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動物園襲撃  作者: ふしみ士郎
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動物園襲撃…1の7

ぐるぐると回るジェットコースターみたいな気がする。

動物園襲撃…1の7


 ぐるぐると回るジェットコースターみたいな気がする。そう、ぼくはタイキとともにインライン・スケートを使って、オーデュボン公園を回っていた。「おい、いたか?」とタイキの叫び声。いつものことながらアメリカ人たちの注目を集めている。「ああ、いない。」ぼくは汗をふきながら答える。サングラスをしたタイキがこちらを見てから天を指差した、「ん?」ぼくが空を見上げると、向こうの方が曇っている。わーこりゃひと雨くるかな。「もう一周しようぜ。」タイキがまた日本語で叫ぶ。ジョギングしているアメリカ人たちはぼくらに向かってウィンクしてみせる。まるで「オーケー、ここは自由の国だ。でも、できれば英語で喋ろうぜ。」とでも言うように。


 いくら探してもあの小リスが見つからない。もちろんオーデュボン公園には他にもリスがたくさんいるわけだから「あのリスが見つかるのか。」ってことになるんだけど「そうさ、あの小リスにはユキが赤いリボンをつけてたからわかるはずなんだ。」とぼくは答える。するとタイキが肩をすくめてみせる。と同時にとうとう雨が降り出した。「やべ、ヴァモス、アミーゴ。」なぜかスペイン語で言いながらタイキが駆け出す。ぼくもその後を追う。後ろを振り返ると、雨の中で小リスが手を振っている気がした。


 ぼくらは公園の目の前にあるロヨラ大学のキャンパスに入った。最初、元はと言えばこの大学の「外国人のための英語教室」にぼくもタイキも、そしてヨウコも通っていたのだ。ユキもそこにいたのだけど、それはぼくがクラスを辞めてからのことだ。「かわいい韓国人がいるぞ。」とタイキに言われた。最初は「あ、そう。」てなもんだった。だいたい奴が「かわいい。」とか言う範疇は広すぎてあてにならない。でもヨウコが「なかなかのもんだよ。」とか言うから、少しは期待してみた。そして初めて会ったユキはその期待を裏切らなかった。”Hello. Nice to meet you.”(「こんにちは。はじめまして。」)そう言って彼女は手を差し出した。ぼくはその手をとって、彼女のピチピチのティーシャツを見る。白いティーシャツには日本のアニメのキャラクターが描いてあった。「あ、それ。」とぼくが言うと、彼女は自分の胸を見て恥ずかしそうに照れた。もうそれだけで、それだけでぼくは彼女のとりこになった。


「アメリカ人って照れるってことがあまりないよな。」とタイキが言うように、わりと堂々としててアイデンティティがしっかりしているアメリカでは「シャイ」とか「謙虚」とかは美徳ではなく、意見を言わない弱さと受け取られがちだ。「照れるのは子どもくらいのもんよね。」とはヨウコの言葉。そういうわけで、ひさしぶりに出会ったアジア的なウブさにやられたとしたら、ぼくもまだまだ子どもなのだろうか。


「やまない雨はない。」タイキが外を見ながらつぶやく。カフェテリアには短パンのアメリカ娘や、パワフルなアメリカ男どもがポツポツといたものの、週末ということもあって一部は実家に帰ったりしてるみたいだった。アメリカは広いからかみんな寮に入ったりするけど、上級生になると一人暮らしやシェアハウスをしたりする。だからここにいるのも大半はフレッシュマン(1回生)ということになるだろう。「おいおいあんなにアイスクリーム食べるか。」ブロンドの小太りの女の子がアイスを大盛りにしている。だから太るんだよ、とでも言わんばかりにタイキは口笛を鳴らす。女の子はこちらを見て、フンと鼻をならして去っていく。「なんだよ。」タイキが言う。雨はまだやまない。



またある日の午後


「ソクラテスだろ。」とおれは言ってみる。「いや、アリストテレスでしょ。」とはハリオの言葉。後ろのテリーかマークからは”Platon.”(「プラトン。」)という声も聞こえる。するとヘビはヘビらしからぬ笑みを浮かべて、また沼の中に姿を消した。その余波でおれたちはプカプカと泥の中を漂うはめになる。「おい、今のはどういうことなんだ。」おれが聞くと、ハリオが答えた。「正解だったんじゃないですか。」どれが、と言いかけておれは再び目を疑った。Kが自分の頭に向かってピストルをかまえていたからだ。そして「パスカル。」とだけ言った。


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