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2章 蠍の星13ー双子の加護の力ー

 一方、ピラミッドに残されたアスクは――


 レグルスと別れて、俺はピラミッドの中を進んでいた。真っ暗な道をランタン片手にゆっくりと進むが、今のところ何もない。背中にはレグルスの置いて行った荷物が重さを主張していた。

「一本道だよな。迷路になってるとか、罠があるとかって聞いたけど……」

 レグルスに忠告された「このピラミッドの中は迷路になっている」「道は進めば進むほど罠が複雑に設置されている」を思い出す。

 口に出してみれば、いままで一本道だったのが、二手に分かれた。

「……どっちに行こうかな」

 いきなり出された選択肢に、考え込んでしまう。迷路だったら、間違った方に行くと神の場所にたどり着けないかもしれない。そんな”確信”があった。

 ”確信”の感覚に、俺は今更ながらに思い出した。オフィウクスの加護の力を。

 目的を設定して、答えを導き出すその力はもしかしなくても非常に役に立つのではないか。

 俺が目指すのは、『……待っておる』と泣き出しそうな声を出していた相手に会うこと。そのために、最短の道を行きたい。

「最短の道は、右か左か……」

 本当は危険な道も避けたかったけど、いくつもの目的が混濁するとその分”確信”を感じ取ることが難しくなってしまう。

「右か……」

 ”確信”を得て、俺は右へと足を進めた。踏み出した瞬間に足が沈み込み、カチリという音が通路に響く。

 これは”確信”がなくてもわかる。ヤバい。非常にヤバい。

 耳元にビュッという風を切る音が響いたかと思えば、視界が回った。目を瞬いて数秒思考が停止するが、体はスタっと地面へと着地する。いつ跳んだんだろう?

 さっきまで俺がいたはずの場所の壁には、無数の槍が突き刺さっていた。

「えぇ?」

 困惑した声しか出せない。体が勝手に避けたとしか思えないけど、スピカじゃあるまいし俺にそんな身体能力なんてない。

『えぇ? じゃないよ! せっかく僕がついてあげてるのに、死にそうになんてならないでよね』

 甲高い聞き覚えのある声に、俺は自分のポケットを見る。いつの間にか起きた双子の加護が、ポケットから顔を出し小さい体のまま俺を睨みつけていた。

「ええっと、助けてくれたのか?」

『僕の力の使い方をわかってないみたいだったからね。体に加護の力を無理やり流し込んだんだ。あんまりしゃべってると僕も力が無くなっちゃうからイヤなんだけど、しょうがないから、力の使い方教えてあげる』

 双子の加護は、ぺらぺらと早口でまくし立てる。話の中で無理やり流し込んだとかイヤな単語が聞こえたんだけど……。

 うん、そこはスルーして力の使い方を聞こう。機嫌を悪くされてまた眠られても困る。

「助かるよ。それで、双子の加護の力って?」

『僕の場合は、本当は弓とか狩りの能力が特段あがるんだけどさ。君にできるのは身体能力アップぐらいが関の山かな』

 うん、なんかデジャブ。オフィウクスの加護の時も、ちゃんとした力を引き出すほどの力がないと言われてたけど、双子の加護でもそうなのか。というか、加護と俺は相性があんまりよくないのでは……?

『まあ、普段は加護の力を使えそうな人間に加護を与えるから、君みたいな人は一般的な人間だよ』

 フォローにもなってない。

「とりあえず、俺でも身体能力があがるってことだよね?」

『そうだよ。さっきは脚力の能力をあげたんだ』

「どうすればそれが使える?」

『えぇ? ……加護の力を使いたい部位に集めるんだけど、君、加護の力感じ取れる……?』

 俺の質問に頬をひきつらせる双子の加護には申し訳ないけど、加護の力ってなんだ……?

『えぇ? やっぱりわからないの? どー説明しよう。加護なしじゃ絶対罠にひっかかるよ君……』

 戸惑う俺に、頭を抱える双子の加護。にっちもさっちもいきそうにない微妙な空気が流れる。

『……えっと、さっきの何も感じなかった?』

「いや、いつ跳んだのかもわからなかった……」

『そっかぁ……じゃあ、オフィウクスの加護の力はどう使ってるの?』

 半ばあきらめ半分という感じの双子の神に、俺は目的を設定することで、なんとなく感じ取っていることを説明した。

『あー、そうなんだ。無意識に使うことはできるから、それを表面に持ってくるために無理やり意識させてるんだね。じゃあ、僕の方も意識してみたら少しはできるかもしれないね。試しに足に力を込めるって思いながら跳んでみて』

