動物園襲撃…2の8
動物園襲撃…2の8
四人目にならないかい。とユキに話してみた。まったく見込みなんてなかったけど、一応。すると彼女はちょっと考えてから”All right. I really want be your girl friend.”(「いいわ。あたし、本当にあなたの彼女になりたいもの。」)と答えた。まいった、打ちのめされそうだ、そんなこと言われたら。その夜、ぼくは彼女とスシ・レストランに行った。久しぶりの魚料理、寿司と日本酒をいただく。”I love this food.”(「この食べ物、大好き。」)と彼女が言ったのは、カリフォルニア・ロールのこと。色とりどりの詰め物が、海苔に巻かれている。日本では食べられないけど、これはこれでうまかった。そういうこと、どこに行こうとなんとかなる。世界は名物と好物に恵まれている。
たとえば動物たちもカリフォルニア・ロールみたいなものかもしれない。日本で見られない動物たちも、多分幸せに違いない、それを無理に解放する意味はあるのか。再びぼくは悩んでしまう。でも、なんでこんな罪悪感を感じるのだろう。とっととやれっていう話しだ。もしか社会的な適合性?それともタイキが言うように「ただ意気地がないだけ。」
「そんなことない!」とぼくは電話越しに彼に伝える。するとしばらく沈黙があって、次に声が聞こえたのはヨウコだった。「別に無理しなくていいんだよ。」と珍しく彼女が優しく言ったもんだから、ぼくは自分の耳を疑った。なんか嫌な予感さえする。案の定「じゃあ今からここに来いよ。」ってタイキが言う。最終的な計画の確認、なんて理由で、別にいいんだけど。
ぼくはユキを連れて、タイキの部屋に行った。するとそこではガンガンにロックミュージックがかかってて、ビールを飲んだタイキとヨウコがいた。ヨウコがソーセージとかブロッコリーとか簡単な料理を作り、タイキは一人で紙に何か書いてはシャウトしていた。「ヘイ、ワッツアップ。」と奴はニヤっと笑う。ふと後ろを見ると、ユキはしかめつらになっている。彼女はごく保守的な韓国の女の子なのだ。むしろアメリカ、ニューオリンズなんてファンキーなシティは似合わない。勉強するために留学してきて、やがてはいいところの大学を卒業していい企業なんかに勤めるはずなのだ。その彼女がこんなところで、やさぐれたニホンジンたちとツルんで悪さ(?)なんてしてていいのか。それはぼくが考えることじゃないかもしれないけど、多少の責任はある。
ユキを前にしても、タイキは真剣な面持ちだった。そして紙に書いた動物園の間取りを見て(もちろん定規なんて使ってない)、ここから攻めるとか、ここで見張っていてくれ、などと指示を出した。ぼくは「なるほど。」とか「OK。」などと答えたものの、これで本当にうまくいくのかわからなかった。第一、カギはどうするんだ。全てのカギを作るにはぼくとタイキの二人がかりでも一晩じゃ無理ってもんだ。するとユキが言った。”All right, guys. I will get the keys.”(「わかったわ。カギはあたしが手に入れるね。」)と言った。”How?”(「どうやって?」)とヨウコが聞くと、ユキは笑った。”Of course. I’ll talk it with a guard man in the zoo.”(「もちろん守衛さんとお話しするの。」)まじかよ、とぼくは思ったけど彼女の顔を見ると真剣そのものだ。今度ばかりは彼女も本気ってわけだ。「いいね、ユキ。」と言ってタイキが彼女を抱きしめたもんだから、ぼくもヨウコもドギマギしてしまう。
その夜はそれで別れたけど、果たしてこれで計画がうまくいくのかまったくわからなかった。分からないどころか不安だらけ。「だって穴だらけじゃないか。」とぼくは言おうとしたけど、今さらなのでやめにした。「やることに意味があるんだ。」とタイキが言う。そして”Just feel it. Don’t think.”(「考えるな、感じろ。」)などとピカソの言葉を引用する。でもさ、ぼくたちは芸術家じゃない、動物園を襲う強盗なんだぜ。「なに言ってるんだ。強盗じゃない、動物たちを救う芸術家なんだ。」とタイキは反論する。まったく。
そして津波の後に
ジョニー・キャッシュの「ウォーク・ザ・ライン」をおれは歌う。まるで監獄にでもいるような気分だったから。するとすぐさまマークがギターをかき鳴らす。テリーはイスとテーブルを太鼓代わりにして音を出す。ハリオも古いピアノを開けて、ぼちぼちと弾き出す。それで首のないKが部屋の片隅に眠っていたウッド・ベースを取り出す。「少なくとも、表でやっていた時よりはいいんじゃないか。」とテーブルの上のKの首が言う。「うん気に入った。アンダーグランド・オーケストラってわけだ。」とおれも相槌を打つ。どんなときにだって音楽は必要だ。そしてどんな状況でだって生きる希望というのはある。全力で演奏すれば、武器のことも戦争のことも忘れることができる。しかも、愛は地球を救う?