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2章 蠍の星06ー獅子の星出身、レグルスと出会うー

 辿り着くと、そこは賑やかな街だった。人々が行き交い、市場では活気もあって砂漠で人がいなかったのが嘘のようだった。

 暑さによるだるさが吹っ飛ぶくらい、俺はその景色にくぎ付けになる。茶色と白のレンガの建物は思ったよりも高くずっしりとして、行き交う人々の服装はゆったりとした通気性の良さそうな服に綺麗な石をちりばめて……。

 牡羊の星とは違う。見慣れた木々を組み合わせた簡素な家や、麻で作った動きやすい服装とはまったく違う……本当に別の星にいるのだと身体の奥が熱くなった。

 感動に打ち震えていれば、ヘレが街の人に声をかけて俺を呼ぶ。近づけば、街の人から聞いた情報を教えてくれる。

「湖の近くに宿がいくつかあるみたい。それで、あの広場の真ん中に立っている銅像がこの星の神様だって」

 入り口の広場にある中央を指すヘレに、俺もそちらを見た。豊満な肉体に長い髪、 艶っぽい目つきは美しさで人を魅了するといわれる蠍の神のイメージに合っている。

「へー。話に聞いた通り綺麗だなぁ。さすが蠍の神だ」

「ほんとうに、綺麗……お話から出てきたみたい」

 俺の感想にヘレもうんうんと頷いてくれる。

「さ、観光は後にして、宿で一息つこう? 砂だらけで動きづらいし」

「そうだな」

 ヘレの提案で、俺達は湖に面する宿で部屋を取り一息つくことになった。

 砂だらけの身体をキレイにして水と簡素な食事をした後、各々必要なものを買うためにヘレとは分かれた。

「まさか、牡羊の星の通貨がそのまま使えるなんてな」

 昔はもっと盛んに星同士の交流があったんだから当たり前か。その名残で通貨は、どの星でも同じように使えるのだとヘレが教えてくれた。

 そして、ヘレが持ってきてくれた通貨をもらって俺は自分の服を一着購入した。と、いうのも、服が砂と汗だらけで非常に動きづらかったからだ。一枚の布で組み立てられたこの星特有の服に着替えれば、日差しの強さも、暑さもいくぶん和らいだ。

 おかげで、ゆっくりと市場を見て回ることができる。

「宝石の店が多いのは、牡羊の星で読んだ本の通りだな」

 蠍の星では、透き通った宝石がよくとれる。星の形成は神が好きなものが反映されることが多く、蠍の神はきらきらとしたキレイなものが好きらしい。砂漠も宝石を作るためのものだとか。原理までは書いてなかったから、どう作られるのかわからないけど……。

 あと、他の星に比べて日照時間が長く、小麦色に肌を焼く習慣があるらしい。これについては、美しさで人を魅了するといわれる蠍の神が褐色の肌を持っていることから、憧れる人が多いんだとか。

「双子の星は、荒れてさえなければ牡羊の星に似てたからなぁ。ここまで別世界だと、テンション上がるなっ」

 双子の星ではテンションあげられるほどの状況じゃなかったっていうのもあるけど。

 この街に来た時に感じた衝撃を思い出す。本当に俺は神の加護を得て、別の星に来てるんだ……!

「まずは、ポルックスからもらった加護の家でも探してみようかな」

 スピカに危ない事をしないと約束した手前、ヘレに目立つことはしないように釘を刺されてるし、買い物くらいしかできるようなことが思いつかない。

 俺は道に立ち並ぶ露店をひとつ一つ見ていくことにした。

「どうだい彼女に綺麗なネックレスでも買っていかないかい?」

 ひとつ目の店ですぐに声をかけられる。驚いてみあげれば、商人特有の笑顔が俺を出迎える。

「ほら、さっき可愛い彼女と一緒にいただろ? きっと喜ぶよ~!」

 どうやら、ヘレと一緒にいたところを見られたらしい。風貌の違いからすでに目立っていたようだ。

「いや、間に合ってるんで……」

 そもそも彼女ではない。という言葉は飲み込んで、順繰りと思考を巡らせたあとにやんわりと断りの言葉を告げる。

「そんなこと言わずに、どうせここに来るの初めてだろ~? 旅の土産にぴったりのがあるんだ」

 さらに食い下がられる。内心、どう断ればここから離れられるのか? と焦燥感を覚え始めた。

「ええと、大丈夫です」

「ほら、これなんてどうだ?」

 しかし、矢継ぎ早に商人は宝石が収まって輝いている箱を差し出してくる。

 首を横に振るが、商人の勢いとまらずにあれはどうだ、これはどうだと自慢の宝石を次から次へと見せてくる。

 しかも、少し反応すると話がどんどん勝手に進んでしまう始末で、このままだと何かしら買わされそうだ。やばい。

「そうだな、さっき同じようなやつが向こうでもっと安値で売ってたぜ」

 焦る俺の横から快活な声が割り込んできた。驚いて隣を見れば、金色の髪と瞳が眩しい青年が、にかっと愛想よく笑ってみせる。くせ毛のように上に跳ね上がった髪のせいで見える右額には、一筋の傷跡が生々しく刻まれている。目を奪われるほど印象的だ。

