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2章 蠍の星08ーレグルスの頼みー

 俺は、調べるためにオフィウクスの星に行きたいこと、12の加護がないとオフィウクスの星に行けないことをレグルスに話した。

「なるほどなー。じゃあ、蠍の神か蠍の加護を持つ人間に会いに来たのか」

「そうなるな。加護持ちの情報がないから、直接蠍の神に会おうと思ってはいるんだけど……」

「危険だから躊躇してる。と」

 痛いところをつかれる。

「やっぱり危険なんですか? 牡羊の星の文献には蠍の神についての情報が少なくて……」

「ああ、この街に長い事滞在してるから、だいたいこの星の現状はわかってるが……今は引きこもっているから相当無理しないと会えないぞ」

「引きこもってるって……それフラれたってこと?」

 蠍の神について記載されている牡羊の星での資料は少ない。ただ、あまりにも有名であまりにも語り継がれている蠍の神の話がある。

 蠍の神は愛情深い。好きになった人間に加護を与え、ずっと傍に置くのが彼女の星では習わしだった。しかし、ある時一人の加護を受けた人間が別の星へとでかけてしまった。それにショックを受けた蠍の神はピラミッドという神の家に引きこもってしまったのだ。それからの星は砂嵐が日常となりオアシスの水も徐々に減っていったという。人々が困り果てていた時、加護を持った人間がひょっこり戻り、ピラミッドへと戻ったことで星は救われたらしい。

 要するに、蠍の神は愛が重い。

「ああ、久しぶりに加護を与えようとしたら、別の星の人間でフラれたんだ」

「そんな……っ」

 レグルスの言葉にヘレが小さく悲鳴をあげる。俺も事の重大さに頭を抱えたくなる。

「え、もしかしてそれで双子の星からしか行き来できないとか?」

「ああ、その前までは繋がってたんだけどなぁ」

 ガチの引きこもりだ……。

「やっぱりスピカさんたちを待ってから作戦立てた方が良さそうだね……」

「そうだな……」

「スピカさん……?」

 ヘレと俺で納得してると、レグルスが不思議そうに目を瞬いた。俺は簡単に乙女の騎士であるスピカも一緒に加護集めをしていること、事情があっていったん別れ、後から水瓶の加護持ちを連れて合流することを簡単に説明した。

「仲間が多いんだな」

「もしよければレグルスも一緒に来てくれると心強いんだけど」

 初めてレグルスの顔が曇る。片方の口端をひきつらせて、返答に困っているようだ。

「あ、無理にとは言わないから!」

「うーん……いや、そうだなぁ。アスクが俺のこと手伝ってくれるなら考えるぞ」

「え、本当か!?」

「ああ、ほんとうほんとう」

 ぱっとすぐに笑顔に戻ったレグルスに安堵して、俺は頷いて了承した。

「私も手伝いますよ!」

「いやー、ヘレちゃんにはちょっと難しいかなぁ。アスク一人にお願いしたいんだ」

 ヘレの申し出を断ると、レグルスが椅子を寄せて俺の肩をぽんぽんと叩く。ヘレが眉尻を下げ不安そうな表情をみせる。

「え? アスクだけにですか? どんな手伝いを……?」

「秘密♪」

 しかし、レグルスから返答は得られなかった。ヘレは困ったように俺の顔を見上げ、手を握ってくる。俺にレグルスの手伝いをさせるのを迷っているようだ。

「俺はレグルスについてきてもらいたいから……話を聞いてみたい」

「……危ないことしない?」

「危なそうなら辞めるし」

「そっか……」

 ヘレが首を垂れる。まだ心配ではあるようだけど、納得してくれたかな?

