1章 双子の星12―再会、ヘレとスピカ―
双子の神や民と別れて、俺は草原に立ちながら地図を見ていた。
もう太陽が真上のせいか、ものすごく眩しい。一睡もしていないが、俺は満足していた。双子の神が実は噂になっているほど傍若無人ではなかったことは、実際見てみないとわからないものだ。
遊びに負けても、実際は治療してその星に返還していたらしい。ただ、口留めがいささか乱暴でものすごい誤解を受けることになったり、遊びが過酷すぎたせいで恨みをかったためあることないこと言われたりしてたみたいだ。
まあ、もうそれも今後はなくなるだろう。こうやって荒野が草原に代わり、うさぎなどの動物たちがあちこちで見かけられるようになった。ポルックスが星を再生しているって言ってたから、やっぱり神はすごいんだなぁ。
感動した。すごく感動した。
「――っと、朝までの話に思わず浸っちゃったな」
それほど神についての話は面白くて、驚きの連続だった。
「地図によれば、双子の星の移動洞窟は全部で13。一つ、蛇遣いの星の移動洞窟はこちらから封鎖。あと、厄介な噂のせいで治安がいい星からは向こう側から閉鎖されてて――」
――ザシュ
頬に強い風を感じたかと思うと、目の前の木に大剣が突き刺さっていた。
「へっ……?」
間の抜けた声が出て、ぎぎぎっと、ゆっくり後ろを振り返る。
「アスク、貴様。オフィウクスの手先だったのか?」
目の前には、艶のある金髪をなびかせ、青い瞳を釣り上げた――乙女の騎士が俺を睨んでいた。
「ち、ちがうっ!」
「それならば、なぜ嘘をついた!」
慌てて否定するも、すぐに大きい声が飛んでくる。威圧がすごくて俺は後ずさった。
「ご、ごめんなさい……」
どうやって説得しよう……まずオフィウクスの加護を持ってる時点で乙女の騎士には敵っぽいし。
あれ? 嘘って……なんでバレてんだ?
「待ってください!!」
聞きなれた声が耳に届いた。乙女の騎士の向こう側に、ふんわりとした淡いクリーム色の巻き毛、人懐っこい栗色の瞳が見えた。
「ヘレっ!?」
「アスク!!」
それが幼なじみのヘレだとわかると、ヘレも俺を認めたのか駆け寄って体当たりをしてきた。よろめきそうになるが、なんとか踏ん張って受け止める。
「無事でよかった……っ!」
嬉しさに込み上げるものがあって、言葉を返そうとしたとき――バチンと頬を両手で挟まれた。
「ねぇ、アスク。私がわかるよね?」
「え、ヘレだろ?」
「もっと詳しく!!」
「え、えぇっと? 見た目に反して結構気が強くて」
俺の説明にヘレの眉がぴくりと動いたので、焦って良い方向の言葉を探す。
「頑張り屋で、今年の星まつりで神様へ祈りを捧げる役目をもぎ取った自慢の幼なじみ……だけど?」
今度は大丈夫だったようで、ヘレはパッと明るく笑った。そして俺から手を離し、後ろの乙女の騎士へ体を向ける。
「ほら、アスクはオフィウクスになんか操られてません!!」
「……わかった。ヘレ殿に免じて、オフィウクスの手先でないことは認めよう。ただし――」
乙女の騎士の目がすっと細められた。
「嘘をついたことに関しては、しっかりと説明してもらおうか」
あ、これ逃げられないやつだ。
たらりと冷や汗をかきながら、俺はさすがに諦めた。
1章双子の星はここまでとなります。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
面白い、楽しい、と感じて頂けたら嬉しいです…!
よろしければ、ブックマークや評価をいただけますと、とても喜びます。
次回は2章蠍の星に入ります。
引き続き、楽しんでいただけるよう精進してまいりますので、よろしくお願いいたします。