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短めです。

「久しぶりだな」

ミリーに破片が降りかからないように注意しながらフェガリは立ち上がり、そう言った。

フェガリの顔は無表情に近いもので、久しぶりにあったであろう親友に向ける表情ではなかった。

勿論,イーリオスとて同じ。

もし。イーリオスの報告通り魔物にフェガリがやられていたのだとすれば、久々に会った友人の無事を喜ぶだろうに、イーリオスの顔には怒りしか浮かんでいなかった。

「イーリィー、これはどういう事……?」

イーリオスの剣幕に怖くなり、ミリーはそっとフェガリの影に隠れる。

その行動にハッと目を見開き、ジリジリとイーリオスはフェガリに詰め寄る。

腰に刺した剣を抜き、切先を向けながら。

「嗚呼、違うんだ。ミリー、これは魔物がフェガリの姿に化けているだけで本物のフェガリではない。これを討伐するためにここに来たんだ。だから、こっちにおいで」

ミリーはそんなイーリオスの言葉を信じられず、フェガリとイーリオスの顔を交互に見てしまう。

もし、このフェガリが魔物が化けている姿であれば、出会ってすぐにミリーは食われていただろう。今の今まで無事であったこと、イーリオスの破壊した小屋の破片がミリーにかからないように覆い被さってくれたことから私の目の前の人が少なくとも魔物ではないことはミリーにだって分かる。

下手な嘘を吐くイーリオスの行動に、フェガリの先程の言葉が真実味を帯びてきた。

「イーリィー、教えて。本当にあの日、魔物は出現したの?」

この質問の返答次第でミリーの行動は変わってくる。じっとイーリオスの瞳を見つめて問い掛ければ,イーリオスは剣をがしゃんと乱暴に放り投げてクソ、と呟いた。

「知っているのなら、そう言ってくれれば良かったのに。いつから知っていたの?」

「たった今、私がミリーにその可能性を示唆した。つまり、私が言った可能性を肯定した」

フェガリがイーリオスの剣を拾い、ミリーが怪我をしないように刃を地面に突き刺して平坦な声で言う。

「ミリーは偶然、ここに来て私の存在を知ったんだ」

つまり、フェガリが死んだと言うのは嘘であって、魔物は出ていないと言うことになる。では、あの日イーリオスの服を濡らしていた赤い液体は一体なんだったんだろう。ミリーに渡したペンダントは?

次から次へと疑問が湧いてくる。しかし、それ以前に。

「私や、フェガリのご両親を騙していたの?」

イーリオスはふっと表情を消して、乾いた笑い声を立てた。

「そうなるね」

思わずイーリオスの前に躍り出て騎士服の襟を掴んだ。

「どうして」

イーリオスは、ミリーの行動に抵抗せず、憐れんだ瞳でミリーを見つめるとそのまま抱きしめた。

「やめて」

もがくが、イーリオスの腕の力は強く、ミリーの力では出ることは叶わなかった。

「やめろ」

フェガリがイーリオスの腕をこじ開けてそっと自分の方へと引っ張った。

ミリーはフェガリに自分の体の行方を委ねた。

「ほらね、やっぱりそう。ミリーの心はいつまで経ってもフェガリのものだ。心を得られたんだから、ミリー自身は僕が貰っても構わないだろ?」

イーリオスがよろよろとミリーへ手を伸ばすが、フェガリによって遮られてしまった。

「ミリーが未だに私を好いていてくれるのなら、話は別だ。イーリオス、下がれ」

「いいや、下がるのはそっちだ。ミリーは僕の妻だ。死者扱いの君が今更のこのこ出てきたってミリーに出来ることはない」

「っ馬鹿言わないで!」

ミリーは色々な感情が渦巻く中、イーリオスの言葉に声を荒げてしまった。

イーリオスはびくりと肩を震わせてミリーを見る。

「フェガリに嘘を吹き込んで、私たちの仲を引き裂いて。楽しかった?」

長年片想いをしていた相手と想いが通じ、結婚は目前というタイミングでフェガリが疑心暗鬼に駆られるようなことを吹聴する。

そんな最低な行為をするような人と友人だったこと、そして、結婚してしまったこと、なにより、ちょっと好意を抱き始めていたことを心から恥じた。

「ねえ、どうしてなの」

ミリーは小さく呟いて、イーリオスに詰め寄る。

「どうして」

どうして、こんな事になってしまったんだ。

ミリーの心の叫びは森に吸収され、消えていった。

居た堪れなくなったのか、イーリオスは馬に跨り、ミリーをチラリと見て「帰りたくなったら帰って来て」と言うと去っていった。

気づかぬうちに流れていた涙をそっと拭ってくれるフェガリの手に、何故か更に涙が溢れてしまった。

「きっと、イーリオスの元に行った方が不自由のない生活を送れる」

フェガリがボソリと言った。ミリーはフェガリの胸の辺りをチョンと突いて笑う。

「それでも、私はここにいたい」

フェガリはしかめ面でミリーを見る。

「ここの生活が嫌になって、帰りたくなっても私が返せなくなるかもしれない。引き返すなら、今だ」

そんな事になるはずがない、と言うようにぎゅっと抱き付けばフェガリは苦しそうな顔でミリーを抱きしめ返した。

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