「レグルス、話は聞くけど危ないことはしないよ?」

「大丈夫大丈夫、ちょっと今夜付き合ってほしいだけだからさ」

 俺の言葉にレグルスは頷く。そしてヘレの方へと顔を向けると優しく声をかける。

「今夜借りるだけだから、すぐ返すよ」

 お願いと両手を合わせるレグルスをじっと見て、ヘレはしぶしぶ頷いた。

 その後は食事もゆっくりとして、自分たちの星の話やレグルスが訪れた星の話で盛り上がった。

 食事も済み、宿に戻ろうという話になってから、俺たちはいつの間にかレグルスが会計を済ませていたことに気づいた。

「アスクを借りるしねー。ここぐらいおごらせてよ」

 疑問を口にする前に、言葉で封殺される。そんな風に言われたらのむしかない。

「……わかりました。ごちそうさまです」

 ヘレがレグルスに頭を下げるから、俺も合わせて頭を下げる。

「いいのいいの。じゃあ、まずはヘレちゃんを送って行こうか」

 レグルスは軽く手を振ってから、俺達を促して店を出た。

 ヘレを先に宿へ送ると、俺はレグルスにつきあうために湖のほとりへとついていく。冷たい夜風を感じながらぶらぶらとするのは、心地よかった。

「それで、何を手伝ってほしいって?」

「蠍の神のいる……ピラミッドの入り口を開けてほしい」

「はっ?」

 おい、危なくなかったんじゃなかったのか? なんで引きこもってる神の場所に行く話になってんだ?

「開けてくれるだけでいいんだ。中には俺が入るから」

「開けるだけって、自分で開ければいいだろ?」

「いや、開けられないんだ」

 立ち止まって、じっとレグルスの顔を見た。笑ってなかった。引き締めた表情が月明かりに照らされて、きらきらと金色の髪が揺れている。

 先ほどよりも落ち着いた低い声が真剣さを物語っていた。

「昔と違って、蠍の神が住むピラミッドは砂の中に埋まっている。蠍の神がフラれる度に砂嵐が起きて埋もれたそうだ」

 レグルスは俺にわかりやすいように説明を始める。

 街に来る途中に埋まってた四角錐を思い出す。あれがピラミッドだったんだろう。

「埋もれはしたが、地上にいくつか入る扉がある。いや、正確には”扉が出現する”。日によって出現場所は変わるが、必ずピラミッドに入る扉が砂漠のどこかに発現しているんだ」

「蠍の神が扉をそういうふうに作ってるってこと?」

 引きこもりのわりには、扉はしっかり地上に作ってるってことだろうか?

「そんなことができるのは神だけだからな。厄介なことに、その扉を開けられるのは足首に蠍のマークがある人間だけなんだ」

「蠍のマーク?」

「ああ。蠍の神に気に入られると付くらしい」

 レグルスが俺の足首を指さすから、驚いて足元を見た。たしかに、足首に何かの赤い印があるのが見て取れた。よく見ればレグレスが言っていた通り、書物で見た蠍という毒を持つ動物のようだ。

 いつ付いたんだろう?

「俺は今日、運がいい事に扉を発見して、しかも蠍のマークを持つアスクにも会えた。だから、今日が最大のチャンスなんだ」

 小さな疑問を持つ俺をよそに、レグルスの声は高揚して大きくなっていく。楽しそうに煌めく瞳は月よりも明るかった。

 難解な扉を開けるチャンスがあると言われれば、疑問よりもそっちの方に気持ちが持ってかれて、俺もドキドキしてくる。

「アスク。今日を逃せば、次はいつこのチャンスがくるかわからない……」

 レグルスが足を止めて、金色の瞳を向けてくる。

「ピラミッドの入り口を開けてくれないか?」

 もう一度言われた願い事に、俺はことりと喉を鳴らした。真剣な相手に、適当に返しちゃいけないと思ったから。

 日ごとに場所を変えるピラミッドの扉。開けられるには蠍のマークが必要な扉。ピラミッドの中は神の領域、侵入者への何かしらの対策があるのは明らかで。だからきっと、中に入るのは危険だ。

 スピカを乙女の星に送る際に危ない事はしないでスピカを待つと言った手前、ここで断るべきだとは思うけど……。

 開けるだけなら、大丈夫じゃないだろうか? 昼間助けてくれたレグルスの頼みを断るのも気が引けるし、できるなら俺だって役に立ちたいから……。

 だから、結論を出した。

「開けるだけなら……協力するよ」

「! 助かる! ありがとな、アスク!」

 昼間と同じ、眩しい笑顔でレグルスは笑ってくれた。

「アスクはいいヤツだな」

「うーん、なんかそれ他の人にも言われたな」

「お人好しがすぎるってやつかー? ……気をつけろよ」

「なんて?」

 レグルスが顔を背けたせいか、最後の方は小さすぎて聞き取れなかった。

「いや、さっさと行って、さっさとアスクをヘレちゃんところに帰さないとな!」

 にかっと大きな口を広げて笑い、レグルスは俺に背を向けて歩き出した。

 一瞬、彼の表情がこわばったように思えたけど、明るく俺を呼ぶから、気のせいだと俺は彼の後を追った――。


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