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学萌  作者: 五月 病
3/7

【第一章】二話目:交差点にはご用心

 朝の住宅街を必死の形相で駆け抜ける男女が一組。


(この時間……車がほとんど通っていない。これなら間に合う!)


 男は心の中で勝利を確信した。朝の住宅街は静寂に包まれている。愛沢学園の生徒もすでに登校し終えているのであろう。わずかに俺たちと同じく走る学生の姿がちらほら。


 そしてついに、愛沢学園を視界に捕らえた!


 その時である。思わぬ衝撃が男を襲った。思わぬ方向からの力にバランスを崩しすっ転ぶ。


「い、痛い…………ピンク?」


 仰向けに倒れた俺の視界いっぱいに、可憐なピンクの花が咲いていた。まさか転校初日にお花畑な展開なのだろうか?


「うわ、お兄ちゃん朝から大胆……」


 追いついて来た千夏が意味不明なことを言っている。妹が見えるということは、ここはまだ現実世界と考えていいのだろうか?


「あなた。交差点に走りこんでくるなんて非常識ですわよ」


 ピンクの物体がしゃべった。それによってようやく自分の立場を認識する。


「お兄ちゃんナイス顔面騎乗位!」


 そう! それだ!


「朝から卑猥な台詞を乙女が叫ぶな!」


 たとえピンクの物体もといピンクのパ○ツに押しつぶされていようと、際どいネタには突っ込みを入れておかねば!


「あら失礼。いつまでも乗っていてはお邪魔でしたね」


 俺の顔からピンクの物体もといピンクのパン○が遠のいた。


 曲がり角で女の子とぶつかって○ンツ……王道だ。って俺パンツ言いすぎだ。



「さて、あなた」


 先ほどまで俺の上にまたがっていた女の子が話しかけてきた。なんともお嬢様しゃべりなのは気になるところである。俺(180センチメートル)と10センチも変わらないであろう長身。間違いなく日本以外の血が混ざっている容姿は美人と呼ぶに相応しい。キラキラと朝日を浴びる金髪は腰まで届くほどの長さだ。スタイルも日本人が裸足で逃げ出すこと間違いなしの美しさ。

切れ長の瞳は意志の強さを感じさせる青い宝石。


 とにかく、そんな美人に睨まれては大人しく話を聞くしかない。


「今のでストッキングが破れてしまったので……買ってきなさい」


「えっ?」


「丁度あちらにコンビにがありますから、それで我慢しますわ」


 ストッキング? 買ってくる? コンビニ?


 えっ? 俺が?


 必死に遅刻しないように走って、ようやく光が見えたと思ったら、行き着いた先はコンビニにストッキングを買いに行くという非人道的な方向?


「いや……遅刻」


「あら、そちらからぶつかってきて、パンツも見て、ストッキングも破いて、謝罪もなしで随分図々しいですわね?」


 うっ、たしかに言われてみればその通りです。はい。


「ストッキング!? お兄ちゃんやっぱりSM好きだったんだ!」


「お前は黙ってろ! その、ぶつかって悪かった。買ってくるから」


 途中で無駄に参加してくる千夏は無視したいところである。


「ええ、お願いしますわ」


 尊大に雄大に金髪をかき上げると、ピンクなお嬢様は俺に背を向けた。一連の動きがあまりにもはまり過ぎていて、目を奪われる。


「じゃ、お兄ちゃん。あたしも先に行くね」


「俺だけ遅刻確定!?」


 奪われている間に、千夏もさっさと学園への坂道をのぼり出していた。明らかにヒロインとの初の出会いな場面であったのに、必要以上に存在感あり過ぎな妹である。


「あ、わたくしのクラスは2−Aですので。よろしく……転校生さん」


 愕然としている俺を振り返って、お嬢様は優雅に微笑んでみせた。


(ん? なんで転校生って知ってるんだ?)


 学園生徒だけが身につける何かがあったのだろうか? あるいは人数が少なくて知らない顔がすぐわかるとか……


 まあ、そんなことはともかく。朝のコンビニで女性物ストッキングを買うという羞恥プレイに涙したことを忘れずに記しておくことにしよう。


「あの……これください」


「はーい! ストッキングお一つですねえ」


「は、はい」


 わざわざストッキング言うなよ!


「サイズはこちらでよろしかったですかあ?」


「は、はい」


 いちいち俺の足見なくていいだろう!


「えっと……領収書いります?」


「俺はゲイバーで働いてるわけじゃねえ!」


 合唱。チーン。






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