表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/96

2章 蠍の星11ースピカ合流。初登場アルディとレグルス(ヘレ)ー

 空が白んで、煌々とした太陽が辺りを照らし始めた。オアシスに面する宿の一角で、ヘレは窓から外を眺めていた。

 赤毛の青年がいないかと砂漠の方に目を凝らすも、遠すぎて黄色い砂が太陽に照らされていることしかわからない。

「……アスク、どうしたんだろう?」

 朝、彼の部屋に行ってみたがもぬけの殻で、乱れがない部屋を見れば帰ってきていないのが明白だった。

 不安が、一緒に行けばよかったとという後悔が、じわじわとヘレの心を蝕んでいく。

 突如大きな影がヘレの眼前を塞ぐ。

「えっ?」

 身を引いたヘレを飛び越して大きな影は窓から部屋へと入り込む。ヘレが慌てて振り向けば、そこには大きな金色の獅子を従えた、甲冑の女性が立っていた。

「スピカさん!」

「ヘレ、待たせたな」

 自分を呼ぶ声にスピカは頬を緩める。ヘレも微笑みを浮かべて彼女へと駆け寄った。

「ごめんなさい、アスクが……」

「話は聞いている」

 ヘレが申し訳なさそうに話を切り出すと、スピカは後方に待機していた金色の獅子を目で差した。獅子はみるみる姿を変えると、金色の髪と瞳、右額に印象の深傷跡を持った男が現れる。アスクと共に砂漠へと赴いたはずのレグルスだった。

 彼の後ろには、優しそうな微笑みを浮かべている女性が立っていた。白に一部メッシュで黒い色が入っている髪が印象的だ。レグルスの横に並ぶとその小ささが際立つ彼女だが、発育した豊満な胸は成人した女性の色気を醸し出していた。

「レグルスさん! と……?」

「牡牛の加護を持つアルデバランですわ~。アルディとお呼びくださーい」

 アルディはおっとりとした口調で自己紹介をし、ふんわりとしたら白黒のドレスの裾を持つと綺麗にお辞儀をする。つられてヘレも名乗って頭を下げた。

「あ、牡羊の加護を持つヘレです。よろしくお願いします」

「よろしくお願いしますわ~。ヘレさんとアスクさんには、レグルスが大変失礼いたしましたの~」

 にこっと笑いながらアルディはレグルスの耳を引っ張ってぎりぎりと捻り上げる。「いてて」とレグルスが抗議の声を出すが、アルディは力を抜くことはない。

「ええっと……」

 戸惑いを隠せないヘレは目を数度瞬きさせる。

「レグルスはー、きちんとお二人に説明もせずー、アスクさんを蠍の神が待つピラミッドへとー、連れて行ったんですわ~」

 さっきよりも間延びした声は怒りをはらんで少し低い。

「悪かったって! そんなに危険はないと思ったんだよ……いててて」

「まったく反省していませんのね~。もー、サーカスに売り飛ばしますわよ~?」

「すみませんでした」

 どす黒いアルディの笑みにレグルスはおとなしく首を垂れた。

「アルディ、そのくらいにしておいてやれ。話が進んでいないし、ヘレが茫然としている」

「あらあら~、ごめんあせばせ~」

 スピカの言葉にようやっとレグルスを解放するアルディは、にこにこ笑いながらヘレへと向き直る。

「申し上げにくいんですけど~。アスクさんがピラミッドの中に引きずり込まれてしまったらしいんですの~」

「えぇ!?」

 驚くヘレにアルディは笑顔を崩さずに、レグルスがアスクをピラミッドの入り口へと連れて行った事、ピラミッドへ入るにはアスクの協力が必要だった事を説明した。

「えっと、足首に蠍のマークがあればピラミッドの扉に入れるんですね?」

「はいー。扉についてはー、レグルスに死に物狂いで捜させますのでー、まず蠍のマークを手に入れる方法をー、私たちは調べましょう~」

 話を理解したヘレに、アルディは頷いて次の行動指針を示す。

「そうですね。蠍のマークかぁ」

「ヘレにはないのか?」

 スピカが問いかければ、ヘレは目を瞬いてから「そっか」とつぶやく。自分についている可能性など考えもしなかったが、アスクがついているのであれば、一緒に行動していた自分にもついているかもしれない。

 ヘレはそっと足元の布を持ち上げる。隠れていた足首が顔を出すと、そこにはくっきりとした蠍のマークが浮き出ていた。まじまじとヘレのマークを見るレグルス、スピカ、アルディ。

「おっ、アスクと同じマークだな」

「これが蠍の神に気に入られた証拠……私もその印なら持っているぞ」

「えぇ!?」

 スピカがさらりとこぼした言葉に、その場にいた三人が驚く。目を白黒させる彼女たちに、スピカはブーツを片方脱ぐと、その足首にある蠍のマークを皆に見せた。

「あらあら~。スピカさんはいつからこのマークがあったのですか~?」

「前にこの星に訪れた時だ。その際はまだ蠍の神が地上におられたのだが、その後すぐにピラミッドに閉じこもられてしまってな。仕方なく別の星に移動したのだ」

「じゃあ、その時に何かしたってことか……」

「そうね~、レグルスはしていない何かをお三方がやっていらしたということですわ~」

「さっきからえぐってくるのやめてもらえませんかね……」

「仕方ありませんわ~。役立たずなんですもの~」

「ぐっ」

 アルディとレグルスの応酬に入って行けず、スピカとヘレは二人を見守るしかできなかった。

 会話が一度切れたことで、ヘレは勇気を振り絞り声をかけてみる。

「あ、あの。お二人はどういう関係なんですか?」

「飼い主とペットですわ~」

「雇い主と雇い人だって!」

 アルディの言い分にレグルスが思わず突っ込むが、冷たい視線が彼に突き刺さる。

「莫大な借金を肩代わりしてるのをお忘れでなくて~?」

「ぐっ」

 完全に黙り込んだレグルスに、アルディは笑顔を戻してヘレに向き合う。

「と、いうことですわ~。レグルスが借金を抱えていたところに出くわしまして~、建て替えてあげたんですわ~。それを返納するまで私の元で働くことを条件にしてますの~」

「アルディは牡羊の星で公爵令嬢と呼ばれ、経済力は群を抜いている」

 アルディの説明とスピカの補足に、ヘレはなんといっていいかわからず、曖昧に小さく相槌を打った。

「俺たちのことはいいから、蠍のマークについて話を進めようぜ」

 ヘレの様子に助け舟を出したのは当人のレグルスだった。

「あらあら~、レグルスがややこしくしたのではなくって~? 蠍の神に会う方法を探すようにとは言いましたけどー、関係ない方を巻き込んでー、説明もなく連れましたのはー、いただけませんわ~? 契約違反で違約金を借金につけておきますわね~?」

「守銭奴!」

 やり込められ苦し紛れに声をあげるレグルスの耳をアルディは思いっきり引っ張って、そのまま部屋の外へ引きずって行った。

「申し訳ありませんけど~、しつけ直してきますわ~。その間にお二人の蠍の星での共通点を話し合っておいてくださいまし~」

 一言、スピカとヘレに残して。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