動物園襲撃…3の5
動物園襲撃…3の5
車のラジオからボブ・ディランの「ハリケーン」が流れている。ヴァイオリンの音色に乗って激しく歌う彼の声が、ぼくらを盛り上げてくれた。「そういやハリケーン・カトリーナのとき、どこにいたんだ?」とぼくはタイキとヨウコに聞いた。彼らは顔を見合わせて、首を振った。「おれはメキシコさ。」と素っ気なくタイキが言う。「あたしは、あの時は大変だった。」とヨウコが言う。そう、ちょうどユキの事件があったあと、カトリーナがニューオリンズにやってきてすべてを水の中に沈めてしまったのだ。その被害は甚大で、ぼくがここに戻ってこなければと思った一つのきっかけでもあった。
災害の復興は思ったよりも遅れていて、ぼくが着いてからもニューオリンズには避難民が多くいた。「動物たちは?」とぼくはたずねてみた。するとまたヨウコが首を振る。「あの時も問題になったみたい。だって人の命のほうが大事じゃない。いざとなったらそういうもんよ。」結局、動物たちは放っておかれ、数匹のベアーが死に、何匹かのジャガーがケガをして、数十匹のリスが行方不明になった。「リスなんて公園にいくらでもいるのに、なんで動物園でわざわざ飼うんだ。」とぼくは今まで思っていても口に出さなかったことを声に出した。二人とも黙って首を振るばかり。
ぼくの横の席ではリスみたいな寝顔でスヤスヤとユキが眠っていた。「着いたよ。」とぼくは彼女を起こす。ムクムクと起き上がった彼女はぼくにキスをして、また眠ってしまった。もう一度起こそうとしたら”Good luck.”「グッドラック」)とだけ言って、また眠ってしまう。それでタイキはだいぶ頭にきていた。「あの女、絶対わざと寝たふりしてるんだ。」とか言って。「それだったら前のときだって来なかったでしょ。」とヨウコがフォローしても「いや、前回つかまったから、今回は嫌だったんだ。」と言い張った。ぼくとしてはどう答えていいのかわからない。ただ「夜は弱いんだ、彼女。」というくらいのことしか言えない。「いいさ、三人のほうがやりやすい。」とタイキが言って、白いマスクを被った。ぼくとヨウコもそれに続いた。まるで本格的な銀行強盗をするみたいだ。
夜の動物園は思ったよりも静かだった。鳥の鳴き声さえしない。もちろん鳥だって夜は寝ているのだろう。「なぁ。」とぼくが声をあげると、「シッ。」とタイキが言う。ぼくらは金網をよじ登って中に入る。ヨウコはそこでどうしようかと戸惑ったが、頑張って金網を上った。「いいね、お前のケツ。」と下からタイキが言ったけど、ヨウコはそれに返事する余裕もなく黙って地面に着地した。「よし、行こう。」とぼくが声をひそめて言う。もう警備室の場所はわかってるわけだし、あとは警備員を誘導するだけだ。
だけど警備室に入ってみると、なぜか警備員はいなかった。「なんだ。」とぼくらは少し安堵した。「多分、巡回してるんだ。」とぼくが言うと「いや、どっかで寝てるんだよ。誰かさんみたいに。」とタイキは嫌味を言うのを忘れなかった。
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。」と正論を言うヨウコに従って、ぼくらは檻のカギを探した。でもそこらじゅう探してもカギは見つからない。金庫だってない(別にお金目的じゃないからいいんだけど)。「これ以上は無理か。」とぼくは焦って言った。「カギがないと作戦は失敗だぞ。」とタイキもあちこち探しながら言う。するとヨウコが「あった。」と大きな声を出した。ぼくらが振り向くと、最初に開けたドアの裏側に大量のカギがかかっていて(それは予定通り)、そこに黒いカーテンがかけてあったから分からなかっただけなのだ。ぼくらはそのカギを片っ端から外すと袋に入れて、動物たちの元に向かった。
まるでダンスするように
「ハリケーンが来るから気をつけろ。」とマークに瓜二つのガンマンが言った。おれたちは全員、奴の前に両手を上げるしかなかった。「無実の罪だ。」と首のないKが叫ぶ。「ぼくのせいじゃない。」とはハリオ。”It’s not my fault.”(「おれのせいでもない。」)とテリーも言う。ちょっと待て、みんな何を言ってるんだ。すると、白人のガンマンがおれに向かって銃口を向けるじゃないか。「話しを聞いてくれ。」いやむしろ話を聞かせてくれ、と思ったが、あっという間に奴の銃が火を噴いた。まじか、と言う前に時すでに遅し。おれの胸から血が吹き出す。「Sさん。」とハリオの声が聞こえる。大地が逆転し、空がさかさまに見える。いつから地球は平たくなった。




