動物園襲撃…3の4
動物園襲撃…3の4
半分ガレージになっているタイキの部屋のドアをノックした。すると裸の奴が顔を半分出す。「どうした、急に。」と珍しく用心深そうな顔。「ちょっと入っていいか。」とぼくが言うと、奴は肩をすぼめる。「ちょっと取りこみ中だから、十分後に来てくれよ。」と、奥をのぞくとベッドには裸のヨウコの姿がチラっと見えた。「そうか、わるかったな。」とぼくは言って、ドアを閉めた。暑さは少し和らいでいる。ぼくは車でアップタウンを回ってみる。閑静な住宅街。ときにフランス様式の家が並ぶのは、植民地だった過去の歴史があるからだ。異国情緒満開な土地。なぜぼくはここに戻ってきたのだろう。いったんは引き上げながら、今こうしてここにいるのはなぜだろう。あまり考えすぎはよくないのだけど、つい時間ができるといらないことに思いを馳せる。
最初の時は確かに勢いのある逃亡者のようなものだった。ぼくはタイキたちと出会って「日本を出ようぜ。」という話しになった。カリフォルニアを通過してジャズの町に到達し、それからミラクルな出来事が続き、ぼくたちはアメリカの自由を満喫した。そしてぼくらがニホンジンということを思い知らされた出来事があった。何よりユキの妊娠があって、彼女は黒人の子どもの命を宿したのだ。しかも彼女は流産し、そして自らの命を。
そのときぼくはもう日本に戻ってきていた。そして哀愁と現実の両方を引き受けようとした。しかしそれはジャズの音色とともに、無残に朽ち果てた。ぼくはあまりにも無力で、そしてあまりにも馬鹿だった。結局就職したものの、すぐに仕事を辞めてしまった。それから再びアメリカに戻ってきたってわけだ。ユキに会うために。しかしそこにいたのは彼女ではなくて、新しい女性だった。つまりユキ。
ぼくは何度もこの事実を反芻してみた。しかし何度考えてもわからない。自殺未遂までしたユキだけど、彼女はいったいどこにいったのだろう。たまに見る彼女の夢は、ユキがどこにいるかを示しているのだろうか。ユキはユキほど脆くはなくて、明るくぼくを元気づけてくれる。そのおかげでぼく自身もユキの影から逃れることができた。しかし、どこかでユキをまだ求めているのも確かだ。ユキのことは大スキだよ、でもユキのことが忘れられないぼくは、本当にバカなんだと思う。
車を運転して、しばらくするとタイキたちの部屋に戻ってきた。再びドアをノックすると、服を着たタイキが肩をすくめている。「遅いぜ。」だってさ。中に入ると、ビールと軽いスナックが用意されていた。ぼくがヨウコを探すようなそぶりをすると、「シャワー浴びてる。」とタイキは素っ気なく言って、アビータの栓を歯で開けた。「ちょっと待っててくれ。」と言うと、奴はクラプトンの音楽をかけた。ご機嫌なギターから渋い声。こうでなくちゃ、とぼくもビールを飲む。
「もう一度動物園を襲撃しようぜ。」とぼくは二人を前にして宣言した。ハ?という顔の二人は、しばらく後で爆笑した。「なんだ急に。」「笑わしてくれるよね。」とか言っている二人を見て、ぼくは彼らを抱きしめたくなった。「いや、おれたちがやらないと、誰もやらないだろ?」とぼくが真剣に言う。すると「いつ。」とタイキが聞いてきた。「明日の夜を狙う。」とぼくが答えると、奴らはケラケラ笑っていたのをやめた。
「本気か?」とタイキが言う。「もちろん。」とぼくが答える。「もっと危険かもしれないわよ。」とヨウコが聞く。「承知の上だ、危険を冒さないと何も始まらないって言ったのは誰だっけ。」二人はビールをもう一度ゴクリと飲んで、顔を見合わせてからうなづいた。
まるでダンスするように
おれが黙っていると、やつらは三すくみのようになった。「動いてみろよ。」と首のないKが言う。「そっちこそ。」と刀をかまえたハリオも言う。”Shit, man.”(「クソ、お前ら。」)とは黒人なまりのテリーの言葉。この状況は、おれにとってすごく有利なようだ。しかし下手すると、一対一になった残りの一人に襲われるかもしれない。まるで丸裸の女の気持ち。そのときスバーンという音があたりに鳴り響いた。おれたち全員がそちらを見ると、カーボーイハットを被った男が銃をかまえて立っているじゃないか。「荒野のガンマン。」ハリオがつぶやく。「少なくともダーティ・ハリーには見えないな。」とは首のないK。だが顔を上げたガンマンは白人だった。そしてなぜかマークに瓜二つだった。