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動物園襲撃  作者: ふしみ士郎
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動物園襲撃…終章

動物園襲撃…終章

 それはユキのお墓だった。他のお墓と見分けがつかない白いニューオリンズの石が使われている。ぼくはじっとその墓石に見とれて、そして彼女の影を感じていた。ああ、ここにいたんだね。とぼくはつぶやく。ええ、ずっと待ってた、あなたが来るのを。とユキは答える。どうして、もっと早く来てくれなかったの。ぼくは目をつむって風を感じている。ごめん、色々あって手間取ったんだ。そうなのね、いつまででも待つつもりだった。うん、もっともっと早く来るべきだった、きみがそっちに行く前に。フフ、あなたらしい言い訳ね。言い訳じゃないさ、本当にそう思っているんだ。ありがとう、そう言ってくれるだけでうれしい。彼女が笑った気がしたら、ポツリポツリと雨が降ってきた。


「ユキは、ずっとあんたのことを想ってたんだよ。」とヨウコは涙をふきながら教えてくれた。そっか、とぼくは答える。ただ、なぜヨウコが今までこのお墓のことを内緒にしていたのか、ぼくには分からない。「それは、あんたが意気地なしのヒキガエルだったからよ。」と彼女は言って笑う。ぼくも思わず笑ってしまう。「そんなあんたを連れてきても、ユキはきっと喜ばないから。」ヨウコはそう言うと、雨の中でタバコに火をつけた。「たしかに、そうだったかもな。」とぼくが言ったら、ピューっと一陣の風が吹いた。まるでユキが笑ってるみたいだった。そして、いまだに五月雨みたいな雨粒がぼくらの頭上から落ちてきていた。


 お墓で終わるなんて、まさにデッドエンドみたいだな。とぼくが車中でつぶやくと、ヨウコは「それ、おもしろくない。」と答えた。何一つおもしろいことが思いつかないんだからしょうがない。「じゃあさ、あたしのウエディング・セレモニーに来てよね。」とヨウコが言った。「え?」とぼくは彼女の顔を見る。「前を見てよ、危ないから。」とヨウコは楽しそうに言う。「ウエディングって、たしか離婚したんだよな。」とぼくは記憶の綱を手繰り寄せる。そう、言い忘れていたけど彼女はバツイチなんだ。日本でぼくが紹介したアメリカ人と結婚したんだけど、うまくいかなかった過去があった。「そんなこともあったね。」とヨウコは不適な笑みを浮かべる。


 相手は誰なんだよ、と彼女に聞いたけどそのときは教えてくれなかった。そして後日送られてきた招待状には、ヨウコとあいつのツーショットの絵が添えられていた。「まったく。」とぼくはつぶやく。最初からこうなるはずだったんだ。何を遠回りしてきたんだろう。ぼくはタキシードを着こんで、あいつらの結婚式に参上する。そこにはあらゆる知り合いたちがいて、旧交をあたためた。もちろん、ヤギやシカ、そしてゾウにアルマジロ、そして逃げたはずのカバや行方不明のシマウマに死んだライオンだって来ていた。ゲンちゃんにマサヒコ、Wキムも来ていたし、デビッドとレーチェルも正装してきていた。パーティーは昼間から深夜にかけて行われ、ビールにワインが出て、オイスターにガンボ、シュリンプ・サラダといったニューオリンズ料理が並べられた。その間中あいつらはこの世の春を楽しんだ。何度もお互いにキスをして、たまに照れたり褒めあったりした。そんな彼らを見て、ぼくとユキもたまらなく幸せな気分だった。


 これが動物園襲撃のささやかな成果だ。原因があれば結果があり、備えがあれば憂いはなし。ぼくらは常に多くの行動から多くのことを学んできた。あまりにも愚かなこともあれば、情けなくて笑い出してしまうこともあった。でもぼくたちは一人じゃない。生きてる友達もいれば、死にそうな奴もいるけど、この世とあの世はつながっているんだ。だから、悲しむことなんてないさ。ぼくはそう思った。たとえ動物たちが討ち死にしたとしても、それは自由を得ようとした代償だ。そして生き残ったものは、精一杯に生をまっとうするだけなんだ。そうだよね?ぼくがピューっと口笛を吹くと、大空からハゲタカがやって来た。そしてぼくを上空に乗せていってくれる。当然横にはあの小リスがいて、幸せそうな表情で手をすり合わせている。いつまでも一緒にいる、そんな気分のまま。



まるでダンスするように


 首のないKはあきらめたような顔で、おれの肩を押した。「結局、こうなるって分かってたんだ。」と奴は言う。「なんのことだよ。」とおれが言うと、奴はリスを手にしたまま船に乗り込んだ。そして河を西方へと向かって漕ぎ出す。「Kさん、さよなら。」とだけハリオが言う。するとテリーとマークは南へと歩き出した。”Where are you going to?”(「どこに行くんだ。」)とおれが聞くと、奴らはシンプルに”New Orleans.”(「ニューオリンズ。」)と答えた。仕方なくおれとハリオは東へと向かう。「そういや、あの地図はどうした?」と聞くと、ハリオはポケットから動物園の地図を取り出して、おれに手渡した。そしておれはそれを丸めると、青空へと向かって投げつけた。天高く投げつけてやった。



おわり

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