 俺は”足に力を込める”と、念じて跳んでみる。けれど、普通の高さまでしか跳べない。

『うぅん。今度は口に出してからやってみて』

「わ、わかった。”足に力を込める”」

 口にしてもう一度ジャンプをすれば、視界が高くなる。浮遊感の長さに、さっきのように跳ぶことができていることがわかった。

『口に出さないとダメなのかー。使い勝手悪そう……』

「でも、何も使えないよりは断然動きやすくなったよ」

 俺でもこんな風に動けるなんて、うれしい。これなら、この先の罠も抜けられるかもしれない。

『でもさー、突然何かを避けなきゃいけない時には使えないよ? 何か先が見えたり、わかったりできれば話は別だけどさー』

 双子の加護の言葉に、ピンときた。

「じゃあ、加護同士を合わせて使えばいいんじゃないか?」

『は?』

「オフィウクスの加護で罠があるかどうかを見極めて、それを防ぐために必要な身体能力をジュミニの加護で強化すれば、先に進めると思うんだけど」

『……できるかもしれないけど、加護を使うのが上手くない君が連続とかできるの?』

「え? オフィウクスの加護はわりと連続で使ったことあるけど……加護って制限とかあるんだ?」

『ふつうは使い過ぎると消耗するから、加護自体が使えなくなったり、身体の方に負担がいくはずだよ。ああ、もしかして使う量が微量だからその心配なかったりするのかも?』

「微量……」

『まあ、どうせ使わないと先には進めないでしょ。使ってみればー。ふわぁ……僕はもうこれ以上力を消耗したくないから、また眠るよ』

 双子の加護は大きく伸びをすると、ポケットの中に戻って行った。

 ちょ、軽く言ってたけど本当に使って大丈夫なのか? 別々の加護だし、だいぶ不安なんだけど……。

「……うん。やってみよう」

 そうじゃないと先に進めない。

「えっと、あの人に会うために無事にこの道を切り抜けたい」

 目標を細かく設定する。意識することで”確信”がはっきりと形を成していく。

「この道の罠は……めちゃくちゃ多いのかよ」

 罠が多いせいか、たくさん罠があるっていう”確信”しかわからない。まずは、一番手前の罠――

「落とし穴かー。抜けられる道もなさそうだし、跳ぶしかないかなぁ」

 うん、ジェミニの加護を使えば跳び越えられそうだ。まず、ジェミニ加護の力を込めたい箇所を足。さっきと同じだから難しくはないはずだ。それで、これを口に出して。

「”足に力を込める”」

 ――跳ぶ。

 上手くいくはずだと言い聞かせて、ふっと息を吐き足に力を込める。

「え?」

 驚いた。さっきのジャンプくらいの予想だったのに、思ったよりも大きく前に跳んだ。長めの浮遊感に、落とし穴の部分は優に超えて着地する。

「すごっ! こんなに力が出るのか!」

 微量とか言われたけど、こんだけ跳べるなら手とかに力を込めたら戦えたりするんじゃないか? すごい、これが加護の力……超わくわくするっ!

 あとは、力加減が上手くできれば! 少し細かく指定してみたり、いろいろしてみよう。

「よし、この罠でめいっぱい練習して――」

 カチッ

 ちょっと浮かれて何も考えずに一歩踏み出してしまった。この音は絶対罠の発動の音だ。

 ゴゴゴゴゴゴゴと後ろの方から何かが転がってくる音がする。大きな丸い岩だと、”確信”した。

「”あの大岩から逃れられるまで足に力を込めるっ!”」

 慌てて具体的に指定して、足に力を込める。

「”オフィウクスの加護は罠を抜けるのに全力で使うっ!”」

 思わず口走ったまま地面を蹴る。

 目の前に、罠が見えた。見えたとしか言いようがない。普通に見えている光景に重なるように赤く罠が光って見える。

「げっ!」

 このまま着地したら、毒ガスが噴出するボタンを踏んでしまう!

「”指と腕に力を込める!”」

 慌ててそう言って横の壁に手を伸ばした。すごい音がして指が壁にめり込んだおかげで、動きが止まる。

 ヒューヒューと鳴る喉をつばを飲み込んで湿らせる。

 ええ? 微量の力でこれってなに? カゴコワイ。

 冷や汗を流して固まっていれば真っ赤な光が横目に入って、大岩がすぐそばまで来ていることに気づいた。慌てて指を壁から抜くと、そのまま壁を蹴る。

 そのまま壁伝いに罠を回避して先へ先へと進む。

 ――無我夢中で逃げた。けど……

「行き止まりってどういうことだよっ!!」

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