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2章 蠍の星17ー対蠍の神(ヘレ)、アスク一派VS宝庫の罠ー

 ――ピラミッドの階を下へ下へと降りた奥の奥。蠍の神は自身のためにしつらえた部屋で、ヘレと対峙していた。

 ヘレの手首は縄で縛られて、牡羊の加護が入っている腕輪は蠍の神の手で弄ばれている。

「やっと起きたか、寝坊がすぎるのぅ」

「……どうしてこんなことをするんですか?」

 数段上に座って見下ろしてくる蠍の神に、ヘレは戸惑いながら問いかけた。先ほど、なんの前触れもなく穴に落とされ、気が付けば手首を縛られていた。蠍の神の意図がヘレにはまったくわからない。

 蠍の神はヘレの質問にじっと視線を返したかと思えば、にっと口端をあげてはっきりと応えた。

「お主が気に入らなかったのでな。暇つぶしじゃ」

「え? わ、私、何か失礼なことをしたでしょうか?」

 顔面を蒼白にさせたヘレに、蠍の神はさらに愉しそうに顔を綻ばせた。

「無自覚じゃのぅ。しかし、そういう顔はなかなか見どころがあるわ。くふっ、ふふ、とても愉快じゃぞ」

 蠍の神はヘレに近づき、その顔をまじまじと見ると耳元へと口を寄せた。

「お主が心底嫌いじゃ。何よりの理由じゃろう?」

「――っ!」

 きつく宣言された言葉に、ヘレは目を見開き驚きを隠せないでいる。嫌悪がヘレに突き刺さり、本気なのだと告げている。ヘレは自分が何をしたのかと戸惑い、疑う。しかし、どうにも答えは見えてこずに、胸の奥底に重い闇が渦巻く。

「さて、わしはこれからお気に入りの様子を見るのでな。邪魔はしてくれるな、厚顔なオナゴよ」

 蠍の神はそう言うと再び椅子へと腰かけた。そして、ゆっくりと目を閉じる。

「…………」

 ヘレは蠍の神の侮辱の言葉を受け、心を決めた。「逃げ出そう」と。アスクやスピカが助けに来る前に、みんなが大変な目に合う前に。



 祭壇の奥にあった階段を下り、次の階へと到着する。

 そこはきらきらと輝く黄金や宝石が山のように置いてある宝庫だった。

「うわぁ……すごい」

 右を見ても左を見ても、違う色、形の宝石の数々。すごいとしかいいようがない。

「蠍の星自体が宝石の宝庫だからな。ピラミッドにたくさんあるのは当たり前なんだが、あふれるくらいあるのにはびっくりだぜ。ひとつくらい持ってっても……」

 うん、わかる。この赤い宝石とか、触り心地もつるつるしてる。

「あら~? 学習能力ないのかしら~?」

「あるよ! こういうのは触れただけで罠が発動して、内部が崩れたりするわ! 知ってるっつーの!」

「え、そうなの?」

 レグルスの言葉に驚いた。いま、俺……触っちゃったんだけど……。

「アスク、おまえ……」

 レグルスの呆れ声と一緒に、俺の腕は後ろに引っ張られた。次の瞬間、目の前で杭がドドドっと降ってきて、地面に深く突き刺さる。

 え、こわっ。額にじんわりと冷たい汗がにじむ。

「大丈夫か?」

「う、うん。ありがとう、スピカ……」

「無事なら構わない。何がきっかけで罠が動くかわからないからな。レグルスとアルディに従おう」

「そうだね」

「じゃあ、俺が通った後を通ってきてくれ。なんにも触るなよー?」

 レグルスとスピカに頷いて返した。早々に間違った俺は、おとなしくレグルスの後について歩く。黄金の山をいくつか越えていけば、装飾が施された大きな扉へとたどり着いた。

「んー、地図的にはこの扉が一番安全なんだが……」

「どうしたの? 扉開かない?」

「いや、開くことは開く。この窪みが4つあるだろ? ここに、条件にあった宝石を嵌めると開く仕組みだ」

「この中からその4つの宝石を捜すというのか?」

「そういうこと」

「えぇ? でも触ったら、さっきみたく罠があるんじゃないの?」

「そうなると虱潰しに調べるにはいかないだろうな」

 スピカと顔を見合わせて、レグルスを見る。彼は困ったように頭を掻き、ちらっとアルディさんに視線を投げた。

「あらあら~。どうしますの~?」

「白々しいよな、ったく。お前わかってるだろ?」

「あら~? はっきりと言ってくださる~?」

「扉に嵌める宝石以外は偽物の宝石ってことだよ。わかるだろ、本物」

「ええ~、当たり前ですわ~。輝きが違いますもの~」

 頬を引きつらせるレグルスと、にっこり笑顔のアルディさんは対照的だ。どうやら、扉を開くのはアルディさんがいれば簡単らしい。お願いするのがイヤだったのか、レグルス……。

「それで~、お願いしたいなら~、きちんとしてくださいませ~?」

「ぐっ……お願いします、アルディさん。宝石4つ捜してきてください」

 アルディさんの言葉にレグルスは膝をつき、頭を下げた。

「よろしくってよ~」

 彼の様子に満足そうに眼を細めると、アルディさんは迷いもなく歩き始める。銅像にかけられたネックレス、甲冑の腕に埋め込まれた宝石、天井に吊り下げられているランタンの飾り、別の扉の持ち手についている宝石をさっと取っていく。そのあとにすごい音が何度もしているが、モノともせずに戻ってきた。

「レグルス~、手早く宝石を埋めて扉を開きなさい~」

「はいはい」

 先ほどまできらびやかだった宝庫は、ところどころ煙を上げて悲惨な状態になっているにも関わらず、誰も気にしてない。すごい。

 レグルスが宝石を扉にはめ込み思い切り開けば、

「うわっ」

 真っ黒い無数の何かが奥から飛び出してきた――。

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