 うん、まったく知らない顔だ。

「異星のお兄さん、商売の邪魔はしないでくださいよー」

「押しつけはダメだろー。警備兵が来ちまうぜ?」

 商売人が文句を言うも、青年は笑顔のまま返す。すると、その一言で商売人は買わないなら帰ってくれと手のひらを返してきた。

「んじゃあ、行こうか。まだ慣れてないんだろ? 買い物付き合ってやるよ」

「は、はあ……」

 青年は断れるとは微塵も思ってないらしく、俺の肩を軽く叩くと進路を示して歩き出した。俺もこのままここにいても気まずいので、青年の後へとついていく。

 店から離れた湖の畔で一息つく。

「ありがとうございました」

「いいって、ここの商人は商売魂たくましいから、目を付けられるとなかなか抜け出せないんだよな」

 俺は、まだ隣にいる青年にお礼をつげた。彼は笑って、手をひらひらとさせる。額の傷は気になるが、助けてくれたし悪い人ではなさそうだ。

 落ち着いてみれば、服装はこの星の人たちの通気性のよいゆったりした服とは違い、ポケットの多い上着にズボンだ。この星の服が白が多いのに対してカーキ色なので目立つ。これはたしかに異星の人間だとわかる。

「俺はレグルス。そっちは?」

「アスクです」

「アスクか。俺は獅子の星から来たんだが、お前はどっから来たんだ?」

「……牡羊の星です」

 ずいぶんと気さくに話す相手にどう答えようかと悩む。しかし、先にすべての情報を開示されるので、答えないのは気まずくて素直に返答をした。

 獅子の星の人ってことは、スピカが言ってた獅子の加護を持つ人だろうか? 情報が不確かだったって言ってたはずだけど……。

「へー、牡羊の星か。過ごしやすい気候らしいな?」

「まあ、そうですかね? 獅子の星は熱帯のジャングルって聞いてますから、それよりは過ごしやすいかと思います」

「そうそう、ここも熱いけど、湿気がないぶんまだ熱くはないなぁ」

 そして世間話のように星の話に流れる。獅子の星はそんなに代わり映えしていないようだ。うん、ジャングルって木々が生い茂ってるらしいし、いろんな動物がいるんだよな。ここよりも暑いっていうのは不安だけど、でも行ってみたい……。

 興味を惹かれる話をするレグルスとの会話は、終わりがないようにしばらく続いた――。

 ――話が盛り上がる。

「へー、これが獅子の星の銃か」

「ジャングルの中は危険な動物が多いからな。遠距離型の武器はずいぶんと発展してるぜ」

 レグルスが持っていた銃は銀色で、太陽の光を鈍く反射させていた。牡羊の星にも銃はあるけど、話を聞く限り一発だけじゃなくて何発も打てるらしい。それに片手で持てるくらいに小型だ。すごい。

「持ってみるか?」

「え、い、いまはいいかな」

 さすがになれない武器に困惑してしり込みしてしまう。安全装置がかかっているから大丈夫だとレグルスは笑うが、興味半分、怖さ半分の俺にはなかなか踏ん切りがつかない。

 何かごまかそうと周りを見回せば、太陽の傾きに気がつく。

「あ、ごめん。そろそろ戻らないと」

「ああ、連れがいるんだっけか?」

 思ったよりも話が合い、打ち解けたレグルスに俺は話の終わりを告げた。いくらなんでもヘレと分かれてからずいぶんと時間が経ちすぎている。

「そう。服とか買うのに分かれたから、戻らないと心配するだろうし」

「そりゃあ戻った方がいいな! そうだ、夜にでも飯一緒に食わないか?」

「いいのか?」

「まだ話足りないしなー。牡羊の話もっと聞きたいし」

「俺も獅子の星の話聞きたいっ」

「じゃあ、決まりだな!」

「わかった!」

 とんとん拍子で、どこで待ち合わせするとかまで決め、俺はレグルスと一時別れを告げた。

 このせいでスピカとの約束を破ることになるとは、この時は――思わなかった。

2021/10/20 冒頭付近にアスクとヘレが蠍の神の銅像を見つける内容を追加調整しました。

2021/11/27 誤字脱字修正

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