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動物園襲撃  作者: ふしみ士郎
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動物園襲撃…2の9

動物園襲撃…2の9



 動物たちの夢をみた。しかも奴らはぼくのサッカーの仲間だった。「ヘイ、パスをくれ。」と真ん中で合図するのは長い首のゲームメイカー、キリン。ぼくは躊躇なくボールをキリンに預ける。するとキリンはその長い足を使ってロングパスを出す。その先には点取り屋のチーターがいて、全速力でボールをおっかけている。残念ながらそれはタッチラインをわって、相手ボールになる。相手チームは白人と黒人の混合ユナイデッド・ステイツ・チーム。黒人のゴールキーパーがゴールキックを蹴る。それはぼくらの頭上を飛び越え、と思ったら大きなタカがそのボールをかっさらった。


 そう、まさかと思ったけど、やはりそのタカはうちのチームの一員だった。そのボールを足で捕えると、大きく羽ばたいて再び敵のゴール付近まで持ってきてくれる。”Off side!”(「オフサイドだ。」)という声が巨漢の白人ディフェンダーから上がるが、空を飛んでることをとがめる者は誰もいない。多分反則ではないみたいだ。ボールはオフサイドぎりぎりのラインを抜けて、地上に落ちた。シマウマの審判が笛を吹かなかったから、大丈夫だったのだろう。そしてそこにうちのチームのエースストライカー、カバがドタバタと走っていく。「あいつがエースストライカー?」という聞きなれた声がするので、横を見るとそこにはタイキがいる。でもカバはボールをくわえて、どのディフェンダーをも寄せつけない迫力でゴールを体ごと叩き込んだ。「なるほどね。」とタイキが認めたほどだ。


 かといって、その後で相手チームも黙ってはいない。華麗なフットワークをみせるアジア系や南米系のアメリカ人によって、うちのディフェンダーはきりきり舞いになってしまう。といってもオスライオンは寝ているし、カメレオンはどこにいるのかわからないし、トータスのカメは遅いし、オランウータンなどは観客やチアリーダーといちゃついている。唯一、ゴールキーパーのエレファントだけが立ちはだかる。「まかせたよ。」とぼくは走りながらつぶやく。相手チームはゴール前で何度もパスを回し、シュートをうかがう。しかしうちのゾウに死角はない。長い尻尾と鼻を使って、すべてのシュートをブロックする。やがて相手の黒人フォワードが言った。”Hey, man. You should play with us.”(「へい、お前はおれたちの仲間になるべきだ。」)するとエレファントは「パオーン」と一鳴きする。


「あれって、どういう意味?」ぼくはタイキに尋ねる。「もちろん、そういう意味だよ。歴史的にね。」とタイキは答える。歴史的に?ということは、あれはアフリカゾウってわけだ。そして船で連れてこられた歴史のことを、つまりは奴隷船のことを言っているにちがいない。アフリカに起源を持つ黒人たちが仲間になれとかいう理由はわかったけど。「そんなこといっても、じゃあ白人たちはどうなるんだ。」とぼくはさらに聞く。すると「そう単純でもないさ、白人っていってもイタリア人もいれば、スペイン人もいる。それにネイティブ・アメリカンたちもいるんだ。」とタイキが言った。そんなこと言われてもぼくには分からなかった。さじを投げそうになっていると、ぼくの前にボールが転がってくる。でもぼくはどうしたらいいのか相変わらず分からない。


 そこでぼくは目が覚めた。まったく寝覚めはよくなかった。ここが人種のるつぼのアメリカだってことはわかってるよ。だからってこんな夢を見るなんて。これも全ては動物園襲撃の計画のせいだ。どう関係があるんだよ、動物とぼくと。ぼくたちニホンジン(とコリアンのユキ)が動物園襲撃を行う意味がどこにあるんだよ。ぼくは目覚めのウォーターを一杯飲んだ。そしてキッチンの窓から外を見る。小鳥たちが鳴いている。悪くない空気。「自由?」ぼくが独り言を言うと、カサっという音がする。ふと横を見ると、そこにはあの小リスがいた。




そして津波の後に


 それが奴隷船だということになんとなく気づいたのは、どれほどの時が過ぎてだろう。おれたちは演奏をし続けていたけど、まったく嵐は鳴り止まなかった。そして敵の砲撃も続いているようで、そのどっちが船を揺らしているのか船底からは伺い知ることはできなかった。でも”It’s the biggest game since 1498.”(「これは1948年から一番大きなゲームだよな。」)とテリーとマークが話していた。「フォーティーン・ナインティ・エイトって言ったよな。」とおれがハリオに確認すると、奴は首をたてに振るばかり。つまり「コロンブスがアメリカ大陸を“発見”して以来ってことだな。」と首のないKが訳知り顔で説明した。

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