っておる”って……ずっと蠍の神じゃないと思ってたけど、いろいろ考えると、やっぱりあの声は蠍の神だと思うんだ」

「じゃあ、ずっと待ってるの?」

「うん。だって、俺を最奥に連れていきたいなら、ヘレみたく罠とかで最奥まで連れていけると思うんだよね。でも、自分の足で来いってかたくなに言うでしょ?」

「たしかに……じゃあ、本当は誰かに迎えに来てほしいのかな?」

「そうだと思う……レグルスとアルディさんに怒ったのだって、二人が仲良くしてたからみたいだったし」

「怒るってことは、気にしてるってことだもんね。……仲良くしたかったのかな」

「俺の勝手な予想だけど……だから、今度はちゃんと話をしてこようと思う」

 ヘレは空を見上げると、意を決したように立ち上がった。

「うん。私も一緒に行く! たしかに言ってることとやってることがちぐはぐだもん。もしかしたら自分の気持ちに気づいてないのかも……はっきりさせてやるわ!」

 ヘレの伸ばされた手を取って、俺は立ち上がった。

「わかった。行こう、ヘレ!」

 俺とヘレは、蠍の神のところへ向かう――。

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