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動物園襲撃  作者: ふしみ士郎
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動物園襲撃…3の8

動物園襲撃…3の8


 動物園襲撃は成功した。ように見えた。ぼくたちはそれぞれの満足感と恍惚、そして失望を味わいながら眠りについた。正直言うと、何が合っていて何が間違っているのかぼくには今だに分からない。だけど、そのときはそれでも「行動した」ことで、何かを打ち破った気がした。タイキが言っていたように。それは自分の殻だろうか、それとも社会の規範や常識、または魂の叫び?とにかくあの動物園襲撃により、ぼくは変化を遂げた。いや、見た目に何かが変わったわけではない。でもぼくの内なる声が、何かに目覚めさせたのだ。そう、花が咲き、サナギが蝶になるように。


 その夜、ぼくは何度も起きてしまった。興奮していたのだと思う。そして早朝に近いニューオリンズの街並みを窓から見ながら、ぼくはあることを確信した。そう、たしかに世界には危険やリスク、そして不安や恐怖が溢れている。だけどそれらが飛び立ったあとに残るのは、パンドラの箱に残っている「自由」のはずだ。それはぼくにとって「希望」の代わりなわけで、ここはアメリカだから。とにかくぼくが感じていたのは、疾風のような中に立ち尽くしながら、とてつもない自由だった。静寂とまではいかないかもしれない、だけど確かな手ごたえがあった。「大丈夫。」ぼくは自分に言い聞かせる。


 個人個人で責任は持たなければいけない。意見も言わなければならない。あとは結果次第。ちょっとシビアだけど、そうすれば相手の言うことも尊重できるはず。簡単に言うとそういうことだった。相手の自由を守るけど、こちらも自由ってわけ。いや確かに、日本的な気づかいの文化も素晴らしいとは思う。自分で意見を発するというよりは、雰囲気を大事にし、弱者にも優しい社会。それだって悪くない。でもぼくは少々そういうのが疎ましく思えていたわけで、だからアメリカに来たのかもしれない。ハンデはある。英語だって、体だってここではアメリカ人には負ける。だけどぼくには根気と忍耐、そして俊敏性がある。何しろぼくはニホンジンなのだからね。


“What are you doing here?”(「何をしてるの、こんなとこで?」)とユキが起きてきて、目をこすりながら声をかけてくれる。ぼくは彼女にキスをした。いや、昨夜のヨウコとのことは忘れてほしい。あれは動物的な本能がなせる業であって、本来のぼくではない。なんて言い訳が通るはずもないので、ユキには内緒だ。彼女は少し笑いながら”I’m smell like KIMUCHI?”(「キムチの匂いするでしょ?」)と言った。そんな彼女が愛しかった。


「ちょっとお腹がすいたね。」と答えると、ユキがミソスープを作ってくれるという。キッチンのあたりを見ると、なぜかそこにまた小リスがいた。ぼくは思わず手を差し出す。すると小リスは、じっとぼくを見る。ユキはそれに気づいてなくて、冷蔵庫で具材を探している。ぼくは窓が開いていることに気がついた。そして「あ。」と声に出した瞬間、小リスはジャンプして、窓枠のところに飛び乗った。さらにぼくが一歩前に出ると、窓から外にあるオークの木に飛び移ってササっと枝の中に入っていった。「ああ。」とぼくが言うと、小リスはニューオリンズの薄暗い朝の中、再びちょこんと顔を出して、それからグッドバイも言わず消えていった。ユキが”What?”(「どうしたの」?)と聞いたけど、ぼくは黙ってオークの木のほうに向かい、心の中で「サヨナラ。」と言った。そう、それがその小リスを見た最後だった。




まるでダンスするように


切腹を命じられた白人のマークは、当然浮かない顔だった。「それはそうだよな。」と首のないK。「そこまでする必要あるのか。」とおれも意見を放った。”Revenge for our ancestor.”(「祖先らのための復讐だ。」)とテリー。復讐っていっても、それじゃマークの家族はどうなるんだ。彼にだって肉親がいるだろう。その相手がまた復讐に立ち上がったらどうする。「まさに復讐の連鎖ですね。」と落ち着いた表情のハリオが言う。なにを言ってるんだ、切腹を提案したのはお前じゃないか。とおれは思ったけど、実際にやったのはテリーの手にある刀を奪い取ることだった。”What are you doing?”(「なにしてんだよ。」)と奴が言う。その迫力に少し怖気ついたものの、おれは勇気を振り絞ってこう言った。「ストップ、ヴァイオレンス。」




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