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動物園襲撃  作者: ふしみ士郎
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動物園襲撃…2の5

こんなこと言うとユキに怒られてしまうけど。


動物園襲撃…2の5


Yukiのこと。アメリカにいる当初、ぼくは彼女と付き合っていたし、愛していたとさえ言える。それは今だって変わらない。こんなこと言うとユキに怒られてしまうけど。でもそれは事実で、ユキがもし他の男の子どもを身ごもらなければ、そして流産なんてことが起こらなければ、ぼくらはまったく今とは違う地平に立っていただろう。もしかしたら、日本に帰って結婚でもしていたかもしれない。


 でも結果には原因がつきものだ。ぼくらはアメリカ縦断の旅をして、もちろんタイキやヨウコもいて、多少の無理もした。でもまさかユキが流産してしまうなんて思わなかった。彼女はショックを受けたし、ぼくだってそうだった。それで、ぼくらは立ち直ることができなくなった。ぼくらはまだまだ若かったし(すべてを若さのせいにするつもりはないけど)、あらゆることを甘くみていたのかもしれない。いや、何が甘くて何が辛いかさえわかってなかった。


 本当はユキだっていつまでもアメリカにいるつもりはなかったと思う。だけど人には人の事情があるんだ。そう彼女には彼女の事情があり、結果としてアメリカにとどまった。そしてぼくはと言えば、アメリカを立ち去った。まさか再びアメリカに戻ってくることになるとは思わなかったけど。ぼくはユキと別れ、タイキやヨウコにも「サヨナラ。」して、日本に戻った。当然、そこには日本的な秩序と現実が待ち受けていた。アメリカにはアメリカ的な自由(またはアメリカ的なDream)があるのと同じように。


 日本に帰ってぼくはアルバイトもしたし、一時は就職さえした。新たに始めた音楽、バンド活動も順調だった。そんなときヨウコからの手紙があって、そこには不安定なユキの病状が記されていた。「もどってきて。」とヨウコが書いていたのは、はたしてユキの言づてだったのだろうか。ぼくは迷ったあげく、戻らなかった。いや戻れなかったのだ。どちらにしても同じことだ。でもそれからぼくは彼女の夢を見たし、苦しくなって眠ることもできなくなった。結局、ぼくはお金を貯めてアメリカに飛ぶことにした。


 しかし帰ってきたアメリカでは全てが激変していた。ほんの1年かそこいらで事情が変わってしまった。911のテロがあり、厳戒態勢のアメリカは住みにくい街になっていた。あの自由でのほほんとしたニューオリンズが(もちろんそれまでにも殺人事件はあったけど)、第一級の殺人の街と成り果てた。そしてユキは行方をくらました。ヨウコはユキの自殺未遂の現場を見ていた。「死んだかと思った。」という彼女の話を聞いて、ぼくは血の気がひいた。そして罪悪感を覚えた。「あんたのせいじゃない。」とヨウコは言ってくれたけど。


 それからしばらくすると、メキシコに行っていたタイキが戻ってきて、そこから新しいアメリカが姿を見せ始めた。いやその前からじわりじわりと見せつつあったアメリカの裏の姿。それがようやくぼくにも認識できたというだけのこと。日本で感じていた閉塞感が、最初ここでは自由に感じられた。だけど自由の裏に何があるかといえば、それは責任であり貧富なのかもしれない。どうしようと自由、だけどそれはあなたのせいですよ、というわけだ。「シビアだな。」とぼくが言うと、「それがいいんだ。」とタイキが笑った。「で、ユキはどこに行った?」と奴は聞いてきたけど、それはぼくにだってわからなかった。


 そしてアートスクールに行きはじめていたヨウコの紹介で、ユキと出会った。落ち込んでいたぼくは、純粋な目をした彼女を見て救われた。何よりアメリカ的なシビアさに同じように苦しんで、しかもそこで頑張っているユキを見て励まされた。そしてアジア的な優しさを持った彼女のホスピタリティによって、ぼくは少しづつ上昇していくことになる。で、タイキが言うんだ。「それを動物たちに返したらどうだ。」意味がわからなかった。いや、意味など初めからないのかもしれない。「ただ行動しろ。」と。




そして津波の後に


 戦争?いやおれは戦いたくないんだ。そら、じいさんやとうさんに言わせたら「おまえの戦っているものは、戦争なんて言えないぞ。」ということになるのかもしれない。でもそれはたしかに戦争だった。そして戦争を潜り抜けてきたものを待つ現実は、思っている以上に過酷だ。「なにブツブツ言っている。」と首のないKが笑う。首がないくせに。いやいや笑い事じゃない、この船から抜け出すにはどうしたらいいんだ。「そんなのは無理ですよ。」とハリオが笑う。「無理って言うな。」と首のないKが怒るフリをしたけど、それは的を外したダーツのように下に落ちるだけだった。テリーとマークはマリファナをおれに差し出す。いや、それも戦争に必要なことかもしれない。



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