動物園襲撃…3の7
動物園襲撃…3の7
全てのルールや法律は「みんな」を守るためだ。そんなことは分かってる。お互いのためにそれは守ったほうがいい。誰かと待ち合わせたら、やはりその時間に間に合うように行くのがお互いのためだ。もちろん「5分前には来るべきだ。」とか「10分くらいは遅れても仕方ない。」とかそれぞれに言い分はあるだろうけど、でもそれを言い出したらキリがない。だから少なくとも、その時間には来といたほうがいい、としかぼくには言えない。だけど平気でそれを破るのがタイキだった。「かたいこと言ってんなよ。」とか笑いながら、確信犯だから余計タチが悪い。
多分、あまりにルールが厳格化するとズルする人も増えるのだろう。みんな「を」守るためのルールが、みんな「が」守るためのものに化けてしまう。しかもそこに厳罰や違反者への罰金などあれば?誰だって、嫌気がさす。だから本当は自主的に守るべきなのであって、それを道徳という。「分別くさいこと言うな。」とタイキが走りながら言った。ぼくは思わず転びそうになる。後ろを振り返ると、ヨウコがタイキのサングラスをかけて走っている。まさに檻は放たれた。熊を放ち、ライオンを逃がし、シカを手なずける。そんなぼくたちは何者だ。トリックスター、というのはタイキに与えられる称号で、ぼくらは彼の仲間1か2ってとこだろう。
ぼくらの横をシマウマが駆け抜ける。まさにシロかクロかってところ。もう、ドアは開いたのだ。それについて判断するのは後世の者たちの仕事であって、ぼくらが今すべきなのは走ること。果たして逃げ切れるのか、それが問題だけど。「早くしろよ。」とタイキが叫ぶ。ぼくらはようやくユキが待つ車まで戻ってきた。ハァハァと息を切らして到着すると、彼女は目をまん丸にして怒っていた。”I can’t believe you. Why, why didn’t you wake me up? ”(「信じられない。なんで、なんで起こしてくれなかったのよ。」)って言うユキにかまっているヒマはない。ぼくはすぐにエンジンをかけて、アクセルを踏み込んだ。
ぼくらが街に出ると、パトカーや消防車のサイレンの鳴る音があちこちから聞こえてきた。ぼくはわき道に車を停車する。すぐ横をパトカーが横を通り越して行く。アメリカのパトカーは青と赤の光を発しながら走っていく。あんなのに捕まったら一環の終わりだ。ぼくらはニューオリンズのアップタウンの片隅で夜の中、ひっそりと黙っていた。「よう、みんな無事か。」しばらくしてタイキが後ろから言った。「みんなって?」とぼくが聞く。「動物たちのことよね。」とヨウコ。さっきまでぼくとセックスをしてたそぶりも見せない。もちろん動物園襲撃のさなかであんなことしてたなんて、誰だって信じられないだろうけど。
車のキーを回そうとすると、なぜかエンジンがかからない。こういうときだ、ヒヤっとするのは。「やばい。」とぼくは言って、何度かキーを回すんだけどクスクス言うだけだ。すると”Shall we check it out? ”(「チェックしましょうか?」)と映画のタイトルをもじりながらユキが笑う。しゃれているのか余裕があるのか。笑みを浮かべる助手席のユキにうなづきながら、タイキたちにエンジンを見てもらう。そしてボンネットに入っていたのは、「どんぐり。」だった。でもいつのまに。やっぱりリスたちの仕業だろうか。「さっきまで動いてたのにね。」とヨウコが首をかしげる。そのとき、ぼくらの車の横を数台のパトカーが列をなして走っていった。何か他の車を追いかけているみたいだ。「おお、あぶね。今出発してたらおれたちだって追いかけられていたかもしれないな。」とタイキは言って十字架を切った。仏教徒のくせに。
まるでダンスするように
テリーが黒人だからか、白人に対しての仕打ちは厳しかった。奴は白い顔をしたマークを”Betrayer., red neck.”(「裏切り者の、白人やろう。」)と呼んで、縛り首にしようと言い出した。「ちょっと待てよ。」おれが言うと、奴はおれのことを「シャラップ、ジャップ。」と言った。「見事にラップしてるな。」と首のないKが妙に関心する。すると「いい考えがありますよ。」と横からハリオが言った。「なんだよ。」と聞くと、彼は自分の持っていた刀をテリーに差し出した。「ジャパニーズ、せっぷく。」とか言いながら。「まじかよ。」とおれは言ったが、テリーは”Good idea, man.”(「いい考えだな、オメー。」)と言いながら白い顔のマークに刀を近づける。彼はおびえた顔をしているが、十字を切る余裕まではないみたいだ。




