動物園襲撃…1の6
”Oh my God! Shit, man.”(「マジかよ、クソ。」)と言いながらぼくはすぐに小リスをレスキューする。
動物園襲撃…1の6
グダグダになるくらいの蒸し暑さのなか、部屋に戻ると死にそうな小リスを発見した。”Oh my God! Shit, man.”(「マジかよ、クソ。」)と言いながらぼくはすぐに小リスをレスキューする。水をかけてやり、指でさするんだけど小リスは息絶え絶えだ。「くそ、こんな暑い中に残してくるんじゃなかった。おれはアッスホール(ケツの穴野郎)だ。」窓をあけて空気を出して、それからボロっちいクーラーを全開にする。「死ぬなよ、死ぬな。」ぼくは必死の雄たけびをあげながら、他に何をしていいのかわからない。とりあえずリフレジレータ(冷蔵庫)からミルクと自分用のビールを一缶持ってくる。皿に冷たいミルクを注ぐが、小リスは見向きもしない。「やばいな。」ぼくはとりあえずミラーの缶を開けて一口飲む。そして考える。果てしなく広がる泥沼の中にいるみたいな気分。
しばらくすると小リスがピクピクと動き出した。「おい、がんばれ。」こんな気持ちになるのはいつ以来だろう。昔飼っていた犬が血を流して弱っていたとき以来だろうか。小リスは少し目を開けた。「おー助かったか。」部屋がようやく冷えてきたおかげか、小リスは少しづつ元気になっていった。そしてミルクを飲むようになったら、ちょうどユキが帰ってきた。”It’s so hot outside. I’m gonna take a shower. What are you doing?”(「外はすごく暑いわ。シャワー浴びるわね。あなた何してるの?」)事情を説明するとユキは軽くテンパった。”Oho my God. Oh my God.”と繰り返してから小リスの頭を優しくなでる。ようやく小リスも正気を取り戻したように、気持ちようさそうになでられている。”Hey, what can we do for this little sweet animal.”(「ねぇ、この小さくて可愛い動物のために、あたしたち何ができるのかしら。」)ユキはため息をつくと、ぼくの目をじっと見た。
元はといえばあの動物園から連れてきた(勝手についてきた)小リスだ。ユキは”We should take him back to the zoo.”(「動物園に返すべきよ。」)と主張する。ぼくも確かに今回のことから、この部屋にずっと置いておくのは無理かなと思った。そもそもリスって夏場はどこにいるんだろう。この暑い中、木とか木陰に隠れているんだろうか。「じゃあさ、窓を開けっぱなしにしとくとかさ。」ぼくはそう言ってみる。”It’s impossible. Too dangerous in New Orleans”(「不可能よ。ニューオリンズで危険すぎるわ。」)ユキはキムチを食べながら冷静に答えた。じゃあやっぱり動物園に返すしかないんだろうか。ぼくは味噌汁をすすりながら考えてみる。別に返してもいいよ、でもさ動物園を解放するっていうタイキのプランはどうなるのさ。せっかく解放しても、この小リスみたいに元に戻さないといけないなら意味はない。ぼくはブロッコリーを食べながら、向こうにいる小リスを眺めた。
アメリカらしいオレンジ色のライトが街中を照らしている。ぼくはMAZDAの車を運転している。横にはカゴをヒザにのせたユキが鼻歌を歌っている。なんでだろう。ドライブが楽しいのか、それとも小リスを動物園に戻すのがうれしいのか。「だってね、小リスはかわいいけど、やっぱりフンをするじゃない。」とユキはそんなことを言った。そりゃそうだけどフンたってとっても小さい、チョコボールよりも小さいかわいいフンじゃないか。「匂いもひどくないしさ。」とぼくは言ってみる。それでもユキのフンに対する心理的アレルギーを和らげることにはならない。
月夜、ラジオからはスモーキー・ロビンソン&ミラクルズの曲が聴こえてくる。「ミラクルか。」ぼくは独り言を言いながら、凸凹のニューオリンズの道を進んだ。「あちゃーパンクだ。」ぼくは車を降りる。ほんとにニューオリンズの道のせいで今まで何度パンクしたことか。日本での一生分のパンクをここで使い果たしているようだ。”Again, again, again.”(「また、また、また。」)ユキはそう言うと、カゴを助手席に置いて外に出た。”Wait a minutes.”(「ちょっと待ってて。」)ぼくは後ろから予備のタイヤを取り出す。そしてタイヤを交換する。”Please take a time, daring.”(「どうぞごゆっくり、ダーリン。」)ユキは隣でバンパーに腰をかけて、鼻歌を歌っている。それはそれでわるくない。好きな子が作業を見守ってくれているのだ。「よし直った。」ぼくが言うと、ユキの声がした。”Oh my God!”今日何度めかのオーマイゴッド。”What is it?”(「どうしたの?」)とぼくが声をかけると、助手席を見たユキが首を振っている。ぼくが助手席をのぞくと、カゴの中にリスがいなかった。つまり空っぽだった。オーマイゴッド。
またある日の午後
沼から顔を出した巨大なヘビは大きな口を開いた。「逃げろ。」とおれは言ってみるが、この沼地でそう簡単には身動きがとれるはずもない。「撃つ準備を。」後ろからハリオの声がする。そうだ、銃で対処するしかない。おれは銃をかまえる。後ろでもテリーやマークの銃をかまえる音がカシャンとする。”Are you guys ready?”(「準備はいいか?」)おれはそう叫ぶ。”Yeah!”口々に返答が返ってくる。「ワン、ツー。」と言ったところで、ヘビが言葉を発した。「人間は考える葦である。って誰の言葉か知ってるか。」しかも日本語だった。それとも頭の中に直接響いているのだろうか。首のないKだけが、クククと笑い続けている。