2章 蠍の星12ー蠍のマークと扉の位置(ヘレ)ー
ぎらぎらと太陽が照らし出す広場に、ヘレ、スピカ、レグルス、アルディの四人は立っていた。
街の入り口に位置するこの広場の中央には、蠍の神を象った銅像が艶めかしく光を反射している。
「ここで、蠍の神を褒めたのか?」
「はい! 綺麗だね。ってアスクと二人で話しました!」
「神々しい美しさだと素直な感想を述べたな」
半信半疑のレグルスの問いかけに、ヘレとスピカは頷きながら答える。蠍のマークを持つ二人が話し合った結果、蠍の星でアスク含めて同じ行動をしたのがこの広場で蠍の神を褒めることだった。
「たしかに俺は口に出していったことはないけど……」
「まあまあ~、たしかにとても美しい方ですものね~。褒めたくなるのわかりますわ~」
戸惑いを隠せないレグルスとは逆に、アルディは二人の会話に自然に返答しながら蠍の神の銅像を褒めた。そして、そっと裾をあげて足首をみんなに見せる。
「あ、アルディさん! 蠍のマークが付きましたよ!」
はっきりと見える蠍のマークに、ヘレが喜びの声をあげる。
「あらあら~、ありがたいですわ~」
「マジか……。まあ、口には出さなかったけど、話に聞いた通り綺麗な人だと思ってたよ」
アルディの結果に、レグルスも若干硬い口調になりながらも褒める言葉を口にした。すぐに確認すれば、レグルスの足首にもくっきりとマークが存在を示していた。
「うわぁ、チョロむぐ――!」
「とても寛大な神様ですわ~」
チョロいと言いかけたレグルスの口を手でふさぎ、アルディはさらに蠍の神を褒めた。
「なにすんだよっ」
「あら~? わからないんですの~? 蠍の神は繊細な心の持ち主ですもの~。侮辱なんてしたら、二度と認めてくれなくなりますわよ~?」
「ぐっ」
何度目かのやりとりに、ヘレは苦笑う。そして、話をもとに戻そうと口を開く。
「ええっと、これで蠍のマークはクリアですね! あとは扉がどこにあるかわかればアスクを助けに行けるんですよね!」
「扉に関してはレグルスが頼りだな」
「そうですね、場所を見つけたのはレグルスさんですし」
「ヘレちゃんとスピカちゃんは良い子だなぁ」
二人に頼られたレグルスは感激するが、スピカは聞きなれない呼び方に「スピカちゃん……?」と頬をひきつらせている。
「よーし、はりきっていくか!」
元気を取り戻したレグルスは、拳と手のひらを打ち鳴らしやる気を示す。
「情報源がそこにいるから、とりあえず話をしてくる。時間がかかるかもしれないし、三人はピラミッドの中に入った時のために準備を整えておいてほしい」
「わかりました」
「承知した」
「今度こそきちんと役立ってくださいまし~」
広場に面する飲食店を指さして、レグルスが表情を引き締めて次の行動を示唆すると、三人がそれぞれ返答した。
「レグルス、ピラミッドのことだが――」
そしてスピカの問いかけに、ピラミッドについて知っていることを詳しく話したあと、レグルスはヘレに声をかけた。
「ヘレちゃん、アスクのことは本当に悪かった。俺もアスクのことを助けたいと思うから、信用してくれっていうのは難しいかもしれないけど……協力させてほしい」
ヘレは真剣に見つめてくる彼に、表情を引き締めて頷いた。
「もちろんです。今度は隠さず話してくれるって、信じてますから」
「……ありがとう。その信頼には必ず応えてみせるよ」
レグルスは嬉しそうに笑うと、ヘレに手を差し出した。ヘレもその手をとって握り返す。
「よろしくお願いしますね!」
ヘレとの会話を最後に、レグルスは準備をしに向かう三人を見送った。
踵を返すと、レグルスは飲食店へと向かっていく。テラス席に固まっている男性たちへ声をかけた。
「よー、今日は非番か?」
「おー、レグルス! 見てわかるだろー?」
「おまえも一緒に呑もうぜ!」
声をかければ、男たちはレグルスを空いてる席に招き入れた。レグルスも席へ腰をかけると、慣れた様子でウェイターへ注文を入れている。
「しっかし、ここにいるってことは昨日のアレは失敗したのか~?」
「そーなんだよー。見つけたのはいんだが、扉が開かなくってさー」
「そりゃあ、そうだろ。蠍のマークを持った奴しか扉を開けられねーんだから」
レグルスのバンバンっと背中をたたき、男が慰める。
「ほんとだよなー。今度はそのマーク持ったヤツ見つけたのに、扉の位置がわからないと来てる」
「マジか!?」
「おまえ、ついてんのかついてないのかわっかんねーなぁ! はっはっはっは」
「ついてる方にしてほしいだけどな」
ちょうど来た酒を手にとり、互いのグラスを合わせて音を鳴らす。
「そりゃあ、俺達の誰かが今日の扉の位置を知ってれば、ついてるんだろうなぁ?」
「もちろん、ここにきてから仲良くしてくれてるんだし、教えてくれると思うんだけど?」
「はっはっは、こりゃいい。たしかにお前はついてるよ。金には見放されてるけどなぁ?」
「それは言うなよ……」
結局男たちにもからかわれ、その場で酒を煽りながらレグルスは今日の扉の位置情報を得る事に成功したのだった。